秘密の会話
ナロンは直ちに進路の変更作業に取りかかる。
「ナロン、任務内容を教えてくれ」
「救出任務だ。ナクとスクレが拘束されたらしい。場所はテストロンの近くのヘスペスって惑星だ。楽な任務ではないな」
ナロンは進路変更を終えると、シャワー室のドアの非常用ロックを掛けた。
「彼女をどうするか考えなくちゃいけい。結論が出るまでドアはロックしよう。聞かれたら困るからな」
そう言ってナロンはアダムの方に向き直った。
「任務には邪魔だな」
アダムは認める。
「色々知られると都合が悪い」
とナロン。
「ヘスペスの、任務地とは遠い場所で下ろすのが一番だろう」
とナロンは続けた。
「ヘスペスは原始的な惑星じゃねぇの?都市はないだろ」
「アダム、これは任務に関わる問題だ。大事なのは彼女でも彼女の持つ情報でもなく、ベストな状態で任務を遂行できるようにする事だ」
こういう時にナロンの瞳に迷いはない。
アダムは諦めた顔をして肩をすくめた。解ったよ好きにしろ、これがそういうサインである事をナロンはよく知っている。
「そう言えばさっきドアを叩く音がしてなかったか?ナロンもういいだろ、ドアを開けてやれ。酸欠になっちまう」
「あぁ、そうだよな」
ナロンはそう言いながらドアのロック解除を行った。
しかし暫くしてもイシュレは出てこない。
アダムはシャワー室のドアを開けてみる。
イシュレは震えていた。ドアの前で、自分の体を両手で守るようにしてしゃがみこんでいる。髪や肌は濡れたままだ。その目はアダムを捕らえた瞬間、彼を鋭く睨んだ。
激しい敵意と深い怯えが混在するその瞳を、まるで深手を負った獣のようだ、とアダムは思った。
「悪かったな、仕事の話をするのに必要だったんだ」
まだ震えの治まらないイシュレに、アダムは手を差し伸べようとようとしてやめた。
「閉じこめられたわ」
「閉所恐怖症か」
その質問には答えず、イシュレはふらふらと立ち上がる。
「あなた達の話してた事、わかるわ」