救出
ナクとスクレの救出は順調に進んだ。
二人は念の為目印の細い糸をひきながら、洞窟の奥へと進んでゆく。
泉の水が澄んでいる事意外は、先程とはほど遠い光景が目の前に広がる。
膝まで水につかりながら、二人は洞窟の奥を目指した。
アダムとナロンの手には、ナクとスクレの体内に埋め込まれているチップからのデータを受信する“探知機”が握られている。
「近いぞ」
ナロンが小声でそう告げる。
ゆっくりと頷くアダムも、音や振動や匂いで、多くの人間の気配を察知していた。
洞窟の暗闇が薄明かりに染まり、お互いの表情が十分確認出来るようになった頃、狭い通路が途切れ、目の前に巨大な空間が現れる。
そこは大きく、そして明るく、天井の高いドームの中にいるようで、とても洞窟の中とは思えない。
アダムとナロンは洞窟の暗がりに身を隠したまま、様子を伺った。
ドームの中には表情が虚ろな何百人という人間がうごめいている。
体の力が抜けたようにその場に座り込んでいる人間や、あてもなくふらふらと歩く人間が大半だ。
その人間達は、みな白い簡単な造りの衣服を身に着けており、病人か囚人のように見える。
その中に、宇宙服のような服を着た人間がちらほら見受けられる。
「世話係か?」
ナロンが小声で囁く。
病人の間を縫っててきぱき動き回る姿は、他の病人たちとは一線を画している。
「目立つのは避けよう」
そう言い、ナロンは左手首に巻いてある幅の広い腕輪のボタンを押す。
すると、黒かったスーツが色あせていき、白に変わった。
アダムもそれに習う。
「お前はスクレ、俺はナクだ。ここで落ち合おう。穏便にな」
「分かってる。先に行く」
そう言いナロンは何気なく白い病人の群れに紛れ込んだ。
ナロンの姿が消えると、アダムも群れに紛れ込む。
高い天井に取り付けられているライトの白黄色の光が、白い服を着た人間達の表情を不気味に浮かび上がらせる。
ドームの壁が茶色いのは、先程船で見た植物が壁一面に群生している為である事にアダムは気が付く。
病人のような人間達は、姿勢を低くして探知機でナクを探すアダムの方を、ぼうっと眺めている。
探知機が指し示したとおりの場所にナクはいた。
地面に座り込み、下をむいてぶつぶつと何か呟いている。
アダムは側に駆け寄り、用意してきていた酸素マスクをナクに装着した。
そして、同じく用意してきていたアイマスクも装着する。
「ナク、聞こえるか?」
アダムは耳元で問いかける。
「助けにきたぜ」
ナクはいつのまにかひとりごつのをやめ、下を向いたままかすかに頷いた。
アダムはナクの腕をとり、人の間を縫うように進んでいく。
ナクがおぼつかない足取りでその後に続く。
二人が約束の場所にたどり着いた時、ナロンとスクレはもうそこにいた。
洞窟の物陰にかくれたアダムとナロンが目配せをした瞬間だった。
ビーッという警報の音がドームじゅうに響き渡った。