僕の馬に乗るがいい~僕馬相乗りシリーズ① (アル×スー/+ランスロット&ユリウス)
これからあと三つ分は、【第百十一章 馬上で嫉妬はおやめ下さい。】の番外編扱いになります。
そちらをご覧になってからお読みいただくことをお勧めいたします。^^
リクエストがありましたので、楽しそう!ということで喜々として喰いつき、書かせていただきました!><
長くなったので、視点ごとにわけました。
三部構成です。
『僕馬相乗りシリーズ』と勝手に命名しちゃってマスが……←
第一部はアル視点です、どうぞ!
ちなみにタイトルの他候補は、
「僕の馬に乗りたまえ。」
でした…。
アル……(遠い目)
【僕馬相乗りシリーズ①~僕の馬に乗るがいい(他は認めない)】
あの赤毛が黒髪の騎士の手を取ったとき、心臓が張り裂けそうだった。
「……あーその、アル王子?」
ごほんと咳払いしてから、ランスロットがそう口をひらいて問いかけてきたときも、目だけは赤毛の彼女へと向けられている。
反射的にむすっとしたまま、アルは答えた。
「なんだ」
「スーはひとりじゃ馬に乗れない、だから、他意はない」
「なにが?」
言ってから、びくびくした様子で赤毛の少女がこちらを向き――すぐに逸らされた。
周りの音がよく聞こえなくなる。ただ視界には、彼女と騎士の繋がれた手だけが異様にはっきりと映っていた。
(……あの女……)
アルは、果たして自分が何を考えていたのかはっきりと理解する前に、強い怒りを伴って射殺さんばかりの視線を再び彼女へ向けた。
先ほどもそうだった。ユリウスの咳払いのあとに、赤毛の少女が恐る恐るこちらを見て一瞬消えかけた怒りも、しかし彼女がすぐに顔を背けたことにより再発したのだった。より激しい感情を伴って。
「そうか、なればユリウスに相乗りさせますか?」
「はあっ?」
ランスロットは微塵も揺らがず提案し、それに素っ頓狂な声をあげたのはユリウス。
しかし、そんな打開策さえアルには不満だ。むすりとしたまま口をひらきかけたが、遮るように彼女の声がする。
「そんなに拒絶しなくてもいいじゃない……ユリウスのばか」
「なに言ってんだよアホゥ!スー、おまえ今どういう状況かわかって――」
ぶつりと頭のなかでなにかが切れる音がした。
「……ユリウス……?」
アルは小首を傾げてオウム返しに言った。
(名前呼び……)
同時に、顔の筋肉は反射的に笑みの形をつくりあげる。
「……お、王子……?」
「そういえば、僕の召使が貴殿に世話になったみたいだけど」
いきなり顔をあげ、にっこり笑みつきでアルはユリウスに話しかける。
「そうか、それで呼び捨てにしあう仲なんだね。『それ』が人に敬称をつけないのはめずらしいから」
違和感ありまくりだった。いつもおどおどして、他人とは一線引いて接しているような彼女。丁寧な言葉遣いに、決してくだけた呼び方はしない彼女。
その彼女が、男を呼び捨てにしていたのだから、気にならないわけがない。
「それにお互いどこか砕けた雰囲気で睦まじいよね」
というか、気に食わない。
「僕の知らない間になにがあったのかな。ん?どうしたのユリウス、顔色が悪いみたいだけれど」
アルの口はとまらない。言いながら、アルは頭のなかでオレンジ頭をいかにこき使うかを様々に考えていた。
「遠慮せずに言えばいいよ。別に、罠があるわけでもないんだし、そう警戒しないで、さあ、すべてを打ち明けてごらんよ」
にじり寄りつつ、しかし、アルの目は怖いくらい笑みをとっている。
イライラする。だれかの口から少女の名が出るたびに、彼女が他のだれかを見るたびに。
制御できない。
「どんなふうに、仲良くなったのかな?包み隠さず、教えてくれるよね」
言って、ぐりんと首をひねって、アルは彼女とランスロットへ顔をむけた。
「で、君たちはいつまで手を繋いでいるの」
もちろん、先ほどからいやでも視界に入っていた光景にケチをつけるためである。
「あの、アルさま」
あわててランスロットの手を離したスーが、つい、とこちらに顔を向けて口をひらいた。
すこしばかり、アルは目を見開く。
ちょっとだけ荒んだ心が凪いだ気がしたが、気づかぬふりでいつものムスッとした表情をとる。
「なんだ」
「わ、わたしは構いません。徒歩でも、大丈夫です。ですから、あの……遠慮なく、ランスロットさんと相乗りを……」
「それは、どういった意味だ?」
「ですから……久々におふたりでお互いをよろこび合いたいかと……」
絶句。
まさにあいた口がふさがらない。
(この――!)
思わず悪態をつきたくなったアルは間違っていないはずである。加えて、騎士の「そうだったんですか」という声も、アルのこめかみに震えを走らせた。
(ランスロット……貴様もか!)
