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「わたし、ちょっと人には見えないものが見えてしまう性質タチなんです。

 だから、興味本位で近づくのはどうかと思いますよ。罰ゲームで告白に来た二年五組の矢橋やはし先輩?」


 その下級生は矢橋を見るなりそう言った。彼はまだ一言も口をきいていなかったにもかかわらず、である。




 今年の新入生に自称霊感体質の電波少女がいる――というのは、入学式から一月しか経っていないにもかかわらず、既に校内では有名な事実だ。周囲の人間の大半は彼女を遠巻きに観察しようとしていた。

 だが、それを面白がり、ちょっかいを掛けようと考える阿呆も、この学校には生息していた。

 彼女が純和風の整った顔立ちをしており、とかく目立つ存在であったことも、そんな阿呆共の増殖に拍車を掛けたようだ。


 そして、その阿呆を友人に持ってしまった、自称・善良かつ平凡な男子生徒こそ、二年五組の矢橋啓嗣やはしけいしであった。

 彼は罰ゲームのために、放課後に貴重な時間を割き、中庭で霊感電波少女と相見えることとなった。

 つまりそれが今の状況である。


「何で罰ゲームだって知ってる? それが噂の霊感ってやつかよ」


 罰ゲームの内容が決まったのは放課後、矢橋と友人がゲームを始めた時で、その時から彼らが居た教室には誰も入ってきていない。

 しかも矢橋の負けが決まったのはほんの十数分前。

 彼がこの少女を探し当てるまでの短時間に、罰ゲームのことは知り得なかったはずだ。彼らはそんなことを吹聴しないし、仮に知り得た第三者が居たとしても、わざわざ電波と噂される少女に近づいて親切に教えたりはしないだろう。


 矢橋より頭一つ分背の低いこの下級生は、感情を一切映さない真っ黒な双眸で真正面から彼の視線を受け止め、口を開く。


「罰ゲームってところを否定はなさらないんですね。すがすがしい潔さじゃないですか。

 変な期待を持たせるよりはとっとと認めてしまう方が、双方とも傷は浅くて済みますね。

 そもそも罰ゲームで何の関係もない赤の他人に告白なんて、迷惑も甚だしい発想なんですよ」


「なんで俺のことを知ってるんだって訊いてんだろ」


「失礼しました。自己紹介がまだでしたね。わたし、一年三組の上代月子かみしろつきこと申します」

「それは知ってる。そうじゃ無くて――」


「ではお互いさまではないですか」

「は?」

「先輩は今までにも罰ゲームで告白をされたことがありますね? 小耳に挟んだ、風の噂です。

 先輩がわたしの力のことをご存知なのも、噂のせいでしょう。ですから本当に、お互い様なんですよ」


 ようやく問いの答えが引き出せたのだが、矢橋の気分は滅入るばかりだった。

 罰ゲームのことが噂になっているなどと、聞きたくは無かった。


「一応、忠告はしておきますね。矢橋先輩、身の安全に気を付けてください」


 こいつはまたいきなり何を言い出すんだ。

 何も言えない矢橋に構わず、上代は言葉を継ぐ。全く温度が感じられない声で。


「大事なことなので、もう一度言っておきます。

 先輩は今までにも罰ゲームで告白をされたことがありますね?」


「……それがどうした」


「ヒントは、『六条御息所ろくじょうのみやすどころ』です」


 どうも会話が噛み合わない。

 この少女が単なる霊感少女ではなく、電波少女とも称される理由を、矢橋は理解できた気がした。


 春の終わり、空には雲ひとつなく、爽やかな一日だ。

 だがその時、中庭には湿り気を帯びた生ぬるい風が吹いていた。


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