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酔ったふたりの人格は (メインキャラ)

メリー・クリスマス!

と、いうことで、以前よりちょっとコメディちっくなアルとスーがみたい、クリスマスのお話が読みたいというリクを頂いておりましたので・・・な、なんとか間に合いました?!


今回はお楽しみ企画的に書きました。

若干、HPのパス付小説「逆転もしも~」みたいなノリですが、「つどいし」のほうにのせました。

時系列もキャラも入り乱れでいろいろなので、一種のパラレルワールドとしてお楽しみくださいw


※なお、未成年の飲酒のシーンがありますが、世界観は『現代日本』ではありませんし、『別世界』の出来事です。

未成年の飲酒を推奨するものではありませんので、ご了承ください。


酔ったふたりの人格は

~聖なる夜のお集まり!~




「ひざまずきなさい」

 赤毛の少女は、これ見よがしにニヤリとせせら笑う。

「聞こえなかったの?」

 片手にもったワイングラスをゆらゆら揺らし、首を傾げてみせた。

「ひ・ざ・ま・ず・い・て――ね、アルさま」



 それは、数時間前の出来事――。




 * * *




「え〜、ビンゴ大会も終わり、『異文化を取り入れよう企画』もそろそろ終盤となりました」

 司会役を務めるクリスが朗々と告げる。赤いでかでかとした蝶ネクタイを冗談でつけさせられたのだが、案外似合っているので皆笑うに笑えない。

「今宵は無礼講ということで……みなさん出来上がっているでしょうか」

 野太い声がそれに答える。乾杯の合図のときは、まるで勝鬨カチドキのような歓声があがったものだ。

 今宵は『クリスマス』。異国のお祝いらしいそれを知ったリオルネが進言し、カスパルニア城では大広間を開放して、騎士も大臣も召使もみなでパーティーを開いていた。



 もちろん、アルに引き連れられ、ランスロットとともにスーも参加していた。

「サンタクロースって?」

 ひとまず落ち着いたころ、唐突にスーが尋ねる。実は気になっていたが聞けずにいたのだ。

「聖なる夜にやってくる、こどもの夢を叶える――ほら、あれだろ、赤い衣服を身に纏った……」

「ルドルフがやってる」

 口で言うより見ろ、というようにアルが騒がしい辺りを示して言った。

「………」

「なんだその目は。『ふくよかで背は低めな髭をたくわえた老人』……まんまじゃないか」

「『こどもに夢を与える妖精』だ。あれほど不気味なサンタクロースもいまい」

 アルが示した場所には、大きな大きなクリスマスツリー。その下にはたくさんのプレゼント。トナカイのぬいぐるみ、そして、大きな袋をそりにのせ、真っ赤な帽子と衣装を身にまとった人物――たしかに背格好は完璧だが、表情カオが大問題であるサンタクロースが、レモンを丸呑みしたような顔で人々に手を振っている。

 そんなアルたちに目をつけて集まってきたのは、セルジュやグレイク、ロイ、そしてユリウスだ。

「今回ばかりは王子のセンスを疑うね」

「ありゃねぇよ」

 皆からの冷ややかなまなざしに、アルはふんと鼻をならす。

 そんな王子がなんとなくいたたまれなくなったのはスーである。『かわいそう』という気持ちが――言うなれば、本当は寂しいのに強がるこどもを見ているような気持ちがわき起こった。

 アルからしてみれば、彼女からそのような同情をされるほうが惨めなのであるが。

 と、そこへ司会の仕事が一段落したクリスも、トナカイの着ぐるみを着たヌイストもケーキを頬張りながら話に入ってくる。

「リオルネさまドン引きでしたよ」

「もはや涙目でしたからネ〜。お慰めしようと、侍女さんたちが頑張ってますよー」

 次に、サンタクロース・ルドルフのそばに、半分涙目のリオルネの姿。そしてその両隣には、スーの侍女、シルヴィとローザが『サンタクロース』の衣装――もちろん、ミニスカート――を身にまとい、男性陣の注目を集めていた。

