幕間1「生徒会室の困惑」
【Side: Christopher】
王立学園、生徒会室。 クリストファー・フォン・アークライト第二王子は、窓際で腕を組み、眼下を行き交う生徒たちを眺めていた。 その眉間には、深い皺が刻まれている。
「……アレクサンダー。どう思う?」
彼の問いかけに、控えていた側近であり騎士団長の息子、アレクサンダーが顔を上げた。 手には、数枚の報告書が握られている。
「エリザベート嬢と、新入生代表のミア嬢の件ですね」
「ああ。最近、妙な噂を耳にする。『ローゼン公爵令嬢がご乱心だ』と」
クリストファーはため息をついた。 婚約者であるエリザベートは、才色兼備で知られる完璧な令嬢だったはずだ。 冷徹で近寄りがたいところはあるが、公爵家の娘としてはそれが正解だった。 しかし、入学してからの彼女は、どこかおかしい。
「食堂で血を吐いて倒れたかと思えば、ミア嬢に抱きしめられていたそうじゃないか。しかも、その後もミア嬢の教科書に落書きをしたとか」
「はい。報告によると、教科書には『出ていけ』と書かれていたそうです」
「低俗すぎる。小学生のいじめか?」
クリストファーは呆れたように肩をすくめた。 品位の欠片もない。そんなことをして、何の意味があるのか。 ミア・ゼン・シャーカンは、平民出身ながら特待生として入学した優秀な生徒だ。 彼女を守るのが王族の務めだが、エリザベートの行動があまりにも支離滅裂で、介入のタイミングを計りかねていた。
「ですが殿下。不可解なのは、被害者であるミア嬢の反応です」
「ミアがどうかしたのか?」
「彼女は、その落書きを見て泣いていたそうですが……それは恐怖の涙ではなく、同情の涙だったという目撃情報があります」
「同情? いじめてきた相手にか?」
アレクサンダーは困惑したように首を傾げた。
「ミア嬢は周囲にこう漏らしていたそうです。『エリザベート様は、精神的に追い詰められているのよ』と。そして、落書きを教師に告げ口することなく、自分で消してしまったとか」
「……聖女とは聞いていたが、そこまでお人好しなのか?」
クリストファーは顎に手を当てた。 普通なら、王族である自分に泣きついてくるところだ。 「婚約者の方にいじめられています、助けてください」と。 そうすれば、自分もエリザベートを諫める大義名分ができ、ミアとの距離も縮まる。 それが、物語の王道パターンのはずだ(※彼は転生者ではないが、運命の強制力としてそう感じる)。
だが、ミアは来ない。 助けを求めるどころか、逆にエリザベートを庇い、心配している。 エリザベートは攻撃し、ミアはそれを受け入れ、浄化している。
「……エリザベートの奇行と、ミアの献身。この二つが噛み合っていないようで、妙に噛み合っている気がする」
「ええ。まるで、我々には見えない『二人だけの世界』があるかのような……」
クリストファーは窓の外、中庭を歩く二人の姿を目で追った。 前を歩くエリザベートと、それを小走りで追いかけるミア。 エリザベートが振り返って何か怒鳴り(きっと悪態だろう)、ミアが笑顔で応えている。
「……少し、様子を見るか」
「はい。下手に介入すると、ややこしいことになりそうです」
二人の王子は顔を見合わせ、とりあえず「保留(見守り)」という名の放置を決め込んだ。 その判断が、後に彼らを「蚊帳の外」へと追いやる決定打になるとは知らずに。
ここでついに攻略対象である王子たちの視点です。
本来の乙女ゲームなら、いじめられているヒロインを助けて好感度を稼ぐ一番のチャンス……のはずが。エリザベートとミアが築き上げつつある「謎の絆(※激しいすれ違い)」の前に、完全に置いてけぼりを食らっています。
「少し、様子を見るか」――殿下、その判断があなた達のメインストーリーからのフェードアウトを決定づけましたよ!
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