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第22話「庇う光」

【Side: Mia】

「危ない!」


 爆発音が鼓膜を叩いた瞬間、私の体は思考するよりも速く、弾かれたように動いていた。


 視界の隅で、黒い煙が上がるのが見えた。 その中心から、吹き飛ばされる赤い髪の人影──エリザベート様。 彼女の体は無防備な放物線を描き、花壇の方へと落下していく。 その先には、切っ先のように鋭角に尖った装飾用の岩がある。


(ダメ! あんなところに落ちたら……!)


 前世の記憶が、警報音と共に蘇る。 救急外来に運び込まれてきた、頭部外傷の患者たちの姿。 飛び散る鮮血。モニターのフラットライン(心停止)。家族の悲鳴。 「もっと早く気づいていれば」「あと一歩早ければ」 そんな後悔は、もう二度としたくない。 ましてや、不器用ながらも私を導いてくれた、あの人が死ぬなんて絶対に嫌だ!


「間に合え……ッ!」


 私は杖を放り捨て、なりふり構わず全力で地面を蹴った。 距離は5メートル。 普通の令嬢なら、悲鳴を上げて立ち尽くすだけの距離だ。 でも、今の私にはエリザベート様にダンスレッスンで叩き込まれた体幹と、彼女のスパルタ指導で底上げされた身体能力がある。 足が、地面を噛む。加速する。


(詠唱破棄! 全魔力充填!)


 私は走りながら、体内の魔力を暴走寸前まで練り上げた。 攻撃魔法ではない。自分自身を守るための『聖なるホーリー・シールド』。 それを皮膚の表面に、見えない鎧のように展開する。 そして、そのまま彼女の落下地点へと、ヘッドスライディングの要領で滑り込む。


「うおおおおッ!」


 もはや令嬢のあげる声ではなかった。 私は自分の体をクッションにするようにして、落下してくるエリザベート様の下へ滑り込んだ。


 ドサッ。


 重い衝撃が、私のお腹と胸にのしかかる。 肺の中の空気が強制的に絞り出される。 そして次の瞬間、私の背中がゴツンと岩に叩きつけられた。


「ぐふっ……!」


 目の前がチカチカする。星が飛ぶ。 背骨がきしむような鈍い痛み。盾を展開していなかったら、脊髄をやられていたかもしれない。 でも……痛みがあるということは、神経が繋がっているということだ。生きているということだ。 まだ、終わっていない。


 恐る恐る目を開けると、私の腕の中には、目を丸くして私を見上げているエリザベート様がいた。 その美しい顔には傷一つなく、ただ呆然と私を見つめている。 赤い瞳が揺れている。恐怖か、混乱か。 その瞳に、私の顔が映っている。


「……エリザベート様、お怪我は?」


 絞り出すような声で尋ねる。 彼女は数秒間、パクパクと口を開閉させ、それから信じられないものを見るような目で叫んだ。


「は……? 貴女……まさか、私を庇って……?」


「当たり前です! 目の前で人が飛んできたら、受け止めるのが……聖女の務めです!」


 私は痛みをこらえて、精一杯の笑顔を作った。 彼女の杖が暴発したのは、きっと私への攻撃を躊躇ったからだ。 あの一瞬、彼女から殺気が消えたのを私は感じていた。 それに、連日の私への指導(という名の嫌がらせ)による過労で、杖の手入れがおろそかになっていたのかもしれない。 どちらにせよ、彼女のミスは私の責任でもある。


「立てますか? 医務室へ行きましょう」


 私は震える手で彼女の腕を取り、立ち上がろうとした。 背中がズキズキするけれど、彼女が無事なら安いものだ。 これでまた、彼女は生き延びた。バッドエンドを一回回避したのだ。 そう安堵した、次の瞬間だった。


(……あれ? エリザベート様の様子が……)


 彼女の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。 そして、その瞳には涙が溜まり始めていた。 それは感謝の涙か、安堵の涙か。 いや、その表情はもっと切実で、激しい感情の奔流に見えた。


【運命の分岐点シナリオ・フラグ「迷宮の暴走ダンジョン・パニック」まで──残り、7日】


爆発音と共に宙を舞うエリザベートを見た瞬間、ミアの前世の「救急外来の記憶」がフル稼働!

令嬢にあるまじき猛ダッシュ&ヘッドスライディングで、見事に悪役令嬢をキャッチしました。

自分が怪我をしてでも患者(敵)を死なせない、過保護すぎる聖女の爆誕です。

「目の前で人が飛んできたら受け止めるのが聖女の務めです!(キリッ)」……ミアさん、それ聖女じゃなくて屈強なレスキュー隊員のセリフですよ!

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