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兄の苦労、弟知らず (レオ・ウルフォン)




兄の苦労、弟知らず

~お兄ちゃんは大変です~





「うっわあ!」

 感嘆の声をあげ、ウルフォン王子は兄の新しいマントをしげしげと見つめた。

「兄上、カッコイイ!」

 朱地に金色の糸で様々に紋様が刺繍されたマントは、あきらかに異国風だ。「耐熱製であります」とこのマントを説明していた商人の顔を思い浮かべ、レオンハルトはふふんと笑う。

「いいだろう?これ、十二の誕生日だからって贈られてきたんだぜ」

「えーっ?ずるい!いつも同盟国は兄上贔屓だ」

 ぐっと唇を噛む弟は、見るからに落胆していた。途端に、レオンハルトの表情から笑みが消える。

 ウルフォンはそんな兄を敏感に感じとり、気遣わしげに目をあげて顔をのぞきこんだ。

「兄上……?」

「俺、いらない」

 ぎょっとウルフォンは目をあける。兄は今にも泣きそうだった。

「どうしたの?あにう――」

「こんなもの、俺いらない」

 言うや否や、レオンハルトはうつくしい刺繍の入ったマントを地面へたたきつけた。唖然とするウルフォンに構わず、彼はさっさと踵をかえして、スタスタと歩き去ってしまった。

 残されたのは、ぐしゃぐしゃに丸まった異国のマントと、立ち尽くすウルフォン王子。

「あ……あ、に……うえ……」

 みるみるうちに、王子の瞳には涙がいっぱいにたまった。

 悲しかった。怖かった。

 なぜ兄は怒ったのだろう。機嫌を損ねてしまったのだろうか。もう、自分は兄にきらわれてしまったのだろうか?


 ――兄上から疎まれたら、生きていけない。


 ウルフォンは声をあげて泣いた。







‡×†×‡×†


 レオはそっと目をあけた。夜風が心地よい。

 故郷の城に帰ってきたのは久々だった。

 昨夜、父に呼ばれた。

 久しく見ることのなかった父を前に、レオは愕然とした。そして焦りに似た気持ちも覚え、思った--老いたな、と。

 シワが目立つようになった。口元にある切り刻まれたような、堀の深いシワ。眉間に寄せられ、寡黙な男を象徴するかのようなシワ。そして話しながら、時たま見せる疲れたような表情――。

父は、まだ引退する歳ではない。だが、ここまで老いて見えるほど、王という業務はすさまじいものだったのだ。

 父は太く響く声で言った。

「儂はまだくたばらん」

 レオはひざまずき、次の言葉を待つ。

「おまえは我が息子であり、第一王子だ……まだまだ儂はこの国の王であろう。しかし、時はいずれやってくる」

 父王の声は朗々と響いた。

「レオンハルト、おまえにある国の侵略を命ずる」

「父上!」

 レオはハッとして顔をあげた。王の眼は冷徹なまでにまっすぐだった。

「それが成されればおまえに王位をやろう。できなければ、次はウルフォンにこの使命を与えるのみ」

 父はそれ以上、息子になにも言わせなかった。



 それからレオはひとり、自室へこもっていた。久々に話したいという義理の母からの申し出も断り、静かに暮れいく日をながめていた。

 夜風が頬をなぶる。

(もし、俺が王になれば……ウルフォンはよろこんで国を治めるのを手伝ってくれるだろう)

 けれど。

(この国は滅ぶ。俺には無理だ)

 レオはふるふると頭を振った。

 脳裏に、弟の顔が浮かぶ。

(だが、あいつに他国の侵略ができるだろうか……あの気弱で、心根のやさしい男に……)

