幕間3「沈黙する騎士たち」
【Side: Christopher】
放課後の生徒会室。 私とアレクサンダーは、窓から校庭を見下ろしていた。 夕日が校舎を赤く染める中、そこでは先ほど、魔法実技の授業中に起きた「事故」の後始末が行われていた。
「……見たか、アレクサンダー」
「はい、殿下。しっかりと」
私たちは目撃していた。 エリザベートの杖が暴発し、彼女が吹き飛ばされた瞬間、ミアが信じられない反応速度で飛び出し、身を挺して彼女を庇ったところを。 そしてその直後、エリザベートが鬼の形相でミアを怒鳴りつけ、ミアの手を振り払って走り去っていった一部始終を。
「普通に見れば、恩を仇で返す最低の行為だ。助けてもらったのに礼も言わず、怪我をした相手を置き去りにして逃げた。……そう見える」
私は呟いた。 王族として、婚約者として、彼女の行動は糾弾すべきものだ。 だが、アレクサンダーは静かに首を横に振った。
「いいえ、殿下。あれは『逆ギレ』などという浅はかなものではありません」
「……と言うと?」
「エリザベート嬢の声が聞こえましたか? 彼女は『自分の価値を理解しろ』と叫んでいました。つまり、彼女は怒っていたのです。『なぜ、自分ごときのために、国の宝である聖女が危険を冒したのか』と」
アレクサンダーの言葉に、私はハッとした。 確かに、彼女の剣幕は凄まじかったが、その瞳は潤んでいたように見えた。 そして、去り際に自分の拳を壁に叩きつけていた姿。あれは、他人への攻撃性ではなく、自分自身への苛烈な処罰感情の表れではないか?
「彼女は……自らの命よりも、ミアの命を重んじているというのか? あの悪役令嬢と呼ばれている女が?」
「ええ。表面上は敵対していても、根底には深い愛情……いや、『主従の忠義』にも似た献身があるのかもしれません。自らが汚れ役に徹することで、聖女を甘やかしから守り、真の英雄へと育て上げようとしている……」
アレクサンダーの推論は加速していく。
「今回の事故も、もしかしたら『とっさの危機回避能力』を養うための、命がけの実践訓練だったのでは?」
「……自分の杖を暴発させてまでか? さすがにそれは無茶苦茶だろう」
「常人には理解できない領域です。ですが、天才とは得てしてそういうものです。彼女は、ミア嬢の防御結界の展開速度を試したのでしょう。そして、ミア嬢が見事に合格したからこそ、彼女は安心し、そして自らの未熟さを恥じて去っていったのです」
私たちは沈黙した。 校庭の隅では、エリザベートが一人で膝を抱えているのが見える。 その姿は、あまりにも小さく、そして孤独に見えた。 あれは、弟子を傷つけてしまった師の、人知れぬ懺悔の姿なのかもしれない。
「……彼女は、一人で背負いすぎているのかもしれないな」
私はポツリと言った。 悪役という仮面を被り、誰にも理解されないまま、聖女を導こうとする孤高の魂。 もしそれが真実なら、私たちは彼女に対して大きな償いをしなければならないだろう。 そして、二人の間にある絆は、私たちが安易に踏み込んでいい領域ではない。
「介入は不要ですね?」
「ああ。今の我々が割って入っても、彼女たちの崇高な儀式を汚すだけだ。……だが、いつか彼女が倒れそうになった時は、その時こそ我々が手を差し伸べよう」
「御意」
私たちは、夕日に染まる校庭を見つめながら、男同士の誓いを新たにした。 エリザベートが単なるドジで自爆し、恥ずかしさと自己嫌悪で泣いているだけだとは、夢にも思わずに。
そして安定の王子たち視点です。
エリザベートの逆ギレ&置き去りという最悪の行動を見たはずが、アレクサンダーの謎の推理力によって「主従の忠義」「とっさの危機回避能力を養うための命がけの実践訓練」という、とんでもない美談に錬成されてしまいました。
「二人の崇高な儀式を汚してはいけない」と、固い決意でまたしてもフェードアウトしていく殿下。
……もう彼らがメインシナリオに戻ってくる日は来ないのかもしれません。
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