休息室
休息室は薄暗く、壁に彫られた横穴のようような造りのベッドが縦に三段並んでいる。他の部屋の造りと違い、壁は金属製ではなく、少し弾力のある白い石のようなもので覆われ、湿度やアロマはリラックスできるように調節されている。
「ここでいいだろ」
アダムはベットの一番下を指差して言った。
「ありがとう」
イシュレはベッドの端に腰掛け、アダムを見上げて言った。イシュレに見つめられて、この容姿なら人間が住んでいる場所に下ろせば生きてはいけるだろう、アダムはそう思った。苦労はするかもしれないが。
「どうやって脱獄したかは教えてくれるか?」
アダムの質問に、イシュレは少し考えて答える。
「それはできないわ。私の故郷まで届けてくれるっていう約束だったもの。いつか思い出して、私を下ろした場所にまた戻ってきてくれたら、その時話すわ」
アダムの思ったとおりの返事ではあったが、残念だった。
「そうか」
いつか、そのいつかは来るのだろうか、アダムはぼんやりと考えた。
「ゆっくり休めよ」
そう言いながら、アダムは壁に備えつけられたキャビネットをあさり、武器となりそうな物をすべて回収する。
ひととおりキャビネットをあさり終わると、その中のひとつの銃をイシュレの方に向ける。
「いいか、くれぐれもいらない事は考えんな」
ウィンクしながらアダムがそう言うと、銃を向けられ一瞬びくりとしたイシュレはほんの少しアダムを睨みつけた。
アダムは休息室を出てナロンの元へ向かう。
「わがままお姫様はお眠りになりましたか?」
ナロンが嫌味っぽく言う。
「ああ。さ、始めようぜ」
アダムは操縦席にどかっと座った。
「ナクとスクレは、大型誘拐組織のアジトを調べるという任務中だったらしい」
指令の詳細を示した立体画像を見ながらナロンが言う。
「そのアジトには、誘拐された人達が一箇所に集められているようだ。監視はほとんどいないらしい。まあ山の奥に閉じ込められちゃ逃げ場はないからな」
「面白れぇな。じゃあナクとスクレは誰に拘束されたんだ?」
「それをさぐれって任務さ」
「知ってるよ」
素知らぬ顔のアダムに、ナロンは訝しげな視線を投げかける。
「まあ、ほとんど俺たちにナクとスクレの二の舞になれって言ってるような任務だけどな。こんな情報じゃ。」
ため息まじりのナロンの意見を、アダムは否定しなかった。