花の正体
「データネットに接続する」
そういうとナロンは慣れた手つきで中央のパネルを操作する。
s5ランクの危険植物の画像の中から数個をピックアップすと、
「これだな」
そう言い、鮮やかな色の花弁を持つ花の画像を選び出した。
「だけど真実の姿はこれさ」
パネルのデータと書かれた部位に手をかざすと、グロテスクな茶色い物体の画像にすり替わる。
平べったい球に拳ほどの深い窪みをいくつも持つそれは、花とは言い難い。
「ずいぶんかわいいじゃねえか、この嘘つき花め」
「ああ、とんだ嘘つきさ。問題は花粉がどこから体内に吸収されるかだが」
ナロンは高速でスクロールされる文字にざっと目を通す。
「呼吸器からだ。皮膚や感覚器からは吸収されない」
「酸素マスクだけで問題ねぇな」
「行くのか?」
ナロンはしばしアダムに戸惑うような視線をおくる。
「行かないのか?」
とぼけけたようなアダムの表情にナロンは溜息をつく。
「あいつはどうする?」
「洞窟の入り口で待機ってのが適役だな」
そう言い、アダムは必要な物を調達する為に武器庫の方へと歩いていった。
用意にそう時間はかからなかった。
二人は顔の下半分を覆う黒い酸素マスクを装着し、圧縮された酸素の入ったカプセルを首にかけ、服の中にしまう。
「私の分はないのね」
いつの間にか側にきていたイシュレが訪ねるような口調で言う。
「あぁ、門番をたのむよ」
そっけなく言うアダムの言葉にイシュレは渋々、という表情で従う。
三人は再びスロープを降りる。
足早に洞窟の入り口へと向かう二人を追うように、イシュレは小走りになる。
ナロンに続いて洞窟の中に入ると、アダムは一度振り向いた。
「そこを動かないでくれ」
緊張感が伝わったのか、イシュレは神妙そうに頷く。
二人が暗闇に同化するまで、イシュレはその場で二人を見送った。