第四楽章‐1:アルゴリズム
今日はクイズつきです。
簡単かもしれませんがどうぞ、お楽しみください♪
第一問:ふくろうのおなかにあるいろは?
はい、楽勝。
第二問:クラリネットこわしちゃった、のうたで一つだけ出る音は?
……あ、楽勝。
第三問:朝は4つ、昼は2つ、夜は3つ、これは?
うわ、楽勝。
第四問:冥王星が太陽系からはずされたのは何年?
はい、楽勝。
第五問:首都花柳の旧名は?
はーい、楽勝。
第六問:ギリシャ神話のアルテミス、別名は何の女神?
簡単、楽勝。
第七問:ここから四問前の答えは?
え?!……………ら、楽勝。
とこのように続いたオンラインクイズ。
クロは難しい問題を全て解き、最後の問題に直面していた。
第24△1問:ソノ答エハ
仲間外レヲ探セ
クロが初めて問題の前で止まった。
おそらくこれが秋元珠理の暗号。
ヒントは仲間外れ。
つまり今あまり使われない簡単なアルゴリズム。
なぞかけか?
違う。
これは…………。
「やはり……解けないのか?」
「あ?お前が犯人だな?」
露木がタイピングを音声化していた。
集中しているクロにとっては邪魔者でしかないが。
これが誰にも解かれず、人も殺した問題。
「解けないなら…」
クロがイライラして歯を食い縛った。
「黙ってろ!!」
露木のタイピングが止まった。
「俺が解いてやるから黙って見てろ!次喋ったらバグらせるぞ」
クロは考えた。
ひたすら頭を回転させ、あらゆる知識を引っ張りだした。
そしてひらめいた。
その時、露木の部屋に生徒会の芦屋と風紀委員の安西が入ってきた。
「露木光!あなたを殺人容疑で逮捕しま」
「いいからマジで黙ってろ!」
芦屋はパソコンを覗いた。
「黒猫?不正アイコンじゃない」
クロは一切視線をそらさずに怒鳴った。
「そいつの逮捕も延長!俺が解くまで待ってろ!」
クロは問題を解きはじめた。
* *
午後10時41分。
アルニカは正直、迷っていた。
ジュリの仮面はウィルスそのものだった。
真っ黒に染まった物体からは、ジュリは見当たらない。
亡霊アイコンであるために、取り込まれてしまったのだろうか。
戦ったほうが良いのか?それとも救うために尽力したほうが良いのか?アルニカは必死に考えていた。
戦ったら、死んでしまうのだろうか。
首を横に振った。
「ジュリさん助けないと!絶対連れてくんだから!」
大きな銀の音叉を出し、精一杯震わせた。
ウィルスに向かって叩きつけると、まるで液体のように黒いウィルスが飛び散った。
その一滴一滴が刃のように尖り、アルニカを目掛けて飛んできた。
音叉だけでは庇いきれず、いくつか切り傷を受けた。
流れるほどではないが、地味に痛い。
「クロちゃんきっと問題解いてるだろうし…」
ウィルスに詳しくはないアルニカは少し距離を置いた。
どうすれば?
そう考えていた時、黒いウィルスからジュリの金髪がちらと見えた。
ハッとした。
まだ中に在る!
「頑張れば…できるかも」
アルニカはまた音叉を精一杯震わせた。
黒いウィルスのど真ん中に音叉を突き刺した。
黒い液体が飛び散り、奥にジュリが見えた。
真っ白な肌に蒼い瞳、そこから流れる大粒の涙、アルニカは手を伸ばした。
「ジュリさん!手を!!」
尖った黒い液体がアルニカを突き刺す。
目を瞑ったが、アルニカはジュリを何度も呼んだ。
うまく届かない手をさらに伸ばす。
そして遂に彼女の小さな手をつかんだ。
ぐっと強くつかみ、引き上げようとした。
しかし、ウィルスの引き込む力も強く、アルニカさえ引き込みそうだった。
「……退けよこのバカ野郎!!」
アルニカが叫んだ一瞬、ウィルスが大きく飛び散った。
一気に引き上げられたジュリは、アルニカと一緒に地面に叩きつけられた。
アルニカはすぐにジュリを起こし、一つに集まるウィルスを見上げた。
「アルニカ!きっともう時間が無いわ!」
アルニカは驚愕した。
ジュリの体が透けはじめていたからだ。
彼女の後ろにある景色がうっすらと見えた。
しかし、まだ触れることはできるようだ。
アルニカはジュリに背を向け、屈んだ。
「乗って!」
「でも」
「早く!」
涙でぼろぼろのジュリは真っ白な袖で顔を拭った。
素早くアルニカの背に乗ると、彼女はすぐに走り出した。
後ろには黒い液体ウィルスが追いかけてきているからだ。
地面を鋭く突き刺してきた。
それを避けながらアルニカは走り抜けていく。
クロが残した足跡を見つけ、ひたすら走った。
急げ。
走れ!