 そうしてまた、レオの頭には幼き日々の、過去の断片が広がってゆく――。






‡×†×‡×†


 真夜中、身体が重くて、レオンハルトは目をあけた。そしてぎょっとする。

 そこには、目をぎらぎらさせたウルフォンがいた。

「――なにを」

「どうせきらわれるなら!」

 レオンハルトの腹に自身を預けて顔をじいっと見つめていたウルフォンは、押し殺した声で言った。

「兄上に聞いてもら――」

「このバカ!」

 レオンハルトは容赦なかった。何事かを必死に喋っている弟を押しのけ、急いで身体を起こす。

 ウルフォンは暴れることはなく、いきなり拒絶された衝撃でほうけていた。

 肩で息をしていたレオンハルトは、ひとつ深呼吸すると、弟をじとっと見る。

「兄の寝室へ押し入り寝首をかこうなど、いい度胸だ。だれが手引きした?」

 兄のあまりの形相に、ウルフォンは真っ青になる。そうして、あわてて寝ている兄の上にのっていた言い訳を話し出した。

「ぼ、僕は兄上にきらわれたくなかったんだ。でも、どうしても、なぜ兄上が怒ったのかわからなかったから、せめて謝罪を聞いてもらおうと――」

「怒った?俺が?」

 レオンハルトはびっくりして、表情を緩める。

「そうだよ。マントなんかいらないって言って、怒ったじゃないか……声をかけても、眠っている兄上はちっとも起きないし……」

 ようやっとわかった。レオンハルトは力を抜いて、ため息をこぼす。

 弟は激しく勘違いをしている。

「……兄上?」

「悪かったね。俺、君を怒ったわけじゃない」

 拘束をとき、レオンハルトはウルフォンを起こして言った。

「俺がいらないと言ったのは、マントの影に隠された意味さ」

「……意味?」

「そう。君が言っただろ?他国は兄である――第一王子贔屓だと」

 きょとんとするウルフォン。レオンハルトは苦笑を浮かべ、そっと弟の頭を撫でた。


「……俺、ウルフォンが王になればいいな」








‡×†×‡×†


 いつの間にか朝を迎えていた。レオは腕がやたらと重いので、思わず顔をしかめながら目をあける。

 そこに、じっとこちらを見つめる弟の顔があった。

「うわっ」

「相変わらず、兄上は目覚めが鈍い」

 くすっと笑いながら、ウルフォンは枕にしていた兄の腕をとる。

 レオは顔をさらにしかめた。

「君……いつから俺の腕を……」

「ついさっきまでは、母上が。で、あんまりにも気持ちよさそうだったので、朝食を取りに行った母の代わりに僕が」

 淡々と言い放つ弟を飽きれ顔で見て、レオはため息を飲み込んだ。

 本当にこいつら親子は、と唇を噛む。

「まあまあ兄上、怒らないで!僕、母と新しいペットの名前を考えたんです」

「ペット?」

 レオは首を傾げる。ウルフォンはにっこりして告げた。

「幸せの青い鳥――名前は、レオンです!」




 この日から数日後、レオンハルトは城を後にした。その理由を知る者はいない。

 しかし――

「母上……兄上はやはり、僕をおきらいなのでしょうか?」

「そんなことはないわ!わたくしたちの愛が伝わっていないだけよ!そうだわ、レオンに手紙を運ばせてみましょう?」

「手紙?」

「そうよ!きっとレオちゃんは、寂しいのよ。だから、レオンに手紙をたくさん運ばせてあげましょう?」

 母のアイデアに、ウルフォンは満面の笑みを浮かべた。





(――危険だ)

 レオは照り付ける太陽の下、鳥肌がたつのを止められなかった。

(危ない気がする……ウルフォンと義母上がそろえば、絶対に……)

 逃れられない――レオは必死で、寒気がするのを忘れる努力をした。











この兄弟、好きなんです。

というか、はじめて登場させたメディルサの王と妃。


王様はなんていうか、食えないイメージ。

お妃さまは、ウルフォンの母親だから、親ばか。

というか天然。

というか凄まじい性格だと思います。

愛より勝るものなし!って、平気で叫べそうです笑



大丈夫です、変な愛じゃありませんから。

兄弟愛と親子愛です(笑



では、ありがとうございました!


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