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僕の馬に乗らないで!~僕馬相乗りシリーズ③ (ユリウス視点)

第三部はユリウス視点です!


ちなみにタイトルの他候補は

「僕の馬には乗らせない!」

「僕の馬には乗れません!」

でした…どちらにしろ、激しく拒否してますね(笑



【僕馬相乗りシリーズ③~僕の馬に乗らないで!(胃薬、常備しよう……)】




 ゴホン、とひとつ大きな咳払い。緑の目をした少女がこちらを見てびくりと怯えたことに軽くショックを受けながらも、強面を存分に生かして威嚇する。とにかく心情は、「空気読め!」である。

 しかし、なんたることか。当の少女はランスロットにSOSを出しやがったのだ!

 ランスロットはユリウスにとってあこがれ的存在である。そんな人物からギッとにらまれたら、やはりすくなからずショックだ。あわてて誤解だと首を振ったが、やはりショックだ。くそ、と悪態をつきたくなる。

 まぁとにかく、ショックのかいあってランスロットもアルのまなざしに気づいたらしい。あとは任せよう。どうにかしてくれるだろう――そう人任せにしたのが悪いのか。


「そうか、なればユリウスに相乗りさせますか?」

「はあっ?」


 裏切りだった。鳶色の目に笑みを隠し、しれっと言い放ったあこがれのランスロット。ユリウスはぎょっとした。思わず変な声まで出してしまったではないか!

 無理無理、と首を激しく振る。と、赤毛の少女が拗ねたように口を切った。

「そんなに拒絶しなくてもいいじゃない……ユリウスのばか」

「なに言ってんだよアホゥ!スー、おまえ今どういう状況かわかって――」

「……ユリウス……?」

 ぽつり、とアルがつぶやく。しかし、名を呼ばれたわけではないらしい。

「……お、王子……?」

 恐る恐る目を合わせる。と、魔王が降臨なさっていた。

「そういえば、僕の召使が貴殿に世話になったみたいだけど」

 いきなり顔をあげたかと思えば、にっこり笑みつきでアルが話しかけてきた。

「そうか、それで呼び捨てにしあう仲なんだね。『それ』が人に敬称をつけないのはめずらしいから」

 笑顔のまま王子の応酬はつづく。

「それにお互いどこか砕けた雰囲気で睦まじいよね」


 尋常じゃない被害の被り方である。なにか悪い行いでもしただろうか。本気で泣きたくなる。

 ユリウスはアルの絶対零度のほほえみに顔を真っ青にさせて、じりじりと後退していった。


「僕の知らない間になにがあったのかな。ん?どうしたのユリウス、顔色が悪いみたいだけれど」

(そりゃぁ、おまえがこいつを城から追い出したからで……)

 ユリウスはこういう場面では利口な男だ。口をつぐむ努力は怠らない。が、アルの口はとまらない。

「遠慮せずに言えばいいよ。別に、罠があるわけでもないんだし、そう警戒しないで、さあ、すべてを打ち明けてごらんよ」

(いやいやいや、いい笑顔の敵意剥き出しでなに言ってんだこの王子さまは!)

 にじり寄りつつ、しかし、アルの目は怖いくらい笑みをとっている。

「どんなふうに、仲良くなったのかな?包み隠さず、教えてくれるよね」

(俺の人生も、これまでだろうか……最期にローザの笑顔が見たかったな)

 花屋の看板娘だと評判のあった、口説き途中の彼女を走馬灯のように思い出す。彼女には恋というより癒しを求めていた気がする、なんてことまで考え出した。

 いわゆる、現実逃避である。

 が、神は彼を見捨てていなかったらしい。


「で、君たちはいつまで手を繋いでいるの」


 矛先が再び、外れたのだ。



(あ~の~バーカーたーれぇえ!)

 ユリウスは今まで見せたこともないほどの殺気を漲らせた。それこそ、戦場で将軍クラスと渡り合うときのような、はたまた最上級の正念場で力試しをするときのような、とにかく常とは比べものにならないほどの圧力だ。それほどの眼力であわてて手を離す赤毛の少女を威嚇したのだ。その威力は凄まじく、きっと天から見守る神様が願いを叶えてくれたのかもしれない。

「あの、アルさま」

「なんだ」

 アルの機嫌がなぜか落ち着いたのだ。ユリウスは首を傾げつつも思わず天に祈った。神父だか牧師だか知らないが、元聖職者のセルジュをライバルと呼べたおかげかもしれない、とさえ思えてくる。

「わ、わたしは構いません。徒歩でも、大丈夫です。ですから、あの……遠慮なく、ランスロットさんと相乗りを……」

 しかし、神は悪戯好きらしい。ユリウスの度肝を抜いた。

「ですから……久々におふたりでお互いをよろこび合いたいかと……」

 ぶっ、と勢いよく吹き出し、即座にしまったと急いで自分の口を覆う。たらりと背中にいやな汗をかいた。

 まったく、考えもつかないようなことを口走る少女だ。ユリウスは自身の口を覆っていた手を、彼女へ差し向けたくなった。

 すくなくとも、スーが変なことを喋らない限り自分は二度と吹き出すという失態をしないだろう。

(口を塞いでやろうか!)

