スクレの憂鬱
飛行が自動飛行モードに切り替わってから二日が過ぎていた。
アダムとナロンはその間五時間交代で操縦桿を握り、操縦桿を握ってない間に睡眠をとったり休憩をしたりした。
二人は一番下の段のベットで交互に仮眠をとったが、イシュレは馴れてるから、と言って部屋の隅で毛布にくるまって睡眠をとった。
今、操縦桿はナロンが握っている。イシュレは休息室の椅子に座り、
テーブルに突っ伏している。そこへアダムが手に夕食を持って入ってきた。
銀色の真空パックに入ったそれは、イシュレがこの船に乗って唯一口にした食べ物である。
栄養補給のみを目的にしたその甘くなくパサパサした食べ物にイシュレは心底うんざりしていたが、本音が表情に出ないように気をつけながら受け取った。
アダムも細い金属のパイプでできた椅子に粗雑に座り、真空パックの袋を開け始める。
口に詰め込むようにしてアダムがほとんど夕食を食べてしまった頃、中段のキャビンで寝ていたスクレがゆっくりと肘をついて半身を起こした。
「よう、調子はどうだ」
スクレはその言葉に腕をひらひらと振って見せた。
けだるそうにゆっくりと体を動かし、移動式ステップで床へと降りてくる。
「さっきより視界が歪んでる気がするよ」
壁をつたい、手を借りて椅子に座ったスクレにアダムはこれもまた真空パックされた流動食を手渡す。
「ナクは?」
「そこで寝てるよ」
アダムは上段のキャビンを顎でしゃくる。
スクレは安堵と疲れが混じった短いため息を一つついた。
そして流動食の封を切り、口に少しずつ流し込む。
あまり食欲はないようで、たまに流動食の味にうんざりしたような表情をする。
「ところでさ、さっきから視線を感じるんだ」
スクレはイシュレに目線を移す。
イシュレはパック詰めされた夕食を口の前に両手で持ちながら、
スクレを観察していた。
焦点が合わないスクレの眼に睨まれても、眼を大きく見開いたまま好機の混じった眼で見つめるのをやめない。
「言葉が解らないの?」
スクレはイシュレではなくアダムに聞く。
「話せるよ、普通に」
アダムは面倒くさそうに言う。
「じゃあこの人に言ってやってよアダム、僕の何がそんなに面白いのかって」
「ほっとけスクレ、おかしな奴だ」
「失礼ね」
アダムの言葉にイシュレは少しむっとした顔になる。
「失礼なのはお前だろ」
今はもう自分の方を見ているイシュレに向かって、アダムは言う。
その言葉にイシュレは席をたった。
「別に面白くなんかないわ、ちょっと関心を持っただけよ」
そう言うとイシュレはドアから休息室を出て行った。
「悪ぃな、アセチルまでもうすぐだ。それまで寝といてくれ」
「そうさせてもらうよ。お礼は元気になってからたっぷり言う事にする」
アダムはスクレがベットに再び横になれるよう手を貸し、それが終わるとアセチルへの着陸態勢を整える為に操縦室へと向かった。