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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
104/110

第二楽章-1:波乱の?誕生日

少し遡ること11月2日。

襟澤称は国語の授業中、机に頬杖をついていた。

隣の席でハッカーでありクラスメイトである神宮雅俊が、出された問題を一応写している。

しかしやる気はないようで、襟澤の考え込む横顔を見ていた。

「エリー?」

「煩い」

「問題、当たるよ?」

「黙ってろ」

襟澤は机に突っ伏し、考えた。

美咲歩海のことである。

こんな時にまで思い浮かべてしまうのも、恋というものなのだろうか?

今まで全く興味のなかった感情にどうしていいのかわからないのが現状だ。

そして、今考えているのは、彼女の性格を分析したら、である。

何故そんなことを考えているのかというと、クラスメートの如月まりあの読む百合漫画からである。

ツンデレ=ツンケン×デレデレ

ヤンデレ=病んでる×デレデレ

というような、性格の略称を知った襟澤は、それを何故か美咲に当てはめようとしていた。

ツンケンはしているが、自分の前でデレたことは…………おそらく無い。

ではツンデレではない。

ケンカ姫ではあるが、デレない。

特に病み子でもあるまいし、ヤンデレでもない。

美咲はどういった性格なのか。

ツンケンはしている。

ツン………

ツン………

ふと隣を見ると、神宮がじっとこちらを見ている。

「何考えてんの?」

「何だっていいだろ」

「なんか最近変わったよな。エリー」

「変わった?あんたの頭よりはマシだろ」

ひどいな、と小さく笑いながら神宮が言った。

「夢中になってる時の顔、鏡で見たことある?」

「は?考えてる時とか?」

襟澤は顔を半分ほど腕の中に入れ、眠たそうな目で神宮を見上げた。

神宮がニヤニヤと笑っている。

「超かわいい顔してんだぜ?」

「………110番しなきゃ」

顔を埋め、また考えた。

お?

これはいいぞ。

あいつボロ泣き多いからな。

奴はツンボロだ。

ツン泣きか?

いや、ツンボロだ。

襟澤は立ち上がった。

「正に斬新!!元からある言葉から新しい言葉を作り出す!これぞ未開の領域だ!」

「………正解」

先生が黒板から目を離してチョークを落とした。

黒板には、著者が言葉への好奇心をなくさない根拠、理由についての問題が書かれていた。

当てた。

完全にまぐれ当たりだが。

襟澤はしまった、と冷や汗をかいた。

「あ、えっと、すいません。本当すいません」

「え?当てたのに?」

襟澤は席に座り直しながら、隣で腹を抱える神宮を教科書で叩いた。

また机に突っ伏し、赤らめた顔を必死に隠した。

ツンボロ。

なんとなく、いい感じ。

チャイムが鳴り響き、下校時間になった。

襟澤は大きなカバンを背負い、さっさと家に帰った。

部屋にカバンを置き、パソコンを起動。

チョコレート味のシリアルバーをくわえ、ツンボロ美咲を思い浮かべた。

人が泣いているのを面白おかしく表現するのは、少し酷くはないか?

「酷い奴だな、俺」

ごちゃごちゃしたカバンからポテトチップスの袋を取り、開けた。

さて、『アイドル計画』を始めましょう。





     *    *





11月4日。

午前10時12分。

襟澤は気分を変えてチーズ味のシリアルバーをくわえていた。

暗い中でパソコンの青白い画面が辺りを照らし、カーテンは閉まっていた。

そこへ、ゆったりとしたインターホンが鳴る。

ローラー付きの椅子に座ったまま、襟澤は部屋を出た。

ガラガラと音をたて、リビングの壁にある白い機械のボタンを押した。

相手を液晶から見ることができ、会話もできる。

襟澤はめんどくさそうに声を投げかけた。

「新聞とかならいらないですよ?そんなもんより速く情報得られますんで」

「どこが新聞屋に見えるのかしら?」

襟澤は画面を見て思わず椅子から飛び出した。

ドアをすぐに開け、ご立腹な表情の相手を間近に見た。

「どうも、新聞屋よ」

「……ごめん」

美咲歩海だった。

紺色のカーディガンを着た制服に音叉の入ったカラビナポーチを腰に提げ、両手を後ろに隠していた。

「さて、今日は何の日なの?」

「今日?何日?」

「4日」

「……………」

襟澤は首を傾げ、その姿に美咲は落胆した。

後ろに隠していた紙袋を襟澤に渡す。

「……おめでとう。今日は襟澤の誕生日でしょ?」

忘れていた。

誕生日でしたか。

襟澤は紙袋を受け取り、ちらと中を覗いた。

「俺ですら覚えてなかったのに。ありがとな」

「プログラミングとやらで寝てもいないみたいね。ちゃんと休みなさいよ」

「まるでお母さんだな」

「それとこれも。た、誕生日とか人のやったことなくて、とりあえず買って来ちゃって」

ともう一つ箱を渡した。

冷たい。

おそらくケーキだ。

しかし、重い。

「まさかホール?」

「ホール」

「何で手袋してんの?」

美咲は返答に困った。

現在、美咲は両手と右肩を火傷している。

あれから消毒して包帯も巻いたが、やはり目立つのでアリシアに買ってもらった茶色に白いリボンのついた大人な手袋をしていた。

「か、可愛いでしょ?」

「………怪我、酷いの?」

マズいマズいマズいマズいマズい!!!

