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アルニカ交響曲  作者: 結千るり
101/110

序曲:行方不明の少女

突然ではあるが、緊急事態だ。

現在、椿乃峰学園の一年生にしてトップクラスの能力を誇る鋼鉄の音姫は困惑していた。

濃い桃色のショートに少しのびた髪を二つに青いリボンで結んだ音姫は、首都花柳の大病院の精神科受付で困惑していた。

隣には金髪ロングの綿貫菜穂がいた。

音姫の名は美咲歩海。

何故、精神科受付にいるのかというと、ある約束を果たすためだった。


鼎梗香


山吹病院の潜入時に会い、梔子研究所の破壊に協力してくれた。

精神科の病棟にいる、とのことだったのだが、病室を言わずに別れてしまったため、受付で聞いてみたのだ。

しかし。

「鼎梗香さん、と言う方はこちらでは入院しておりません」

「何だとぅ!!」

いないのだ。

鼎梗香が。

入院すらしていない。

すると真後ろから管理人のブラン・ヴェルトが顔を出してきた。

「お困りですか?」

「うわぁっ?!」

「患者をお探しですか?」

「は、はい」

ということで管理室に来たのだが、管理人ブランからも。

「データベースには鼎梗香さん、という方はおりませんね」

「……そう、ですか」

「本当に精神科にいんのかよ?」

綿貫が聞くと、ブランは答えた。

「他の科も検索してみましたが、おりませんでした」

「じゃあ、どこに行ったのかしら」

三人は沈黙した。

美咲と綿貫は鼎には助けられた。

約束は守りたい。

「………カフェ、行こうか」

「うん、行こう」

そうして二人はカフェで紅茶とケーキを食べながら、病院での話をしていた。

周りは学生や主婦たちでいっぱいだった。

「存在しない患者、てところか?」

「確かに言ってたのよ?精神科で入院してるって」

「ま、建物を全壊させるのに『やっちゃいます』って軽さの時点で終わってるよな」

「その話、面白そうだな。詳しく聞かせろ」

ふと頭上を見上げ、美咲はぎょっとした。

「リュウ!」

「何?知り合い?」

「ま、まぁね……」

青髪ポニーテールの庄司龍一郎が立っていた。

清帝学園の制服を着ており、白いマフラーを巻いている。

ケーキと紅茶を注文し、美咲の隣に腕と脚を組んで座った。

「で?誰がいないんだって?」

「か、鼎梗香っていう子で」

「鼎…………あぁ」

庄司は携帯電話を取り出し、少し操作して画面を見せた。

「こいつ?」

写真が映し出されており、美咲と綿貫が声を揃えた。

「こいつ!」

「鼎梗香。花柳トップクラスの電磁波使いだ。美咲と同じくらいの位置付けだ」

二人は目を丸くした。

トップクラス?!

音姫と同格?!

精神科の患者が?!

庄司が写真を見ながら言った。

「現役モデルじゃねぇか」

「あ!そういえば雑誌で見たかも!」

綿貫が頷く隣で美咲は庄司と敵意の視線を通わせていた。

「菜穂、きょん探しは明日からにしましょ?大学の近くに行けば会えるかもしれないし」

「そうだな……あれ?そういや、今日は」

「帰りにさっと買うわ」

カフェを出た三人は、それぞれに解散し、美咲は桜通りを目指した。

後ろから着いてくる庄司に歯軋りをし、人混みの中振り返った。

「何よ?」

「探してるのは鼎梗香じゃねぇのかよ」

「………それとは別に、ちょっと買い物があるの」

「例えば」

美咲が顔をじわじわと真っ赤にした。

「…その……」

美咲は打ち明けた。

「ちょっと……プレゼント探しを、してて………」

プレゼント?





     *    *





午前 11時10分。

綿貫菜穂は桜通りにいた。

その理由はたった一つ。

美咲歩海の尾行である。

彼女が彼氏(仮)以外と歩くなどという、とんでもない未来を読んでしまったからである。

綿貫の能力は思考読取(シンキングリーダー)、人を見て考えている事や、過去や未来を読むことが出来る。

人混みに紛れながら、美咲と庄司を追う中、綿貫はある声に呼び止められた。

「あれ?えっと、綿貫さんだっけ」

「?!」

振り返り、大いに焦った。

そこには自転車を降りる襟澤称がいた。

ガードレール脇に自転車を駐め、大きなカバンを肩に掛けた。

「彼氏!………あ、違う。すみません」

「いや、あの、襟澤で構いません」

「買い物っすか?」

「うん。パソコンの新しいキーボードを買いに。綿貫さんは?」

「それが…」

綿貫が説明すると、襟澤はショックを受けた。

「なん、だと……」

「実に由々しき事態なんです」

「あっっの二丁銃とデートとか超由々しいわ。気配消しは任せろ、尾行しておかしなことになったら突入する」

「あたしがルートを先読みします。お任せ下さい、絶対に見失う事はありません」

二人は頷き、人混みへと入っていった。

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