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片腕の王女  作者: 赤屋根
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乗組員の増えた船

「ナクとスクレの救出は完了しました」

ナロンがソバージェに今までの経緯を大まかに説明すると、ソバージェはそれを硬い表情を崩さないまま聞く。


「しかし問題があります」

その言葉に、ソバージェはナロンの顔に目を向ける。

「ナクとスクレの様子がおかしいんです、何らかの治療が必要と思われます」

「そのようだな。だが心配ない、症状を改善する特効薬があるんだ。安価な薬だが出回ってはいない。アセチルで治療する必要があるな」

「二人をアセチルまで帰還させます」

「頼んだぞ。ところで…」

ソバージェはアダムとナロンの間から後方に目を凝らす。

「誰かおるな」

ナロンがアダムの方に目を向けたのでアダムが説明する。

「休暇中に船に乗せたんです。故郷に送ってやるつもりでしたが、任務が入ったのでそれができませんでした。今の所任務に支障はきたしていません」

「そうか…」

ソバージェは少し考えるようにしてから続けた。

「何においてもナクとスクレを最優先にしてくれ」

「もちろんです」

アダムは少し頭を下げながら言う。

「二人を頼んだぞ、アセチルの地で会おう、同士よ」

そう言うと、ソバージェの像は水面に細かい波紋が広がるように消える。

アダムとナロンは目の前球が完全に消えるまで頭を下げる姿勢を崩さなかった。



イシュレはその会話をじっと耳を澄まして聞いていた。

会話を終えると、アダムが操縦室から透き通る壁を抜けて出てくる。

アダムはまっすぐスクレの方へと向かうと、意味もなく突き進むスクレの腕をつかんだ。


スクレは小柄だ。背はイシュレよりは高いが、アダムよりは大分低い。

体の線も細く、細い髪もいかにも繊細そうで、一見子供の様にも見える。


そのスクレの腕をとり、アダムは休息室へと向かう。

休息室のベットの中段にスクレを寝かせると、アダムはキャビネットへと催眠薬を取りにいく。


「良くなるのかしら」

開けっ放しの休息室のドアから入ってきたイシュレが、スクレの方に目を向けながら言った。

「あぁ。特効薬があるらしい。まずはアセチルに戻るからな」

「いいわ。そんなに急いでる訳ではないの」

アダムがスクレに催眠薬を飲ませるのを眺めながらイシュレは続ける。

「あなた達はアセチルの軍人なのね。仕事内容からすると特殊部隊って感じかしら」

「あんまり詮索するな。でないと別れる時に記憶を一部消す事になる」

「うそよ」

「ほんとさ」

イシュレは不満げな表情でアダムを睨めつける。

「お前はどうなんだ、人の事ばっかりで自分の事は話さねぇじゃねか。どんな罪でテストロンの監獄にお世話になってた?」

その質問にイシュレはしばし考え込む。

「私はどんな罪も犯してないわ。ある日突然、見知らぬ人間がたくさん家に上がり込んできて、無理矢理連れていかれたのよ」


その答えを聞いて、アダムは面白そうに少し微笑む。

「お前はまだ子供だな、そんな見え透いた嘘をつくようじゃ」

「嘘じゃないわ。信じて欲しいなんて思わないけど」

そう言いながらも悔しそうな表情のイシュレを見て、アダムは笑うのをやめる。

「何も知らねえようだから言うが、テストロンの監獄は死刑囚と終身刑囚の為の終身監獄だ。一回入っちまったら二度と出てこれねえんだよ。だからテストロンの囚人は救いようのない大悪党って決まってる。もちろん裁判所のお墨付きのな」

そう言うとアダムはドアの方へ向かった。


その背中に向かってイシュレが挑むように問いかける。

「もし本当だったら?」

アダムはドアの所で少しだけ振り向いて言った。

「何か大きな事に巻き込まれてる」



「そうね…」

イシュレが呟いた言葉は誰にも聞こえる事はなかった。









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