表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルニカ交響曲  作者: 結千るり
18/110

序曲:喧嘩無視の青年

俺はいつも一人だ。

周りはわざわざ好んで近づかない。

恐いから。

世界のはしっこで一人座り込んで、流れる人の波を見る。

周りには何も寄り付かない。

空気さえ、微生物さえ、細菌さえ、寄り付かない。

だから風邪さえひいたことない。

そこに入った奴はもがき苦しんで死ぬ。

恐れられて、道を全て決められて、未来を勝手に決められる。

だから何も来ない。

何もない。

だから俺は、夜に逃げた。

気ままに歩いて、いっぱいに背伸びをして、自由になる。

世界のはしっこで俺は少しの間、自由になる。

でも退屈なことに変わりはない。

時計を見ていると退屈を実感する。

だからあまり見ない。

全く面白くない。

夜の自由も、どうせ一人だ。

そんな夜。

俺は正義のヒロインに出会った。

小さな、お姫様に。


突然ではあるが、最近ぶっちゃけ暇だ。

ため息を無限につける。そして時計の秒針を真っ黒な瞳が追う。

刻々と1日の終わりが近づく。

午前10時32分。

俺はあるレストランの窓側の席に座っていた。

テーブルの上には食べ終わったハンバーグの皿と半分残った水のグラス、そして真っ白無回答の宿題プリント。

「なんか面白いことないかなー」

と言った瞬間、外で大きな爆発音がした。

でも気にしない。

面白くない。

何か、もっと面白いことはないかな。

黒いノートパソコンを開き、電源を入れる。

そうしている間にレストランにいた客は外の爆発を見に行った。

こうやって野次馬というものができるのだ。

そんな馬鹿には付き合っていられない。

もっと簡単に知ることができる。

パソコンの起動が完了すると俺は指をキーボードの上で滑らせていく。

たしか監視カメラがあったな。

と思いながら、パソコンの画面にはレストラン前の爆発現場の映像が映された。

「ほらね」

野次馬になんてならなくても状況を知ることができる、と鼻で笑う。

どうやら一人青年が暴走したようだ。

珍しくも黄緑色の髪をして、左の額に二つ丸い傷がある。

血が少し流れていて生々しい、かつ痛々しい傷だった。

……………あんまり面白くない。

日常茶飯事だ。

俺は映像を閉じ、パソコンを閉じた。

すると後ろの席で誰か立った。

ちょうど真後ろに背中合わせだったので振動が伝わった。

「うるさい」

という小声と舌打ちが聞こえた。

レジに向かったのはセーラー服の少女だった。

黒に近い桃色の髪を少し二つに結び、それなりのスカートの短さ、白いルーズソックス。

「止めときなよ」

少女は俺の声に止まった。

振り向いた顔は幼げで、吹き出しそうだった。

「何で」、というかと思えば、桜色の地味なメモを取り出し、何か書いた。

〔何で〕

喋れないのか?

……………何でって、そりゃ。

「すぐに警察来るし、あんたが行かなくても」

言葉を切った。

少女はレジにちょうどの金を置いて店を出た。(のだろう)

