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それでも、人として

おかえり

作者: マーク
掲載日:2026/04/29

『じゃんけんしよ!』


『なぜ』


『今日のご飯当番を決めるの』


『やりたくないなら、僕がやろう』


『そうじゃなくてね?』


『…あぁ、わかったよ』


『それでいいの。もちろん、いろいろ禁止ね?』


『言われなくても』


『じゃんけんぽん!』




うーん。


今日のご飯をどうするか、私は考えていた。


見事に負けた。それはもう見事に。


駄々をこねて3回戦にしても、ストレートで負けた。


『私、じゃんけん弱い?』


でも、いいところもある。


彼に作らせると、いつも野菜をたくさん入れてくるし。


おいしいんだけど、なんかこの、なんかやだ!


彼、好き嫌いとかないし、今日は好きなもの作ろっかな。


『ねぇ!それ、そろそろ収穫?』


家の中から、彼に声をかける。


『あぁ』


『じゃ、取っといて』


『わかった』


こんな会話も、もう自然と出来るようになった。


私は、何も聞かない。


必要ないから。


『ねぇねぇ』


『なに』


『前さ、私が本を買って来て、一緒に読んだとき、ありえない、って言ったじゃん』


『あぁ』


『あのとき私そのまま寝ちゃったからさ、理由を聞けなかったんだけど、なんで?』


『……命を犠牲にしても、大したことは出来ない』


『え?』


『命を犠牲にして結界を解く、命を代償に契約する。そんなのは、ない』


『なんでも出来る君も、見たことないの?』


『ない。命を落とすほど、枯れ果てるまで振り絞っても、そんなことはできない。人の命一つに、多くを変える力などない。一瞬で何かを変えることなんて出来やしない。そんなこと、迷信のようなものだ』


『なんか、がっかり』


『…それは、そうかもね。でも、これを聞いて思うべきは、何が大事か、それだけだよ』


畑仕事を続けながら、淡々と答えた。


しばらくして、彼が外から戻ってきた。


淡々と、保存のための準備をしている。


私はというと、本を読み返していた。


心優しい青年が、自らの命を犠牲に、世界の人々を、人知れず救う、そんな話を。


『素敵だけどな~』


『…そうだね。素敵だと、僕も思うよ』


作業を続けながら、彼は言った。


『でも、これを信じてしまったら、それこそ、過信になってしまう』


『…そうかな』


彼が言うことはいつも、諦めのような、悟りのような、そんなものが含まれているように感じられた。


それが私には、たまらなく、痛く見えた。


何度も何度も、期待しては裏切られて、信じることが怖くなってしまっているような、そんな、邪推が止まらなかった。


『今日は、何を作ろっか』


私が出来ることは、これぐらいで。


確かに、世界を変えるなんてことは、出来ないのかもしれないと思った。


それだけ、だけど。

おしまい

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