 しかし幸運なことに、あわやと思われたユリウスの運命も、アル王子の視線が赤毛の少女に集中していたことで免れた。

 ほっと息をついたのもつかの間、つづいたスーの言動にユリウスは再度失神しそうになった。いや、むしろ気を失ってしまいたかった!


「あっまっ、まちがえました!アルさまは、もしかしてランスロットさんの手を握りたいのでは……」

「ちがうから!おまえもう喋るな!」


 ああ、なんてことだ。

 ユリウスは打算的な生き方をしてみたいと唐突に思う。というか、そういう人間キャラになりたい。こんなに、ある意味どぎまぎして過ごすのはまっぴらごめんだ。

 しかし、不思議なこともあるものだ。アルの機嫌は再び落ち着いたようだ。

(まさか図星……なわけ、ないか)

 ほとほとあきれ、涙が出てくる。

 この赤毛の少女に恋したことがあったような気もしたが、気のせいかもしれない。いや、気のせいだ。

(めんどくせぇなぁ……ったく)

 じれったいふたり。ユリウスは『面倒くさい』とは程遠い柔らかな笑みを浮かべてふたりをながめた。




 ランスロットが敬礼してきたことにぎょっとし、見なかったふりをしたあとで――実際、二度見した際にはすでに騎士ランスロットはいつもの無表情で前方に向き直っていたので、幻覚かもしれない――、ユリウスはやや遅れて馬を歩かせる。

 前をゆくランスロットは、騎士の鑑だ。主を護る、鉄壁。そして、敵を切り倒し道を切り開く剣。

 スーはアルのことが好きなのだろう。そしてたぶん、アルも。

(なんだかなァ)

 幸せを噛みしめているような王子の姿に苦笑して、ユリウスはランスロットの隣へ馬を進めた。


 ふたりはなるべくゆっくりと馬を歩かせる。前をゆく、主の邪魔をしないように。





 ――ところで――


「アンタも、スーが好きだろう?」

 は、という声は妙な空気になってユリウスを唖然とさせた。

(は?えっ?なぜバレて――って、ちがう!俺は潔い男であって、決して未練がましくは……)

 などと脳内で必死に言い訳をまくしたてているユリウスに構わず、冷静な騎士はつづけた。

「俺も、好きだ」

(…………え?)

 氷の騎士とさえ云わしめる男の言葉だ。二言はない。冗談であるはずがない。

 そのときのユリウスの表情を見れば、きっと皆が皆、同情に胸を痛めたことだろう。

(なんてこった……)

 次に黒髪の騎士を目にしたとき、その目元にわずかな笑みが浮かんでいることに気づき、ユリウスはさらに愕然とした。むしろ空恐ろしくて震え上がった。

 その笑みの理由は、考えないことにする。


 巷で流行る乙女のあこがれる小説には、こういう要素が欠かせないだろう。

 たとえば王の寵姫に恋する側近の騎士。そしてまた同じく、彼女に恋い焦がれる傭兵上がりの騎士、など。そのような設定の小説がおもしろいのだと、麗しのローザの友人であるシルヴィが言っていたのを思い出す。

(悪夢だ)

 それを聞いた自分は、養父と置き換えて爆笑したものだ。

 ソティリオの寵姫に胸を焦がす騎士アーサーと、そして彼女をかけて奪い合うもうひとりの騎士イライジャ――そんなことがあれば腹を抱えて笑ってやろう、とネタにしていたのに。

 まさか自分が、当てはまってしまうなど。

(い、いやちがう……俺はす、好きなんかじゃない……だから大丈夫だ)

 キリキリと痛む胃を抑え、ユリウスは天を仰ぐのであった。



 とにもかくにも、『アルのお気に入りの寵姫スーは、自分の馬に乗せない』という教訓を得たので、よしとしよう。





ユリウスがなんだか苦労性になってきた……(苦笑い



リクエストいただけて、書けました!

ありがとうございました!

とても楽しかったです。


アル視点はもちろんですが、ランスやユリウスの思考回路も壊れてて楽しかったです。

本編より書きやすかったような……(笑

これは相乗りシリーズとか僕馬シリーズとか勝手に命名して呼んでます(笑


ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

すこしでもお楽しみいただけたなら幸いです。



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