がっくりと肩を落とし、目を少女へ向ける。
鈍感なのか。この少女はいつも、変なところでおかしい。
怒りを通り越しあきれ果てる。のろのろと顔をあげた少女はハッとしてあわてはじめ、それがアルの毒気を抜いた。
「あっまっ、まちがえました!アルさまは、もしかしてランスロットさんの手を握りたいのでは……」
「ちがうから!おまえもう喋るな!」
ユリウスがあわてて制する。
連ねる言葉に四苦八苦する彼女の様子に、アルはあきれつつもどこか和んでしまった。どう言葉をつくしても空回り状態なのだ。つい、場を忘れ笑いたくなる。
すこし頬を染めてうつむいた少女に、アルはわざとため息をこぼした。いや、もしかすればうつむいたことで顔が見えなくなり、無意識に残念に思ったのかもしれない。
「まあ、いい。乗れ」
やや落ち着きを取り戻し、アルは少女の手を取った。
「えっ、けれど――」
「おまえはこっちだ」
おどおどする彼女に、ちょっぴり苛立ちが募る。
ランスロットのときもユリウスのときも嫌がらなかったのに、なぜ自分のときだけ拒否するのだ?
アルはしかし、耐えた。代わりに、強引に腕を引き上げ、少女を軽々と自身の馬へと乗せる。
「ん」
苛立ちは一気に放散した。
アルは満足し、赤毛の少女を後ろから抱き込んで手綱を握る。
それからゆっくりと、馬を進めた。
(はじめからこうすればよかった)
なにも言わせず、最初から自分の馬に乗せればよかったのだ。彼女は召使だ。命令に逆らうことはないし、権限は主である自分にある。
けれど、それではなにか違う気もする。
命じて従わせるのではなく、彼女自ら――。
そこまで思考が達したとき、ふと腕のなかに収まっている少女に目がいく。頬を真っ赤に染め、身体を固くして身を縮めているスー。
アルは目を細めた。
(かわいいな……)
それは無意識だった。そしてアルはスーを見つめながらそんなことを思った自分に気づくことすらなく、馬を進めつづけた。
先ほどまで考えていたこともすっかり頭から抜け落ち、心躍るまま馬上の旅を楽しむ。
あとにつづくふたりの騎士は、王子の上機嫌に目を見合わせたのであった。
(それにしても……先ほどの激情はいったい……?)
自分の感情に疎い彼は自覚していなかった。が、端から見れば一発でわかるそれ。
(疲れているのかもしれないな)
アルはスーを愚鈍と言うが、きっと今の彼を知れば皆が皆、彼当人のほうが愚鈍ではと思うことだろう。鈍い。鈍すぎる。
(ま、いいか)
人はそれを嫉妬と呼ぶ。
しばらくして、ふと、アルは昨夜の出来事を思い返していた。
辞めさせておきながら、「戻ってきてくれ」と言った。「行くな」と言った。この、自分が。
(こいつはひとりで、ベルバーニへ……)
男の自分とはちがうのだ。大丈夫だろうか。
「ひとりで行けるか」
「はい。一度足を運びましたから」
口走るように問いかけた言葉は、思いの外はっきりとした彼女の言葉に返された。
(強いな)
思っているよりもずっと、この手のなかにいる少女は破天荒なのだ。
ずっと、ずっと。
「そうか」
つぶやくように言う。それだけしか言葉が紡げない。つづければ、再度「行くな」と口走りそうになるから。
(俺も、俺のやるべきことをしよう)
彼女を引き留めるなど、おかしなことだ。
そう、おかしなことなのだ。
昨夜だって、「戻ってきてくれ」とか「迎えに行くから」と言ってから、自分の口から出た言葉が信じられなかった。
(調子が狂う……)
まるで自分がスーを求めているみたいではないか。
今だっておかしい。なぜこの豊かな赤毛をなでたくなる。怯えるだろう彼女を抱きしめたくなる。
(調子が悪いのかもしれない)
ただの気まぐれかもしれない。久しぶりに彼女を見たから、おかしくなったのかもしれない。
(まぁ、いい)
どうせ城へ戻すつもりだったし……とアルは思い直す。
彼女がいないと不便だ。それにからかう輩もいないのでストレスがたまる。
そう、これはただ、便利な召使を呼び戻すためで――
(――願った、のに)
ふと頭に浮かんだ光景。王座に座る自分。そしてその隣に腰かけているのは……
いつからだろう。自覚したのは。自覚したのに気づかぬふりをつづけているのは。
「アルさま?」
名を呼ばれ、我にかえる。深い緑の眼がこちらをうかがっている。
(まあ、いい)
いろいろなことはあとで考えればいいのだ。
アルはなんでもないと首を振り、腕に力を込める。すこしだけ抱きしめるように、小さく、力を込める。
そう、いろいろなことはあとでいくらでも考えればいい。
ただ今は、彼女とふたり、馬上で。
以上、本編にいつか組み込むかもしれないアルの心情でした。
いやぁ、楽しかった(笑)
リクありがとうございます!
最終的なあとがきはシリーズの最後にまとめて書きます。