夕食
料理も次々と運ばれてくる。
白くてぱさぱさした肉、白い筋の通った鮮やかな赤色のベビーリーフ、何にしても船の中での宇宙食の後に食べれば、ごちそうに感じる。
柄付きのスティクでそれを突き刺し、二人は思い思いに好きなものを口にはこんでゆく。
イシュレは騒がしい店内と、目の前のアダムを観察した。
店内にはもっと奥の部屋があるようで、目立たない扉が一つある。
アダムといえば、イシュレには何も関心がないようだ。
テーブルに片肘をつく体制で、食べるのをやめないまま、店内を気にしている。
イシュレもつられて店内を見回した。
くすんだ色のライトが、何かの動物の丸焼の不気味なシルエットを浮かびあがらせる。
きょろきょろしていると、ヴィヴィットなピンクの目の色をした、あばずれと呼ぶのがよさそうな女に睨まれ、視線を下げる。
視線を下げた先の床に、円形の、足がたくさんついた虫を発見し、イシュレはついに溜息をついた。
その時、入口の方で、騒がしい店内でもはっきりと際立つ、何かが破裂したような音がした。
その後に、男達の派手な笑い声。
一瞬僅かに店内の雑音のボリュームが下がったが、店内はまたすぐ元の騒がしさに戻る。
しかし店のオーナーが入口の集団に近付いて行き、空気の振動が伝わってくるようなどすのきいた声で集団を怒鳴りつけた時、店内はほんの一瞬だけ静寂に包まれた。
「そうゆう事は奥でやってくれ」
戻りつつある騒音の中、イシュレはオーナーがそう言うのが聞き取れた。
暫くして、恰幅のいい三人の男達が、しぶしぶ、といった足取りで、入口の方から奥に向かって歩いてきた。
三人の第一印象をいうなれば、“最悪”だ。
一番体の大きい男は、妙にリアルな角をはやしているし、半裸の男の皮膚は布をつぎはぎしたようにあちこちで質感が異なっている。
そして最悪な事に、アダムがその集団に挨拶するかのようになれなれしく片手を上げた。
さらに最悪な事に、その集団はアダムと知り合いの様で、こちらに向かってやってきた。
店の客が好奇の視線を投げかけてるのも気にせず、集団はイシュレの知らない言葉で、大声でアダムに話しかける。
大きな、まな板の様なような手でアダムの背中をどんどんと叩くと、集団とアダムは笑い出した。
席を立とうとするアダムに、イシュレは信じられないという視線を向ける。
その視線に気付いてか気付かないでか、アダムはイシュレの方を振り向き、手のひらほどの大きさの三角のカードを取り出す。
「食い終わったら、これでエア・カーを呼べ、何か分かんねぇ事あったらオーナーに聞けよ」
その瞬間、イシュレは、食べかけの肉と共に放置されるという現実を突き付けられた。
アダムと集団は奥の部屋に続く扉に向かって歩きだす。
イシュレは不愉快な気分のまま、アダムの後ろ姿を睨むようにじっと見た。
しかしアダムの代わりに振り向いた角男が片目をつむって見せたので、さらに気分が悪くなっただけだった。
アダムはいってしまった。
もう帰ろうかしら、そう心の中で悪態をつきながら、イシュレは目の前にほうり出された、三角のカードに目をやった。