 リオルネをなんとか励まそうとがんばる侍女たち。そんな彼女らがスーを見つけ、「スーも着ましょう!」と言い出した。

「む、むむむ、無理ですぅうう!」

 スーは悲鳴を上げ、思わずアルの影に隠れたのだが、かなり目立っていた。






「どうしたの、兄貴」

 不意に押し黙っていたランスロットが気になったのか、キョトンとしながらセルジュが尋ねる。スーも彼を見上げ、考え深げに佇む第一騎士に首を傾げた。

 と、突然彼は口をひらく。

「思ったんだがな……」

 神妙に、もったいぶって、妙に真剣な面持ちでランスロットはつづけた。

「アルに、あまり酒は飲ませないほうがいいぞ」

 ……時は、すでに、遅かった。


「あは、は……」

 アルの様子がおかしいことに気づいたのはスーである。

「アハハハハッ」

 突如、王子が天を仰いで高らかに笑い出したのだ。何事かと、みながそちらを振り返る。

「あ、アルさま、大丈夫で――」

「はは、スー! 君は本当にかわいいなぁ!」

 その言葉に固まったのは、スーだけではあるまい。

 ぎゅっ、とスーの肩に手をかけ、アルは甘い笑みを撒き散らす。

「いつもありがとう。感謝しているんだよ?」

 むしろ、爽やかだ。こんな王子は見たことがない。

 スーはわが目を疑う。いったいどうしたというのか。

 いつもの冷たいアルも恐ろしい。しかし、爽やか過ぎる、笑みを惜しみなく見せて感謝を述べるアルなど、さらに恐ろしいもの以外のなにものでもない。

 だが、どうやら『その心配』は杞憂に終わるらしい。

 ふいに目を伏せたかと思えば、今度は地を這うような低い声で言うのだ。


「スー……おまえ……脱げ」


 再び、その場が固まった。

「王子、な、なに言ってんだ!」

「今言うことじゃねぇだろ!」

「そ、そうですよ!は、ハレンチです!」

 ユリウス、グレイクとロイが顔を赤くさせて吼える。

「またはじまったね……王子のクセ」

「スーさんが哀れですね」

 セルジュとクリスは和やかに頷いた。

 そんな彼らに構わず、アルはつづける。

「身持ちが固い……それはたいそう聞こえがよいだろう」

 だがな――アルはひくりと口端を引き上げて言う。

「主のメイには従うものだ。フィリップ兄さまの拾ってきた、優秀な、賢いおまえのことだ……わかるだろう?」

 スーはみるみる真っ赤だった顔を器用に真っ青にさせる。

 とんでもない、男だ。アル王子は酔いが入ると、いつも以上に横暴で屁理屈好きの人物になるようだ。

 言葉を失うスー。周りも、ただ仰天し、あるいは好奇心から、その場の成り行きを見つめている。すなわち、助けはない。

 アルはにっこりと、これまた極上の笑みを浮かべて、「ん?どうかしたか」と小首を傾げてみせた。


 ――その仕種に、笑みに、時が止まった――


 こんな状況でなければスーとて見惚れてしまうほどの、人を虜にするうつくしい笑みだった。

 そしてその笑みは周囲にも多大な影響を与えた。シルヴィなどきゃーきゃー黄色い声をあげるし、あのローザとて例に埋もれずぽかんと見入っている。男女の性別など関係なく、それこそ老若男女を魅了するフェロモンを撒き散らすアル。ただし、遠くにいるはずのルドルフが顔を赤らめていたのを見てしまったリオルネだけは、さっと視線を外し青ざめていたが。


「ねーえ、僕のスー?」


 そして、止まっていた時は動き出す。

 アルはその、やはりきれいな指先をすっと伸ばし、固まっていた少女の頬をなでた。びくり、と震えたスーに、ゆるゆると笑みを深め、王子は彼女の顎をとらえる。

「言うこと、聞いてくれるよね?」

 くすりという笑い声とともに、アルはぐっと顔を近づけ、少女の耳元で囁いた。


「でなきゃ、お仕置きしちゃうかも」


 ――どんなお仕置きなのでしょう、とは絶対に聞きたくなかった。

 こくこくと首がもげんばかりの勢いで頷き、涙目になりながらスーはとうとう承諾した。






 その場をおさめたのは、第一騎士のランスロットだった。

 突如、がしりとアルの肩をつかみ、文句を言わせぬうちに広間から引きずっていったのである。

 皆はその光景に唖然としたが、幼なじみの騎士たちだけはなぜか深く頷き安堵していた。

 一方、今にも泣き出しそうなスーを、シルヴィとローザはてきぱきと介抱する。

「さ、熱冷まして」

「なにか飲み物を……」

 ようやっと落ち着いたスーは、ふるふると首を振り、大丈夫と言う。

「自分でやるわ。あそこのきれいな色のお水を飲んでくるから」

 頬の熱の冷めぬ彼女をどこか保護者気分でながめる侍女ふたり。

「それにしても、すごかったわねぇ」

「アルさまって色気ありますものね」

「ま、ランスロット殿に任せれば心配はいりませんよ。今頃我にかえっているでしょう」

 シルヴィとローザの会話に、クリスがほほえみながらそう言った。

「方法は知りませんが……アルさまを酔いから醒まさせることができるのは彼だけなんです」

「昔もあったよね、まちがって飲酒しちゃってさ」

 ケラケラ笑いながらセルジュも話に入ってくる。

「『きれいな色のお水!』とか言って飲んでたな……それで……あれは本当に大変だったぜ」

 ユリウスは目頭を抑え肩を震わせた。それを見たグレイクとロイが慰めるように彼の肩をぽんぽんとたたく。

「あれは災難だったなぁ」

「ランスロットがいてくれて本当によかったですよ」

 しみじみとし出した雰囲気。ほほえましいような、深くは聞いてはいけないような、そんな場面でふたりの侍女はふと気づいた。


 ――『きれいな色のお水』――


 はっと振り返ると、すでに喉を潤す少女の姿。

「って、スー……あなた……」

 ローザがサッと顔を青ざめさせる。

 シルヴィもまた、あらあらと目を見開いた。

「……それ……お酒……」








(なにをやっているんだ、俺は……)

