予感
操縦桿に戻ってきたアダムは、乱暴に椅子に座った。アダムの固い表情を見て、ナロンは心配そうに声をかける。
「どうだ?」
「つながったまんま。キーはない」
「ちゃんと調べたか?」
「あぁ、ぜーんぶ調べたよ。トイレにキーを流したんだってさ。馬鹿な事してくれるぜ」
アダムのその言葉を聴き、ナロンは絶句する。
「じゃあどうするんだよ。これから」
「さぁな。とりあえず任務中はいらない事しねぇように眠らせとくしかねぇな」
ナロンは頭が痛いという風に額に手を置いた。
「俺が片付けて来る。終わったら、任務にすべてを集中しよう。到着まであと四十分だからな」
そう言ってアダムは席を立つと、薬品庫の方へ向かった。
薬品庫の中の暗闇を緑のハンドライトで照らしながら、長期効力型の睡眠薬の小瓶を選び出すと、それと共に注射器を一本手に持ち、休息室へと向かった。
休息室に入ると、イシュレは敵意のこもった目で激しくアダムを睨みつける。
アダムはそれにおかまいなしに小瓶を差し出す。
「飲め。睡眠薬だ。飲まねぇなら無理やり注射する」
注射器を見せられて、イシュレはかすかに震える手で小瓶を受けとる。
そして暫くためらった後、一気に飲み干した。
それを見届けると、アダムは少し口調を緩めて言った。
「暫く戻ってこねぇから、何も考えず大人しく寝とけよ」
そしてイシュレの頭にぽんと手を置き、ドアの方へと向かった。
イシュレはアダムが休息室から消えるまでずっと、アダムの背に鋭い視線を送り続けた。
「さぁ、これで大丈夫だ」
アダムは操縦席に着くと、ナロンの不安そうな表情を横目で見ながら言った。
「何か見落としてる気がするんだよ、アダム。」
ナロンの感がよく当たる事は二人とも身をもって知っている。
「考えすぎさ、色々あって集中しきれてねぇんだよ」
アダムはナロンを励ますように言う。
「ま、そう感じるんだったら、いつもより気合入れてこうぜ」
アダムは自分を励ますつもりでこう続けた。
ヘスペス到着まで残り三十分を切っていた。