* *
午後10時53分。
クロは電脳上にたくさんのアルゴリズムを浮かべていた。
露木や芦屋達にはちんぷんかんぷんなアルファベットの列や数字の列、全てをクロはパズルでも解くかのように動かし、呟いていた。
そして一つの答えを導きだした。
「答えは“J”」
誰も予想しなかった答えに唖然する三人に対し、問題はすっと溶けるように消えた。
露木が震えながら言った。
「正………解……?」
クロが鼻で笑った。
「楽勝」
苦戦してたくせに。
芦屋が心の奥底で呟いた。
クロはふと今までの道を振り返った。
アルニカが来ない。
そろそろ来てもいい頃なのに。
何をしているんだ?
何かあったのか?
さらに逮捕は延長された。
* *
午後10時55分。
アルニカはひたすら走っていた。
しかし、大問題に直面していた。
この黒いウィルスをゲームファイルに侵入させるのは危険なのである。
中にはクロがいるからだ。
アルニカはファイルの入口でジュリを下ろし、音叉を構えた。
「行って」
「駄目よ!アルニカが死んでしまう!」
「会いに行くんでしょ?!早く!」
そう叫んだ瞬間、黒いウィルスの真上から大量の水が落ちてきた。
アルニカは咄嗟にジュリを背中で庇った。
五感ネットワークのため、背中に冷たさが伝わった。
水を被ったウィルスは大きな声で唸った。
アルニカの目の前に青い花びらが小さく舞った。
「大丈夫?アルニカ」
アルニカはその時、あり得ないものに出会ってしまった。
水色の髪と瞳、胸には青い布を巻き、その足は魚の鱗がきらめいた。
「……人魚」
それ以上言葉は出なかった。
美しい人魚が宙に浮いていたのだから。
人魚はクスクスと笑って電脳の空をふわりと游いだ。
その人魚の周りには青い花びらがいくつも舞っていた。
「この水で浄化したからもう心配無いわ。さぁ、行きなさいアルニカ」
アルニカは何が何だかわからなかったが、もう一度ジュリをおぶった。
「あ、ありがとう!あなたは……」
「ウィンディーネ。一応生徒会よ♪」
「げ」
アルニカは一歩退いたが、ファイルに入る前に振り返った。
「ウィンディーネ!」
さらにウィルスを浄化しようとしていたウィンディーネが手を止めた。
「ありがとう!」
ウィンディーネが微笑むと、アルニカはファイルに突っ込んだ。
問題の扉は全て開かれ、クロが解いたことを知る。
少しホッとする。
ジュリがその顔を見て微笑んだ。
「そのパートナーさんが好きなの?」
アルニカが顔を真っ赤にした。
少しスピードが落ちたが、また元に戻った。
「違う違う!そんなんじゃない!」
「大丈夫、きっといつかその人にピーンとくる時が来るから」
アルニカはジュリをちらと見て微笑んでいるのを見た。
「ピーンと?」
「そ、ピーンと♪それが恋のはじまり」
アルニカは口をへの字にして首を振った。
「覚えとこ!ジュリさん、まだ大丈夫?」
「ええ……」
少し弱々しくなった声は、アルニカのスピードをさらに上げさせた。
長い道を走り続け、ついに黒くて小さな影を見つけた。
「クロちゃん!!」
「アルニカ!」
午後11時03分。
やっと合流したアルニカはジュリを下ろした。
ウィルスに刺されて血を流すアルニカに一瞬慌てるも、クロはジュリを案内した。
現実世界の画面が大きく映されていた。
そこには露木光、芦屋千代、安西潔子がいた。
芦屋を見てギクッとするアルニカ。
バレないよね?
しかしそんなことを考えているような暇はないのだ。
ジュリは画面に手をついた。
涙をぼろぼろと流しながら。
一方、現実世界の露木にはパソコン画面に異変があった。
アルニカとクロしか見えないのだ。
「……見えない」
これほどのショックはなかった。
亡霊アイコンはやはり見えないのだろうか。
ジュリが泣きながら歯を食い縛る。
「光さん……」
少し考えていたアルニカはひらめいた。
ジュリの肩を叩き、右手を出した。
クロが首をかしげた。
「ジュリさん、私の手をつかんで」
何で、とジュリが聞くとアルニカはまた強気な笑みを浮かべた。
クロは無性に嫌な予感がした。
「私に憑依しなさい」
全員が絶句する一言だった。
*答え合わせ*
#1
くろ
#2
高いド
#3
人間
#4
2010年
#5
東京
#6
月の女神
#7
人間
クロ:と答えはこのようになる。
最後の問題は次回に回すからな!
アルニカ:私、全くわからなかった。
クロ:あんたのその頭じゃ……ゴボッ!!
〔クロが踏まれる〕
アルニカ:どんな頭かしら?きっちり説明してもらいましょうか?
クロ:ひぃぃぃっ!ごめんなさいでした!