帰ろう。これ以上ここにいたら必ずバレる。

「じゃ、私はこれで」

「はい、ちょっと待とうか」

襟澤にふと肩をつかまれ、帰ろうと踏み出した足を止めた。

右肩から電気のように痛みが走り、美咲は声をあげた。

「いっ………ハッ!!」

もう遅かった。

美咲が振り返ると、襟澤がため息をついていた。

左腕をつかまれ、玄関に無理やり上げられた。

押し付けられた扉の鍵を閉められ、ガチャンという音が恐いくらいに響いて聞こえた。

鍵に手を掛けたままの襟澤は、手袋をじっと睨み付けていた。

「で?手袋取ってもらいましょうか」

「ちょっと!」

「俺が取ろうか?右肩も痛そうにしてたろ」

美咲は青ざめた。

セーラー服は上から被る服だ。

このまま任せたら脱がされる。

それはマズい。

「と、取るわよ!」

襟澤の視線が目の前から来るため、美咲は目を伏せながら手袋を取った。

近い。

緊張する。

自然に頬を赤らめ、包帯で巻かれた両手を見せた。

「………その、プレゼントを選んでて………ウィルス退治しに行ったら………ジュリさんと同じ仮面のプラズマ能力アイコンに……攻撃打ち返して………?!」

美咲は言葉を切った。

襟澤が美咲の肩に凭れた。

ちょうど美咲の横に頭を置き、両手を下ろしていた。

「…………知ってたよ、出掛けてたのは……怪我したところも見てた」

彼の声は掠れていた。

「そのまま影響するのが自分だけだからって、怪我してまであんな無茶……」

「大丈夫よ、手袋してるんだから」

襟澤が顔を離し、美咲の両手を持ち上げた。

「一生残ったらどうすんだよ!」

「…残らないわよ」

「どこからそんな自信来るんだよ!」

美咲は目を丸くした。

彼は涙目だった。

初めて見る表情だった。

「軽症って言ったじゃん」

「でなきゃ心配するじゃない」

「軽症でも心配してたのに。それに二丁銃なんかと一緒に」

「見てたの」

「うっ…」

「え、じゃあ、私が何しに行ってたかも……?」

襟澤は首を横に振った。

それを見て美咲は安堵し、鞄からリボンの掛かった包みを取り出した。

「良かった!中身知ってたらプレゼントにならないものね!」

「プレゼント?」

「やっぱり男物って分からないわ。シンプルな方が良いって言ってたけど、私は妥協せずに選んだわ…………襟澤?」

包みを受け取った襟澤は、両目から涙を溢していた。

しかし本人にその自覚は無いようで、顔を上げても涙はそのままだった。

「いや、その……」

「まさか夏祭りと同じで初めて、とか無いでしょうね」

部屋が沈黙に包まれ、美咲は思った。

誕生日プレゼントが初めてのはずは無い。

では独り暮らしになってから、ということだ。

その先を推測する前に、襟澤は語りだした。

「双子って、自分を全部分かって欲しいって片割れに思うんだそうだよ」

「襟澤もそう思うの?」

「……要は、そう思ってた。なんか言葉にし辛い………分かって欲しさ…?」

「?」

「せっかくの誕生日に思い出したくないからプレゼント開けて良い?」

「忘れてたみたいだけど開けても良いわよ?誕生日プレゼント」

襟澤は包みを開けると、中から黒い手袋を取った。

甲の辺りにアーガイルラインと猫のシルエットがあしらわれていた。

襟澤の目がきらきらと輝き、美咲は口元を緩ませた。

「ぁ、ありがとう」

「いくら風邪を引かないからって防寒はしないとね」

「ヤバい泣きそう」

「ちょっと!これからケーキも…………あ、そういえば昼ご飯は?どうするつもりだったの?」

すると襟澤はきょとんとした表情で、首を傾げた。

こいつ、食べる気が無かった!

「シリアルバーがある」

「……明日もそれ食べるの?」

「まぁね。基本インドアだから」

「ずっと?……料理は?」

「あんま作らないし」

美咲は襟澤を押し退け、冷蔵庫に駆けていった。

ほとんど何もない。

調味料や生姜などはあるが、他は皆無だ。

生姜って。

冷蔵庫が泣いている。

美咲はカバンから財布を出し、目を光らせた。

「スーパーに行くわ!」

「は?!スーパー!?」

「任せなさい!!母に教わって基本何でもできるんだから!お前のために昼ご飯と特別に晩ご飯まで作ってあげるわよ!」

襟澤は驚愕した。

これから?

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