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片腕の王女  作者: 赤屋根
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アセチル

アセチル到着に先だって、飛行は自動から手動に切り替えられた。

手動切り替えは余裕をもって、着陸五時間前から行われた。

アセチルは銀河屈指の工業国であり、人や物を乗せて運ぶ船が領有宇宙付近にひしめき合っているからである。


「船を直接病院につけよう。ツェネフ国立病院で受け入れが可能か問い合わせてくれ」

メインパイロットをしているアダムが横にいるナロンにマイクを通して言う。

了解、そう言い病院の通信センターに問い合わせる。


「受け入れ可能、第七ゲートで待機してるそうだ」

了解(ラジャー)


大気圏に突入した為か、気付けば周囲が明るくなってきた。

大気は特徴のある青緑色だ。

地上より遥か遠く、まだ雲の上だというのに、いくつもの色とりどりの誘導灯が宙に浮かんでいる。

船の中まで響いてくる轟音と共に、円錐型の超大型の船が目の前を斜めに横切る。

鈍い鉄色のそれは、貨物船だろうか。

フロントガラスからの景色では全体が想像出来ないほど巨大だ。

イシュレは初めて見る光景に度肝を抜かれているのか、透ける壁に手のひらと額をくっつけてフロントガラスの外の光景に見入っている。


「あぶねえな」

そう悪態をつくアダムは船を急旋回させる。

正規の誘導ルートから外れたのか、決められたルートに戻ってください、と音声ガイダンスの機械的な女性の声がする。


「近道するぜ」

「安全飛行をたのむよ」

二人の背後からは急旋回にバランスを失ったイシュレのきゃっという悲鳴が聞こえる。



白い綿雲を一瞬で突き抜け、見えてきたのは人間達の巣、巨大都市だ。

どこまで見渡しても、アセチルがかつて土と岩と海だけだったころの面影はない。

建物は大昔にアセチルの表面を覆いつくし、それが終わるとまだ飽き足らない人間達は上へ上へと都市を成長させた。


人が無力である事を思い知らされる虚無の宇宙空間から帰ってきたパイロット達は、まるで人間が惑星を征服したかのようなその光景に、少なからず安堵を覚えるものだ。


それはアダムとナロンにしても同じ事だった。




上空の船の流れを取り締まるポリス・パイロットにつかまる事もなく、船はツェネフ国立病院へと、人工建造物のジャングルをすり抜けながら向かう。

ツェネフ国立病院は一目でそれと分かるような特徴的な外観をしていた。

際立って巨大な太い円筒状のその建物は、白いつるつるの表面をしている。

そばによると、その表面は日の光を反射して、控えめなプリズムのように照り輝く。


まっさらな表面にランダムに存在する僅かな窪みが搬入ゲートだ。

船でゲートに接近していくと分かるのは、僅かな窪みは、船を停めるのに十分な広さを持つという事だ。


第七ゲートには数人構成された医療班と幇助ロボットが待機している。


打ち合わせ通りに事は進んでゆく。

医療班と幇助ロボットはスロープから船に入ってきて、ナクとスクレをストレッチャーに乗せる。

その間、アダム達にかかさず挨拶をしたり、適当な愛想を振きながら。


「治ったらすぐ連絡しろよ」

視界から消えるストレッチャーに向けた言葉に、幇助ロボットが曖昧なお辞儀を返す。



「ねえ、これからどこに行くの?」

まだ半透明の壁に張り付いたまま、イシュレが訪ねる。


アダム達の船は、他の船や、決められたルートを走る輸送ボール、緻密に入り組む建造物の隙間を縫うようにしてステーションへと向かう。

影から光の当たる場所へ、また影の中へを繰り返しているうちに、壁、床、柱までもが透き通るステーションが見えてきた。

上部はドーム状で、様々な船や輸送ボールが発着している。

ドームを支えているくびれた基部も、やはり透き通っていて、そこには様々な形の主に中型以下の船が整然とと格納されている。


「俺達の本拠地ベースさ。一段落ついてお前を送ってやれるまで、客室ゲストルームで生活してもらう事になる。それでもいいか?」

「えぇ、いいわ」

そういうイシュレは、いままで見た事のない新世界にまだときめきめいていた。





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