【1】少年、宝物に出会う
川があれば、最低限の資材は確保できる。そう学んだのは、クロムがまだ六歳の頃だった。
水を汲めば喉は潤う。流れ着いた何かは、いつもクロムの好奇を満たしてくれる。だから、こんなスラムでも、クロムは無邪気に笑っていた。
そうして月日は流れる。
今日の収穫は何かな、とルンルンで川を訪れたクロムは、物珍しさに目を見開いた。そして、ゆっくりと屈み込みそれを拾う。
(――これは……?)
分厚い革に挟まれた紙。水でふやけた革を一枚めくれば、そこには黒く滲んだ文字があった。但し、解読には至らない。所々染みもあるが、それは確かに、本と呼ばれる物なのだろう。
貧困街で暮らすクロムは、例に漏れず貧乏性である。使えなくなったから捨てる、という発想はない。
びっしょびしょに濡れた本を手に持って、クロムは家へ――正確には、粗末な藁でできた、家と言っていいのかもわからない物へ向かって歩く。
暫くは、これで暇を潰すのだ。
本が乾くのをじっと見つめていたクロムは、ふと、遠くの空が茜色に染まっていることに気がつく。夜は寒いし、なにより暗いのだ。ここは治安も悪い。
この本を盗られてはいけない――そう考えて、クロムは藁の下へと本を隠した。そして、その上で丸まって横になる。
こうすれば、物を盗られない。誰もクロムに興味が無いし、クロムと同じ孤児は、こんな高価な物を孤児が持っているとは思わないだろう。
かけがえのない宝物は、奪われる前に、奪い返し隠す。
そうしなければ、この街では安眠もできないのだ。
◇◆◇
クロムが目覚めた頃には、本は既に乾き切っていていた。所々、滲んだままで何と書いてあるかわからないが、流石は高級品だ。一部は濡れても、くっきりと読み取れた。
ペラリ、ペラリと本を読む内に、再び陽は沈む。けれどもクロムはそれに気づかず――見上げればすっかり、陽は落ちていた。
(―――そうだ!)
クロムは、本で読んだ内容を思い出した。そして、それを復唱する。
するとたちまち、辺りが光で包まれる。これでまた本が読めるぞ、と、クロムは喜んだ。
そして数分、数十分、数時間――クロムは本と対面し続けた。川で何時間も宝探しをしていたクロムは、はっきり言って、集中力があるのだ。
そしてその間、灯りは消えることなく、クロムの周りを漂い続けていた。
――尚、ランプというのは、本と同じく高級品である。スラム街では、無論、そんなものはない。
そして、それに代わる魔術も、今のところ確証されていなかった。




