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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
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第三楽章‐2:大々的な成果

浜風莉子


美咲のクラスメート。

自宅に帰る帰宅生で、どちらかというとスポーツ派。

部活はバレーボール、勉強もそこそこで優秀にみえる生徒(何その言い方!)

そんなこんなで偽成績優秀者の浜風さんでした!(うぉい!何で偽よ!?)

午前0時40分。

灰色の電脳世界の中、アルニカは肩の傷の変貌に驚いた。

じわじわと焼け付くような痛みと、悪化していく傷口、能力者に対応した武器とはこの事だったのかと後悔した。

おまけに頭までぐらついてきてもう立つことさえ難しかった。

「アルニカ?!」

「ん………大丈夫…」

「嘘つけ!さっさとログアウトしろよ!」

「あんたの報告をまだ聞いてない!」

息を切らしてアルニカが言った。

「いい加減にしろよ!!」

クロは奥歯を噛み締めるようにして怒鳴った。

アルニカが目を丸くして顔を上げた。

そうしている内にもアルニカの傷は悪化していく。

「このまま悪化して現実世界に戻ったらただのケガじゃ済まないんだぞ!」

「でも」

「でもじゃない!」

クロは面倒臭そうに目蓋を落とし、

「アドレス渡せ」

「……何言って…」

「俺の大々的な成果送ってやるから」

アルニカは少し黙り込み、情けないという表情で小さくうなずいた。

「…でも寮までは戻らなきゃ外にログアウトしちゃうから」

「じゃ俺の目の前でログアウトしてたのは?」

「……どろろんっ!……的な……?」

「ホントに不便な正義のヒロインだな」

クロがそう言った瞬間、アルニカの傷の回りに見えない囲いができ、悪化が止まった。

痛みも消え、冷や汗をかいたアルニカがきょとんとしていた。

「一時的でしかないから後の痛いのは知らないぞ」

「一体何したの」

クロは仕方なく簡潔に説明した。

「俺の能力は一定の区間を無重力にしたりすること。ただしそんな長くは保たないから急いで帰れ、30分後にはこの大々的な成果を……」

「わかった。じゃ明日ね」

「最後まで聞け!!」

クロはため息をつき、手当ては頑張れよ、と残してログアウトした。

残されたアルニカが何かを言おうとする前にクロは消えてしまった。

アルニカは痛みが一時的におさまった腕の傷を見る。

見えるようで見えない空気の囲いがアルニカの傷を守っている。

〔一時的だったっけ〕

アルニカは真っ直ぐ女子寮へ戻り、真っ暗な部屋に降り立った。

美咲歩海はすぐに腕を見た。

「まだ、守られてる」

クロがつけた無重力の囲いは未だに美咲の傷を守っていた。

美咲はベッドの下から救急箱を取り出し、ベッドに座り手当てを開始した。

しかし、その手は小さくパチッと弾かれた。

すると無重力の囲いが消え、病院で受けた時より少し傷口があらわになった。

急に、電脳世界ほどではないが腕を切られたそれなりの痛みが美咲の身体中を痺れさせた。

明日は土曜日。

2日も休日があればさすがに痛みも消えるだろう。

と勝手な推測をしながら美咲は青い機械からコピーしたカルテのデータのことを思い出す。

………………。

明日にしようか。



* *



午前8時28分。

生徒会芦屋千代は他の役員と一緒に生徒会会議室にいた。

今回提供される情報がだいたい理解できていた芦屋は少し緊張していた。

時空領域と関係しているのを確実に知っているのはきっと芦屋だけなのだ。

《……時空領域は………完成する》

水無瀬や羽賀は高畑とは一切話さずして死なれたそうで、実質彼と言葉を交わしたのは美咲と芦屋のみである。

全員が席に着いた。

会議室はまるで大学の教室のような段差ごとに机がある大きな部屋だ。

芦屋の隣には同じ書記の河南渚が座っていた。

「芦屋ちゃん、今日はやけに深刻な話題みたいだね」

「へ?」

河南が小さく見えないくらいに指差した方向を見ると、風紀委員会の金の腕章をつけた女子生徒が何人か座っていた。

風紀委員会は通常、校内の生徒の身だしなみなどを担当しているが、生徒会のみでは手の回らない事件には協力する心強い委員会。

しかし、

「風紀ってみんな話しかけにくいってゆーか……」

「そうねー。でも協力してくれるんだし」

学校の治安が第一である風紀委員会は生徒に対しては全てが公平でなければならないため、少しでも身だしなみが整っていない生徒が話しかけようものなら事細かに注意される。

だからみんな必要以上は近づかないのだ。

入口でもらった資料に目を通した。

風紀委員会との確認のための“時空領域”についての資料がニ、三枚。

そして別件として高畑政一の経歴、能力、そして死因の資料がニ、三枚。

芦屋はもちろん高畑政一の資料を手に取る。

すると、

「皆さん揃ったようなので説明を開始します」

生徒会を担当する梁町先生が教壇に立った。

梁町先生は髪を下で斬新にお団子結びしたメガネの先生である。

顔立ちは綺麗なのにイマイチ格好が伴わないという、なんとも残念な人で有名だ。

「ではまず時空領域についての資料から…」

