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赤ずきんのオルゴール

作者: Vic

 傍に籠を携え道を行くその女の子は、赤ずきんと言う。

  

 赤いフード付きのケープに、頭の上で2つのお団子にした髪が可愛らしい、旗袍という中華風の装いをした女の子だ。

 

 道行く先には二股に分かれた辻道が見えてきて、長い道のりを歩いてきた赤ずきんはそこで立ち止まる。 


 目の前には分かれ道の行く先を表す看板がある。

 

 右 憩いの泉

 左 おばあさんの家 

 

 道のりの3分の2は歩いてきただろうか。目指す行き先まではまだ少しあった。


 一旦気分転換に休憩をしたいな。

 

 体力の消耗を感じた赤ずきんは、そこで一旦休息を取るために、分かれ道を分かれた先の泉に向かうことにする。

 

 その泉は、赤ずきんにとっても馴染みの深い休息場所の一つで、おばあさんの家に向かう時にはたびたび立ち寄ることもある場所だった。

 

 分かれ道を右に進んで少し歩くと

、水音が響いてきて、目の前に大きな水溜まりが見えてくる。

 

 水音はその中心部の水が湧き上がる噴水部から聞こえてきていて、こんこんと溢れる純度の高いその水を眺めているだけで、心が澄んで落ち着くものだ。

 

 泉の側には腰を下ろすのにおあつらえ向きの石が幾つかあり、そこに腰を下ろすと、赤ずきんは段々むずむずと待ってられなくなる。

 

 今日はいつもの訪問とは違う。胸が湧き立つとっておきを用意していた。

 

 本当は、おばあさんの家に着いてから、おばあさんと一緒にそれを開こうと決めていたのだが、時間ができたことで、誘惑に負けた赤ずきんは、いそいそと籠の奥から「それ」を取り出してしまう。

 

 それは箱のような形をしている。

 

 お母さんによれば、それは開けるだけで旋律を奏でだすという魔法の箱だと聞いていた。

 

 旋律とは音の連なりのことで、赤ずきんにとってそれは、説明を聞くだけで未知で、だけどとっても素敵なものである予感だけは伝わるものだった。

 

 開けてはいけないと思いながらも、ちょっとだけだという思いがもたげ、赤ずきんはその箱の蓋に手を伸ばす。

 

 蓋を開けると、一瞬チロチロとブリキが回るような音がした。

 

 期待外れに思った赤ずきんは箱の蓋を閉めようかと悩むが

 

 途端、音の連なりが響き出す。

 

 それは、柔らかく軽快な音の連なりだった。

 

 まるでおもちゃを買い占める子どものような、わくわくとおもちゃを広げる子どもかのような。と赤ずきんは思う。音の連なりだった。

 

 それが赤ずきんにとって、音楽というものとの出会いでもあった。

 

 一フレーズ聴いただけで、赤ずきんはその「とても良いもの」の虜になってしまう。

 

 だから、音の連なりを流れるままに時間を忘れて聞いていた。

 

 段々とそのメロディを口ずさめるようにもなっていて、一緒に口ずさんだ。

 

 すると、過ぎた時間に比例するように、ずっと続くかのように思っていたその音の連なりが、またチロチロとブリキの回る音のように変わり、そのうちゆっくりと音を立てなくなってしまった。

 

 どんなに蓋を開け閉めしても、その後その箱は、旋律を奏でなくなってしまった。

 

 どうしよう壊してしまった。

 

 おばあさんの家に行くことよりも、その箱を見せられないことよりも、そのとても良いものを壊してしまったことへの深い失望が胸を渦巻いていた。

 

 「音が鳴らなくなったら言ってね」

 お母さんの一言を思い出す。

   

 そうして赤ずきんは、あたふたと、その「とても良いもの」を直さなければいけないという強い衝動で、もと来た道を足早にひき帰すのだった。

 

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