俺の前にメモが一つ。

何で、は二重線で消されていた。

〔そういった傍観者大嫌い〕

初対面に嫌われた。

今日は血液型占いできつねさん一位だったのにな。

面白い。



    * *



午前10時38分。

椿乃峰学園女子高等部一年、美咲歩海は鬱陶しい野次馬を前に片足で思い切り地面を踏んだ。

美咲のいる地点から波紋のような衝撃が広がった。

まるで地面が水面になったかのように揺れた。

野次馬が一斉に道を開けていく。

美咲が中心へ進もうとした瞬間、見慣れない青年が勢い良く彼女とぶつかった。

思わず尻餅をつく美咲を横切り、青年は人の海へと消えていった。

はずなのだが、青年の周りから人が一気に退いた。

黒いワゴン車が何台か止まり、武装した電子警察が次々と銃を構えた。

彼は嘲笑うかのような顔で、片足で思い切り地面を踏んだ。

オレンジのレンガ畳がバリバリと割れ、地面に亀裂が走った。

野次馬が悲鳴とともに亀裂を避ける。

ワゴン車のガラスも割れ、警報を鳴らす。

美咲は立ち上がり、青年の様子を改めて伺う。

ワゴン車から一人、白衣姿の女性が現れ、青年に近づいた。

「さっさと来なさい、あまり手間をかけたくないのよ。」

「失せろ」

眉間にしわを寄せた青年は少しふらつき、じっと女性を睨み付けた。

美咲は考えた。

今、この野次馬ばかりの路地で、先ほどの地割れ的何かと銃乱射の戦争が始まったら、大変な被害になる。

いや、それどころではない。

おそらく一般人を大いに巻き込む大戦争が始まってしまう。

そのうちに白衣の女性は武装した電子警察に撃つ合図を送ろうとしていた。

青年も身構える。

「そこまでェ!!」

その怒鳴るような大声は野次馬と戦闘体勢の彼らを完全静止させた。

黄緑青年は面倒くさそうな眼で、美咲は馬鹿を見る眼で、遠くにいる黒髪青年は傍観者気取りの眼で声の主を見つめた。

白いTシャツに筋肉のついた褐色の肌、よく磨かれた白い歯をきらりと輝かせ、彼は電子警察の前にどっかりと現れた。

坊主と短髪の間のような髪が自然に茶色く見えるのはおそらく日焼けによるものだろう。

何故かその肩には足腰の悪そうな老人がちょこっと乗っていた。

「何の騒ぎかは知らんがこのご老人は道を通りたいのだ!」

肩から下ろされた老人はゆっくりと礼をし、ゆっくりと人混みへ紛れていった。

「お前達!何をこんなに騒いでいるのだ?!」

それ以前にお前誰だよ、と美咲は内心つっこんだ。

すると、

「オレは露木光!」

何わざわざ自己紹介してんのさ、と黒髪青年が内心つっこんだ。

「誕生日は8月4日だ!」

誰も聞いてねェよ(失せろ)、と黄緑青年が内心つっこんだ。

「箸の日だ!」

『知るか!』

その場にいた野次馬が声を揃えた。

その調子でごちゃごちゃしてきた現場で、美咲は一瞬で黄緑青年のか細い腕を引いた。

一般人が邪魔で撃てない彼らを背に二人は野次馬の海を抜けた。

「テメェ何者だ」

「あんた逃げなさい」

黄緑青年は未確認物体を見るように眉間にしわを寄せた。

「実験台の気持ちはわかるから」

「テメ……!何わかったようなく」

連続した銃声、電子警察の一人が野次馬を抜けたようだ。

弾はこちらに一直線だった。

美咲はスカートにあるカラビナポーチから音叉を取り出そうとしたが、間に合わない。

しかし、鈍い金色の弾丸は青年の前に立っていた美咲の目の前で止まった。

というより、水に入ったように遅くなり、ふわりと浮いていた。

弾丸はすぐに音をたてて地面に落ちた。

撃った電子警察はとてつもなく動揺している。

美咲はとにかく青年を逃がすべくちらと振り向いた。

「悪さしたら私が潰しに行く」

「ケッ!やってろボケが」

そう呟いた青年は町の向こうへ走っていった。

それと入れ替わるように声が飛んだ。

「その自転車新品なんだけど、弾が一発でも当たったら弁償しろよ?」

レストランから黒髪青年が大きめのバッグを下げて歩いてきた。

「お前!………じゃあ今の弾丸は」

「俺」

美咲は自転車に跨る青年のハンドルを止めた。

先ほどの電子警察がまた撃とうとしたので、震わせた音叉を投げて銃もろとも手を壊した。

彼は悲痛な叫び声をあげて跪いた。

「わーお」

美咲は鼻を鳴らした。

「で、お前何者?」

「あ、俺?んー……宿題やりにきた高校生。進まなかったけど」

「誰がんな事聞いたんだよ」

青年は顎に手を当て、美咲を見つめた。

黙ること3秒、美咲は耐えられなかった。

「なんか喋れ」

「うむ」

青年の手が美咲の手前に伸びた。

美咲が抵抗する間もなく彼の手は右のリボンを解いた。

リボンは地面に落ち、結ばれていた美咲の髪は肩下に垂れた。

片方だけアルニカヘアーだった。

「ちょっ……!!」

「おそらく両方下ろすと……」

「黙れこの野郎…!」

美咲の顔はみるみる真っ赤になり、隠すようにだらりと垂れた髪をぐしゃぐしゃと手中に収める。

青年は薄ら笑いしてペダルに足をかけた。

「襟澤称。あんたは」

「みっ……美咲ぁぁ歩海!」

動揺する美咲を笑いながら青年襟澤は自転車をこぎはじめた。

美咲は彼の背を見ながら地面に落ちたリボンを拾った。

「何だあの野郎め」

「誰のこと?」

背後で白衣の女性が囁いた。

振り向くと野次馬達が全員倒れていた。

「一体何を……!」

「少し寝てるだけよ。あーあ、全く!せっかく見つけたのにまた振り出しね」

女性が合図をすると電子警察は次々にワゴン車に乗り込んだ。

美咲の目は女性が首に下げる社員証を確認し、舌打ちした。

「あなた研究所の人?町まで荒らして何やってんの?」

「あーら、あれが悪いのよ?ご主人様の言う事聞かないから」

美咲の微かな歯ぎしりが聞こえた。

「人間を物扱いすんじゃねェ!!」

彼女の怒鳴り声は全ての電子警察を倒れさせ、女性に耳を塞がせた。

しかし女性は鼻を鳴らし、美咲を片手で突き飛ばした。

バランスを崩し、座り込む美咲に彼女は背を向けて歩きだした。

「何その台詞。そんなにあの実験動物が気になる?ま、これからなんとしても捕まえるから失礼するわ」

吐き捨てるように言われた美咲は歯を食い縛ってワゴン車で遠ざかる女性を睨んでいた。

しかし、その緊張感はあっさり抜け、すぐ地団駄を踏んだ。

「あり得ない!いざって時に何にもできてないじゃない!」

午前10時50分。

美咲はその後、イライラしながら救急システムを呼び、その場を去った。

この時は予想なんてしていなかった。

この30分にも満たない出来事が、長い一日を引き起こすきっかけになる事を。



    * *



最近、あるオンラインゲームが流行っているらしい。

暗号解読をしながらゲームを進めていくロールプレイングゲーム。

最初は小学生でもできるなぞなぞだったりするのだが、段々それは大人でもわからなくなってくる。

しかし、一度でも間違えると罰ゲームが表示されるらしい。

罰ゲームが実行されない場合、その接続端末に大量のウイルスが送り込まれ、再起不能となる嫌なゲームだ。

にもかかわらず、人々はこのゲームに参加してしまう。

そのため、今再起不能になる端末が続出している。

誰もが問題を解けず、罰ゲームをハッタリだろうと実行しないのだ。

専門家は言う。

これは、花柳内の“ハッカー”がつくったものである。


皆様お久しぶりです。

第二章開幕です!

また喧嘩です。

よろしくお願いします☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