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あなたをてらす (ソティリオ×エレンディア)



あなたをてらす

~秘密の純恋・親世代~




「……あか」


 思わず、つぶやいていた。

 空は不思議だ。いろんな色を見せてくれるけれど、それは空にかわりはない。

 白んだ朝日を浴びるまえの空も、夕闇に暮れいく空も、厚い灰色の雲に覆われた空も、雲ひとつない真っ青な空も、ぜんぶ。

 それが全部同じものなのだと、わたしには到底思えないのに。


 朱をわたしは見つめた。白かったはずの雲も、今や見事な朱に染め上げてしまった。遠くとはすこしずつ色合いが異なっていて、薄い紅色から橙色まで鮮やかに彩りを添えている。それをただの『空』と言ってしまうにはあまりに惜しい気がした。


 不思議でならない。空は空なのに、たくさんの顔を持っているではないか。そういう事実をみな知っているのに、彼らはそれを『空』と呼んで受け入れるのだ。

 青いから空なのではない。空は青でなければならないはずもない。

 ――だから。


 せめてすこしでも、あの人が幸せになれればいいと、みんなとは言わずとも、だれかに解ってもらえればいいと――そう、思うのだ。






 * * *



「おい」

 彼はめったに名を呼ばない。愛を囁くときでさえ、戸惑いがちにそっとつぶやく程度だ。

 きりりとした眉に、鋭いまなざし。口はきつく引き結ばれていて、いつも眉間には深い皺が寄っている。

 彼を冷たい人だとみなは言うけれど。

「そんな顔をしてもだめよ?」

 くすりと、彼の分まで柔らかく笑ってやる。手をのばして、その頬を包み込む。

 すこしでも、このヌクさが伝わりますように……。

「――ッ、エ……レン、ディアっ」

 驚いたように葡萄色の瞳を見開く。そんな表情でも、うれしい。

「なぁに?」

 笑みを浮かべたまま小首を傾げて問う。


 いとしくて、たまらない。


 彼は目をいくらか泳がせ、やがてあきらめたようにきちんとこちらに向き直った。「離せ」と命じるように言ったけれど、赤い顔では迫力が足りない。

 とっても照れやなんだもの。かわいいったら仕方がないわ。

「ね、ソティリオさま」

 そっと名を呼んで、頬をはさみこんだままつぶやく。

「……こどもができたの」

 ねぇ、あなたはどんな顔をするの? どんなふうに思うの?

 大好き。大好きよソティリオさま。

 あなたと離れていた時間はとても辛くて寂しくて、寒かった。ぬくもりをくれるのはあなただけだった。

 愛しているじゃたりない。見つめるだけじゃ惜しい。

 深く深く、魂の奥から繋がっていたい。


 身分がちがう。

 彼は大国の王さまで、わたしは小さな小さな国の姫。

 近い将来彼の隣に堂々と立てるのは、わたしじゃない他のだれか。それが泣きたいほど悔しい。

 醜い感情を知った。黒くてどろどろしたものだった。

 でも、それ以上にあなたを愛する気持ちの潔白さをわたしは誇ることができる。


 こどもができた。大事な人との間にできた生命。


 あなたはどうする? あなたが否というならば、わたしは姿を消してひとりでこの子を育ててみせる。



 しっかりと目を離さず、答えを待つ。まるで永遠をぼんやりとながめているみたい。

 ちょっとだけ、怖かった。

 きれいな葡萄色の瞳に、すこしでも剣呑な光が見えれば、わたしは――



「エレンディア」

 彼はめったに呼ばぬ名を呼んだ。

「……ありがとう」

 ぽろりと瞳からこぼれたのは、わたしのか彼のか?

「ソ、ソティリオさま……」

 冷たい無表情の顔に、きれいなきれいな笑みが映えた。

 葡萄色の瞳からこぼれた涙は、とってもとっても純粋だった。



 ソティリオさま。わたし、ちゃんとあなたとの子を産むわ。

 あなたの光であるように。国を照らす光であるように。

 たくさんの人に愛してもらえるように。人に愛を授けられる人間になれるように。

 大事に、大事に育てるわ。


 大好きな彼が、「誓いのしるしだ」と言って深く口づける。

 よく考えられぬまま、喜びにまどろんだ……。


 その「誓い」をわたしが知るのは、それから数年後――




 ソティリオ王の正妃として迎えられることになると知ってから。エレンディアという名が、彼の隣で堂々と生きていられるようになってから。



「これでずっとそばにいられるな」


 ニヤリと笑う彼の顔が忘れられない。やっぱり、大好きだと思った。

 彼の誓いは、わたしの願い。



 わたしが、彼の隣で笑っていられるように――。





 ―end―




ずっと書きたかった親世代!

はじめはなんとこのふたりに(笑)


書いてみて、アルのツンデレ(ヤンデレ?)は絶対お父様譲りだと思いました!←

そしてフィリップの他人を虜にしちゃう魅力はお母様譲りだと思う!

特に泣く子も黙るソティリオ王を『かわいい』だなんて表現しちゃうあたり大物でありますな(ぇ


本当はもっとじっくりがっつり書きたいのですが、とりあえず本編も終わってないので我慢しておきます。

王国の花名でも御父上の事情に触れたし、ここでちょっとお父さん事情に触れてみようと思いまして……。


当初は名前すらなかったソティリオ様!

登場できてよかった、ほんとによかった。

ソティリオ陛下がちょっとずつお気に入りになりそうです笑


若かりしころの彼ならいくらでも萌える妄想ができそうなワタクシでした笑


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