第四楽章‐1:アルニカの推理
羽賀優奈
椿乃峰学園女子高等部三年。
生徒会副会長。
普段水無瀬と組んでいるお転婆。(いいだろー♪)
かつ、お馬鹿。(なんだトゥ!)
能力としては走るのが速く、瞬発力、動体視力に優れていること。(陸上部のエースなんだぜぃ☆)
勝手に紹介しないでくださいね。
あまり知られてはいないようだがスポーツ推薦で大学が既に決まっているらしい。
(彼氏はそこの先輩なんだー)
勝手にプライベート紹介しないでください!
これ以上何喋るかわからないのでこれにて。
午後10時50分。
アルニカ振り向いた先にいたアイコンに目を丸くした。
深緑色のポニーテール、やけに白い肌、すらりとした長身、そこには美咲歩海のクラスメイト、浜風莉子が立っていた。
闇夜に目立たない黒のジャケットにミニスカート、ブーツと全身黒をまとった浜風は声高らかに笑った。
「あなたがアルニカ……私の邪魔をした正義のヒロインって奴ね」
「浜風さん…」
浜風がアルニカに名前を言われて目を丸くした。アルニカがハッと口を塞ぐ。
「何で私の名前知ってるの……?」
浜風はアルニカが美咲である事を知らないのだ。この反応は当たり前である。
簡単に例えれば、町中でいきなり全く知らない赤の他人に名前を呼ばれるという奇妙な出来事なのである。
アルニカは決して他人に正体をバラしてはならない。
ばれたらアルニカとしてもう二度と電脳世界を回れなくなる。
つまり、電脳音速散歩が出来なくなるのだ。
それは嫌だった。
アルニカはどうにかして誤魔化す受け答えを考えた。
しかし、
「まぁいいや、調べたんでしょ」
意外な開き直りにアルニカも驚きを隠せないようなホッとしたような感じだった。
「でも生徒会より早くバレるなんて思わなかったわ。どこまでバレてるのかしら?」
アルニカは口の端を上げた。
「90パーセント前後。」
* *
「ドップラー……?」
「ドップラー効果よ!時空領域は発生した直後に他の場所に遠ざかってるのよ!」
ドップラー効果
波の発生源と人との速度の違いによって、波の周波数が異なること。
救急車や消防車が通り過ぎる際、近づく時は高く聞こえ、遠退く時は低く聞こえる。
原理としては近づいてくる時は波の振動が詰められて高くなり、逆に遠ざかる時は波の振動が伸ばされて低くなる。
(〔Wikipedia参照。見てみるべし)と自分の知能と組み合わせて説明した事を誇示する美咲歩海〕
電話の向こう側のクロは救急車の例を説明されてようやく理解した。
「でも実際は時空領域が全部吸い込んでるんだぜ?どこかに帰ってきてるわけでもないし」
「でもあの時空領域はすぐになくなってしまって未完成、吸い込めたとしてもあまり保たないはず」
だから?と聞くクロに美咲は少しイラッとしながら答えた。
「つまり、相手は完成を急いでるはず。時空領域に閉じ込めたものを永久に閉じ込めるために」
「そりゃマズいな。あ、大々的な成果見た?」
「は?」
美咲は携帯電話を耳から離し、受信メールがあるのに気付き、開く。
そして驚愕した。
添付してある写真に思わず目をぱちくりとさせた。
写っていたのは監視カメラの一枚だった。
その人物はあまりにも身近な浜風莉子だった。
「嘘………!」
「ん?知り合い?」
美咲は電話を耳に押しあてた。
「隣の席」
「そりゃ大変だ」
美咲の声が止まったままなのでクロが少し心配するように声をかけた。
美咲は目をキョロキョロと動かして頭を回転させていた。
「……時空領域は完成してるのかも」
「は?」
写真に写った浜風の表情は自信満々の薄ら笑み、協力者(仮定)を殺害した帰りにこんな表情をするものだろうか。
高畑に協力してもらうことがなくなったから、つまり時空領域が完成して起動するだけの状態になったから殺害したのではないだろうか。
* *
午後10時51分。
