取引
イシュレは薄暗い閉鎖空間に素性を知らない二人の男といる事にかすかな恐怖を感じたが、すぐに好奇心が勝り周囲を観察し始めた。船内はあまり広くないが、いくつかのドアが存在する。今入ってきたドアが一番大きく、奥の壁には細いドアが四つ、その他にも人が一人通れる程のほぼ正方形のドアが三つ存在する。金属張りの壁や床は光沢がなく少し古い感じで、全体的にとてもシンプルだ。操縦桿と今いる部屋は、少しだけ白く色付く透明な壁で仕切られている。
周囲の様子を一通り観察すると、イシュレは本題を切り出した。
「もう一度聞くわ、なぜ私を助けたの?」
ナロンは自分には関係ないという風に、壁に備え付けのベンチのような物に腰を下ろした。
アダムは壁に寄りかかり、床の一点を見つめたまま口を開いた。
「あの監獄からそのか細い体でどうやって脱獄したかを教えてくれたら仮はちゃらにしてやるぜ」
イシュレは暫く思考を巡らせた。そしてゆっくりと慎重にきりだす。
「それはできないわ」
「おい感謝の気持ちは?!」
声を荒げたのはナロンだった。アダムはそれを遮るように続ける。
「理由は?」
「私を故郷ミスカバルまで連れていってほしいの。ここにいては生きるも死ぬも同じ事だわ。もちろん連れて行ってくれたらすべてを話すし、出来る限りのお礼をするつもりよ」
イシュレはそこまでを一気に言った。
「解った」
「おい正気かよーアダム」
ナロンはもはや呆れている。
「その代わり連れて行った後で話さなかったり、話した情報が使えない物だったりしたら、今ここで船を下りなかった事を後悔するぜ」
イシュレはアダムに睨まれて後ずさりしそうになるのを堪えながら、頷いた。