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第26話「監視対象:悪役令嬢」

【Side: Mia】

 翌朝。 王立学園の正門前には、ダンジョン実習に向かう生徒たちを乗せる馬車がずらりと並んでいた。 遠足気分で浮き足立つ生徒たちの喧騒の中、私──ミア・ゼン・シャーカンは、鋭い視線で周囲を警戒していた。


(……いた)


 人混みの向こう、教師たちの近くに、ひときわ目を引く真紅の髪が見えた。 エリザベート様だ。 彼女は誰とも会話せず、腕を組んで孤高を貫いている。 その顔色は、今日も悪い。ファンデーションで隠しているが、目の下のクマが濃くなっている気がする。 そして何より、彼女が抱えている鞄。 あれを強く握りしめている指先が、白くなっている。


(何か、良からぬものを隠し持っている……)


 私の脳内にある『無印』と『真実版』、双方の攻略データが、警告音と共にフラグの成立を告げている。 間違いない。今日はシナリオ屈指の鬱イベント、「迷宮の暴走ダンジョン・パニック」が発生する日だ。


『無印』の筋書きなら、悪役令嬢がアイテムを使って魔物を暴走させ、多くの生徒を危険に晒すことになる。 一方、『真実版』の解釈なら、この日はダンジョンの封印が弱まり、溢れ出す瘴気を抑えるために、人柱であるエリザベート様が密かに命を削って結界を張る日だ。


(今の彼女は……どっち?)


 先日の涙。震える手。 彼女の中の「魔女の人格システム」が強制的に『無印』のイベントを起こそうとしているのか。 それとも、『真実版』の過酷な運命に耐えかねて、心が壊れかけているのか。


(……どちらにしても、結論は一つだわ)


 彼女は今日、魔物を呼ぶふりをして──あるいは魔物を抑え込むふりをして、自分だけが犠牲になるような、取り返しのつかない自滅行動に出るつもりだ。 私の医療者としてのトリアージ・アイが、そう確信して警報を鳴らしている。


「では、これより班分けを発表する!」


 引率の教師が声を張り上げた。 今回の実習は、4人1組のパーティで行われる。 本来なら、くじ引きや成績順でランダムに決められるはずだが、私は昨日のうちに手を打っておいた。


「A班。クリストファー殿下、アレクサンダー、……そして、ミア・ゼン・シャーカン」


 教師が私の名前を読み上げた。 周囲から「うわ、王道メンバーだ」「さすがヒロイン」という囁きが聞こえる。 本来のシナリオ通りなら、私は王子たちと同じ班になり、ダンジョンの中で守られながら愛を育むはずだった。


 だが、今の私にそんな余裕はない。 私が目を離した隙に、エリザベート様が暴走(自傷行為)してしまったら? 誰にも気づかれない場所で、一人で血を吐いて倒れていたら? 想像するだけで、胃がキリキリと痛む。


「先生! 申し訳ありません!」


 私は手を挙げて、教師の言葉を遮った。


「班の変更をお願いしたいのです!」


「なっ、何を言っているんだミア。もう決定事項だぞ」


「お願いします! 私、どうしても……エリザベート様と同じ班になりたいのです!」


 会場がざわつく。 「えっ、あんなにいじめられてるのに?」「殺すって言われたんでしょ?」「正気か?」 困惑の声が渦巻く中、私は必死に食い下がった。


「先日、エリザベート様に魔法のご指導をいただきました。その恩返しとして、実戦で彼女のサポートをしたいのです。彼女の魔法は強力ですが、発動に時間がかかります(大嘘)。私が盾となってお守りするのが、最も効率的な運用かと!」


 私はもっともらしい戦術論を並べ立てた。 教師が困ったようにクリストファー殿下を見る。 殿下は、私と、遠くで驚いた顔をしているエリザベート様を交互に見比べた後、ふっと笑って頷いた。


「……いいだろう、先生。彼女の希望を通してやってくれ」


「殿下!?」


「二人の間には、我々には計り知れない絆があるようだ。無理に引き離すのは野暮というものだろう」


 殿下が何を誤解しているのかは分からないが(なんだか生温かい目で見られている)、今は感謝しかない。 教師は渋々といった様子で手元のリストを書き換えた。


「……分かった。では、ミアはC班へ移動。エリザベートと同じ班だ」


「ありがとうございます!」


 私は深々と頭を下げ、すぐさまC班の集合場所へとダッシュした。 そこには、信じられないものを見るような目で私を凝視するエリザベート様がいた。


「貴女……何を考えていますの? 正気?」


 彼女の声は震えていた。 無理もない。「殺す」と脅した相手が、翌日に笑顔で「一緒に行きましょう!」と飛び込んできたのだから。 普通の神経ならホラーだ。


 でも、私は逃げない。 彼女の鞄の中身が何であれ、彼女が何を企んでいようと、全部私が受け止める。


「ええ、正気ですわ、お姉様」


 私は彼女の目の前で仁王立ちになり、逃げ道を塞ぐように宣言した。


「実習中は、片時もお側を離れませんから。トイレまでついていきますので、そのおつもりで」


「はぁ!?」


 彼女が素っ頓狂な声を上げる。 その顔が、恐怖(?)と羞恥で赤く染まるのを見て、私は少しだけ安心した。 まだ、感情がある。まだ、完全な魔女にはなっていない。


(絶対に目を離さない。貴女が自暴自棄になって、その命を使い捨てようとする瞬間を、私が全力で阻止してみせる)


 これは遠足ではない。 患者エリザベートの命を守るための、24時間密着ドキュメントの始まりだ。


【最重要観測イベント「迷宮の暴走ダンジョン・パニック」まで──残り、0日】


一方のヒロイン・ミア視点です。

エリザベートの悲壮な覚悟を「自暴自棄による自傷行為のサイン」と完璧に(?)見抜き、トリアージによる24時間密着監視体制を発動!

王子のエスコートフラグなど見向きもせず、「恩返し」という大義名分で強引に同じ班にねじ込みました。

「トイレまでついていきます」は伊達じゃありません。過保護すぎる元ナースのストーキングが始まります。


※「ミアの行動力がヒロインのそれじゃない(笑)」「王子、また出番消滅!」とクスッときた方は、ぜひページ下部からブックマーク・評価での応援をお願いいたします!

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