梁町先生から長い長い説明が始められた。

芦屋はそれを右から左へ受け流し、高畑政一の最後の言葉を思い出していた。

時空領域は既に何度も起きている。

完成する、ということは今までの時空領域は全て未完成ということである。

ただでさえ全てを飲み込む時空領域が彼の言ったように“完成”したら、一体どのようになってしまうのだろうか。

「…場所も時間も不規則で…」

電脳世界のみに起こる不思議な現象。

「…あとは質問がなければ次の件に移り…」


高畑政一、花柳第二中学三年生。

特に部活動には所属せず、専門選択科目で遺伝子操作を選考していたという少々物好きな極普通の生徒である。

死因は体内に空気を過度注入されたことによるもので、搬送から30分以内の犯行である。

証言から深緑の髪の女の看護師が時間外に点滴を入れ替えに行ったとわかったので、まずはその看護師を見つけだすことが先決である。

「電脳警察が既に協力体制をとって捜査を始めています。我々も捜査を開始します。質問は?」

ないようだ。

「では解散」

場の全員が素早く立ち上がり、次々と会議室を出ていった。

河南が芦屋を誘い、彼女らもまた会議室を後にした。

資料を手にやっと席を立った生徒会長花岡の背を梁町先生が呼び止めた。

花岡はもちろん振り替える。

「何でしょうか」

「ちょっと頼まれて欲しいんだけど、いいかな?」

花岡がこくりとうなずいた。

「実は山吹病院から監視カメラの映像が届くはずだったんだけど遅れちゃったみたいでまだ病院にあるらしいの、取りに行ってもらってもいいかしら」

「わかりました」

「せっかくの休日にごめんなさいね」

花岡は満面の笑みを返した。

「いいえ、花柳の人々を守るために生徒会に入ったんですから、職務を全うできるならどこへでも行きますとも!」

「ありがとう」

花岡は梁町先生に一礼し、会議室を出た。

梁町先生も部屋に誰もいないのを確認し、電気を消し、部屋の鍵をかけた。

午前9時09分。

生徒会、風紀委員会合同会議は終了した。



* *



午前8時30分。

美咲歩海は枕元の携帯電話の着信音にうっすらと目を開けた。

数秒後、その目はかっと開いた。

素早くベッドから跳ね起き、大きな窓の向こう側に広がる景色と鳥のさえずりをも無視した。

「寝すぎた!遅刻した!」

そして制服に手を伸ばした瞬間、ハッとする。

「今日休みだ!!」

まるで金ダライが頭上に落ちてきたような衝撃的な朝に美咲は床に膝をついた。

「あ……何か今日疲れた」

美咲は鳴りおわった携帯電話に手を伸ばした。

メールが来たようだ。

美咲の知らないアドレスからだった。

迷惑メールじゃないだろうな……と思いつつ読むと。


おーぅ、そろそろ起きたかー?

ちゃんと消毒したかー?包帯巻いたかー?

クロちゃんだよー


美咲は目を丸くして昨日の出来事ひとつひとつを思い出した。

「あ、アドレス渡したかも」

そうだ。

クロちゃんに調べてもらった成果を送ってもらうんだった。

がしかし、

メールを進めて下へ下へ行くが、報告の“ほ”の字さえなかった。

そして一番下へ行き着くと、



ゲラゲラゲラゲラ。

ムカついた?



と電話番号が書いてあった。

美咲は携帯電話をギリギリと握りしめ、ボタンを押した。

舌打ちしながら耳に当てる。

「お、早いな」

美咲にとっては朝を邪魔した忌々しい声が聞こえた。

「おい!!何も重要なこと書いて無いじゃん!!」

「何、おはようもないの……いい感じの朝コール期待してたのに」

「何が朝コールだ!!自分の成果がそんなに大々的ならさっさと教えろよ!」

朝から大声で怒鳴った美咲はハッとした。

あ、音波が………。

その瞬間、美咲の部屋が蹴破られた。

「何事ダァァァッ!」

「ひぃっ!」

思わず美咲は電話の終話ボタンを押す。

寮長の篠原ことはが部屋にづかづかと入ってきた。

「異常な怒鳴り声がしたぞ、美咲!!」

「いえいえ!あの、何でもないんです!休日と平日を間違えまして…………」

篠原が上から目線で美咲を睨む。

美咲は頬に冷や汗をたらす。

「そうか、今日は休日だ。じっくり休むといい。じゃっ!」

篠原はくるりとUターンし、蹴破られたドアをそのままに美咲の前から姿を消した。

「……え……このドアの修理代自費ですか………?」

するとまた携帯電話が鳴った。



朝から楽しい寮だな



楽しくねぇよ!!

そう返してやりたがった気持ちを抑え、美咲は深呼吸した。

するとまた……?

電話がかかってきた。

出る。

「もしもーし」

「お前……………」

美咲は携帯電話をミシミシ言わせ、その後我に帰って落ち着く。

「じゃ更に怒りそうだから俺の大々的成果を教えてやる♪」

美咲はベッドに座り、高畑政一のカルテのコピーに目を通しながら早くするよう促した。

「まず病院勤務者のリストだが、浜田って奴はどこにもなくってさ。研修生のリストも見たがいなかった。」

「それのどこが大々的なのよ」

「んでちょっと悪い事したんだわ」

美咲が眉間にしわをよせ、何?と聞いた。

「……監視カメラの映像データにクラッキング」

美咲は唖然した。


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