アルニカは浜風に残り10パーセントのわからないことを聞こうとしていた。
がしかし、
「私も大掃除は最後まで終わらせたいの。こんな時に邪魔はさせない!!」
「大掃除?」
浜風は高笑いしながら右手に大きな針のようなものを出した。
「そうよ………!この数年で成長しすぎたこの電脳世界を、私がリセットさせるのよ!!」
アルニカの返答を待たずして浜風は針を構えて駆けてきた。
アルニカも大きな音叉を構えて針を弾いた。
「完成した時空領域はどこにあるの!!」
「すぐにでも起こしてあげるわよ」
浜風の顔が異常ににやけたのが見えた。
* *
午後10時53分。
クロはピンクロリータ気味自動アイコンに圧勝していた。
自動アイコンはその場に横たわり、同じ言葉を繰り返していた。
「検体コードヲ入力シテ下サイ。プログラムヲインストールシ直シテ下サイ。繰リ返シマス……」
何の外傷もない自動アイコンに目も向けず、クロはさっさとそいつを横切る。
「相手が悪かったな。さて、アルニカはどこかなぁ………?」
自動アイコンはもう動けないはずだった。
なのに自動アイコンの真っ白な手がクロの足をつかんだ。
「ちょ」
「最終プログラム起動。暗黒領域ヲ発動シマス。衝撃ニ備エテ下サイ」
「は?」
すると急に自動アイコンの身体が体内から何かに引きずり込まれているかのようにぼこぼこと陥没し始めた。
まるで紙風船を指で押すように、折り紙でできた箱を握り潰すように、自動アイコンは何かにのまれた。
そしてその引きずり込む力はクロのアイコンにまで及んだ。
自動アイコンの手がクロの足を離さないのだ。
「おぃ!離せよ!洒落にならねぇじゃん!!」
もう自動アイコンに喋るプログラムはなかった。きっと何かにのまれたのだろう。
そう焦っている間にもクロは自動アイコンの手が足をずるずると何かに引き込んでいく。
「おいおい、こりゃ…………時空領域じゃねーか」
自動アイコンが一瞬で吸い込まれ、吸い込んでいた何かを目にしたクロはそう言った。
そこにあったのは真っ黒に渦を巻く大きな物体だった。
恐ろしいまでに大きな爆発音とともに電脳の空に真っ黒な時空領域が浮かんだ。
それを少し遠くにアルニカと浜風が見つめる。
「あんたの連れもお終いね」
浜風の高笑いにアルニカは血相を変えた。
「……クロちゃん?」
「これで………私の暗黒領域は完成よ!!」
アルニカはどんどん巨大化する暗黒領域を見つめた。
しかし浜風が笑い声を止めた。
「ちょっと、どうして成長が止まらない?!」
暗黒領域が辺りのモノを吸い込み始めた。
しかしその暗黒領域の大きさは電脳世界の空を覆い尽くすくらいだった。
建物も、人も、何もかもを吸い込んだ。
「アルニカ!」
その声にアルニカは振り向いた。
クロが傷だらけで走ってきたのだ。
「クロちゃん?!」
「アルニカ、無事か?!」
「それは私のセリフだ!!一体何があったの?!」
クロは自分の目の前に暗黒領域ができたのを一切言わず、色々あってな、としか言わなかった。
アルニカはクロをひょいと抱き上げ、頬をすり寄せた。
「わっ!!何すんだ、離せよ!」
「心配させた罰ね」
クロは前足を駆使してアルニカの腕から前足を出すことに成功した。
「それよりアレどうすんだよ」
アルニカはハッとしてクロを落とした。
クロがしりもちをついた。
それをそっちのけでアルニカは暗黒領域を見つめてへたりと座り込む浜風に駆け寄った。
「浜風さん!アレ止められないの?」
浜風は完全にショック状態で暗黒領域を丸い目で見つめていた。
「……止める気なんて無いわ……私はこれを楽しみにしてたのよ………!」
アルニカは絶えず全てを飲み込む暗黒領域を見、クロを見下ろした。
「ねぇ」
「何だよ」
「私の事信じる?」
クロは二回瞬きをし、アルニカを見上げた。
午後10時59分。
暗黒領域が完成した。