 酔いを冷まし終えたアルは、気が重いなか会場へと戻る。ランスロットは先に戻らせていた。

 酔って酒に飲まれたとはいえ、とんだ失態を曝したものだ。記憶に残っているから余計性タチが悪い。

 と、なにやら会場は盛り上がっているようだった。


「なにかあったのか」

 そばに控えていたクリスに尋ねれば、彼はちょっぴり肩をすくめ、含み笑って「ご自分でご確認ください」と言う。

 怪訝に顔をしかめながらも、アルはひとだたりになっている、その騒ぎの中央へと足を進めた。

 ――進めて、すぐさまUターンしたくなった。

「なんだ……これは……」

 思わずつぶやいた視界に、ランスロットの珍しく打ちひしがれた表情が見えた。

 騒ぎの中央にいたのは、赤毛の少女。彼女はあれほど嫌がっていたサンタの衣装に着替えている。

 しかも、その衣装はきちんと着られているわけではない。いくらか着崩され、白い肩があらわになっていた。ミニスカートということもあり、かなりの露出。ある意味目の毒である。


「あっ、アルさまぁ!」


 からからと声をあげ、少女は王子をお呼びだ。右手に酒瓶を持ち、左腕はがしりとランスロットの肩へ回されている、そんな彼女の頬はほんのりと赤い。目はとろんとして、テンションは異様に高く――つまり、酔っ払いのできあがりということである。



 ひっく、としゃくりあげながら、スーは声高々に、言うのだ。

「アルさまーちゅーしましょー! おやすみのちゅー!」

 あははは、と先ほどのアルよろしく、手を出せない始末。

 思わずアルは身を引いてしまった。そして、めざとくそれを見たスーは……

「なんですか、アルさま。嫌なんですか。そうなんですか。わたしのどこが不満なんですか、え? 言ってみてくださいよ。三十字以内でまとめてみなさいよ!」

「なっ、お、おまえ――」

 たじたじになってしまうのも仕方のないというものだ。なにより、今のスーは――目のやり場に困る。

 そんな男心にも気づかず、赤毛の少女は途端にひややかなまなざしで告げた。


「悪いと思っているなら、三回回ってワンと言いなさい。いやなら……そうね、土下座でいいわ。ひざまづいて」

 仕方ないわね、と言うなり、椅子に深く腰掛け、足を組む。

 そして再度、女王の風格でせせら笑った。

「さ、いつでもどうぞ?」






* * *




「ち、ちがうんです、そんなつもりじゃなかったんです!」

 掌に顔をうずめ、スーはひたすら嘆いた。昨夜の失態を、侍女たちから聞いて。

 すぐさまアルのもとへやってきて、ひたすら謝る。

 絶対に許してなどくれまい――なにせ、一国の王子にひざまづいて、と、土下座を要請したのだから。

 しかし、部屋のなかはなぜか和やかだ。クリスとランスロットなど、生温かい目でアルを見やっている。

 アルはふい、と顔を背け、ただ一言。

「いい、忘れろ」

 副音声は、「俺も忘れるから、おまえも俺の失態を忘れろ」、だ。

 しかし、スーはただ自分の失態を犯した事実に頭がいっぱい。アルがやさしい、ということに、なぜか恐怖を覚え、「ふぇ……」と再び涙目になる。

 そんなスーに、アルはチッと舌打ちすると、おもむろに彼女の赤毛に手を伸ばした。


「いいから、気にするな。昨夜は、無礼講――聖なる夜、クリスマス……だろう?」

「アルさ、ま……」

「パーティは、楽しかったか?」

 素直に、スーはこくりと頷いた。

 無意識に、アルの口角が引きあがる。

「なら、それでいいだろう」


 その笑みは、とてもとても柔らかかった――


 そんな事実を知るのは、その場にいたアル以外の人物。

 もちろん、スーは頬を赤くさせ、トクンと高鳴る胸の一鼓動を強く意識したのだった。







す、すみません。

書きたいこと詰め込みすぎました!

リクで「酔ったアルさま」「酔ったスー」をいただき、すごく楽しそう!と飛びついたのですが、

奈何せん、力不足で……

もっとたくさん書きたかったですが、とりあえずまとめました。


リクエストありがとうございました!

そして、あまりクリスマス関係なくてすみません、なんかルドルフだけがクリスマス満喫していた気がします(苦笑


ランスロットがどうやってアルをおさめたか……それはまた、別のお話で(笑

また機会があれば、こんなふたりも書きたいです!


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