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片腕の王女  作者: 赤屋根
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本拠地

ドームの中にはたくさんの太いパイプが通っていて、船はその中の一つを進んでいた。

パイプの中の決められた場所で船は停止し、そこで三人は降りる。

三人が降りると、船は再びゆっくりとパイプを進みだした。

パイプは船を格納庫へと導くはずだ。


三人は自動ドアからパイプの外に出る。

そこはまさしくドームの内部、メインホールであった。

幾枚もの透明な板が、太陽光を幾度となく屈折させ、乱反射させ、ホールをまぶしくない程に輝かせる。

イシュレは足元を見た。

はるか下にたくさんの人間の頭が見える。

それと分かるぎりぎりの大きさで。

透き通る床に宙に浮いているような気持ちにさせられるが、足元から伝わる、きゅっきゅっという確かな感触が、浮遊感をいくら和らげる。


ごったがえすという程ではないが、ステーションにはたくさんの人がいた。

様々な肌の色、髪の色、服の色。

多くの人が光沢のある生地の服を着ている。

イシュレのように、布を巻きつけた服装の人はそうはいない。

そのせいだろうか、通りすがる人がちらちらと視線を投げかけるようにするのは。

イシュレはそれを気にするように黒い布で半分顔を隠した。


ホールの中央の豪勢な噴水のまわりに備え付けられているベンチに座って十分、迎えが来たようだ。

床の深い溝にそって滑るように進んでくる一隻の運搬船カプセルに三人は近づいてゆく。

カプセルは三人の丁度手前で静止し、運搬船カプセルのカバーが大きく開かれる。

「おかえりなさいませ」

運転手が形式的な言葉を口にする。


三人が手際よくその船に乗り込み、カバーが閉じられた刹那、運搬船カプセルは滑らかに動き出した。



ステーションからきっかり三分運搬船カプセル本拠地ベースに到着した。

アダム達にとって馴染みの場所である本拠地ベースは、いくつもの巨大な円盤デスクを積み上げたような形をしていた。

円盤の間にはきっちりと等感覚な隙間があるが、もちろんそれは風通しの為ではないだろう。

円盤ディスクは上のものほど小さくなっている。


その巨大な金属の塊に、イシュレはなぜか不吉なものを感じた。

でも・・・一番上の円盤ディスクからの眺めはなかなかよさそうね、イシュレはそう考える事で不吉な予感を追い払った。



本拠地ベースは何重もの警備で固められていた。

アダムとナロンは軽い生態認証ですまされたが、イシュレは二人の何倍もの認証に加え、生体の様々なデータを記録される。

テストロンでの脱獄がデータネットに開示されていたら問題になるところだが、その情報は開示されていないようで、イシュレはようやく検問から開放された。


本拠地ベースに入ってから黒い制服に身を包んだ男の姿ばっかりだったが、わりと小さなフロントにはきちんと髪を結わえた若い女性が二人立っている。

水の流れを利用したアートが壁一面のほどこされているその場所で、イシュレは部屋の鍵となるコードを渡される。


ゲストルームと本拠地ベースの住人達の部屋は異なるフロアにあり、それぞれの場所に行く方法も異なる為、アダム達とイシュレはそこで別れる事となる。

「何かあったらフロントに言え。無料ただで食べれる所もここの中にあるから。俺らへの連絡もフロントを通せ。二三日中に、暇を見つけてミスカバルに送ってやるよ」

「分かったわ。ありがとう」

イシュレはアダム達が疲れた足取りで通路の中に消えていくまでその後姿を見送った。



イシュレは床で等間隔に点滅するガイドライトに導かれ、ゲストルームに辿りついた。

コードを言うと、薄い刃のようなドアが開く。


中はいたって普通の造りだが、あるべき物があるべき場所に収まっているし、小さいながら窓もついている。

プッシュオープン型のキャビネットには、アセチルで一般的なデザインのセットアップが入っていた。

イシュレはそれをつまんで目の前に掲げてみた。

グレーのその服は、イシュレの体にぴったりと合いそうだ。

白が貴重のその部屋の、中央に置かれたベットに座ってみると、冷たいそれはゆったりと体にあわせて沈みこむ。


丁度座った目線の先に、ただ丸い大きな鏡があった。

イシュレはそれを見た。

一年前より少し大人びた顔。

でもそれは16才にしては幼い。

すみれ色の目には、疲れと、緊張と、さみしさが浮かんでいる。


しかし今イシュレの心を圧倒的に支配していたのは、さみしさだった。

突然一人になった時に姿を現す静寂。

それは心地好い事もあるが、時には心を押しつぶさんとする大きな見えない波のように遅い来る。

その波に、イシュレはテストロンで幾度押しつぶされそうになったことか。


どうしたらいいか分からない、その感情は近頃、親友と呼べるほど良くイシュレの側にいた。

イシュレは窓の外を見た。


私は今、自由なのね


その響きは思いのほか素敵だった。

物心がついた時から育った家には、一つも窓がついてなかった。

もちろんテストロンの監獄にもだ。



ゲストルームは下の方のフロアのようだ。

窓の外の景色が船のフロントガラスから見えたような絶景ではないのが残念だ。

自由、自由。そうイシュレは心の中で唱えてみる。

それでも気分はあまり晴れない。


規則正しく縦列して宙を移動する船や輸送ボールを見ていると、ふとアダムの顔が浮かんだ。


ほっとけ、変なやつだ

そう言ったときのあきれたアダムの表情を思い出す。


フロントに言え、フロントを通せ

そう事務的に言い放つアダムを思い出す。


「後三日の付き合いにしても、少しくらい仲良くしてくれてもいいじゃない」

窓ガラスに額をくっつけたまま、オレンジに色づいてきた夕日を睨みつけながら呟いた。


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