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62話 援軍、彼方へ


 

 狢は自分たちの主を刑部狸だと言った。

 

 しかし本来、刑部狸がこんなところに居る訳がない。


 

 「あなた達がまさか冗談を言うような化け物だったとは思いませんでした」


 「ふんっ!会えばわかる」


 

 群れが到着した。

 今の妖力では当然影送りの術は使えない。


 

 「白粉の、今から全力で走ってなんとか外に出てください。お願いします」


 「座敷の?」


 「以前に言いましたが店に電話すれば土蜘蛛が居ます、そして友人の火鳥君はさとりの眼を持ち鳳凰の力を使う元人間です。わたしが助けを求めていると知れば、絶対に無視はしないひと達です」


 土蜘蛛はわたしの事など知ったことないかもしれないが、火鳥君か氷花、牛丸くらいには連絡してくれると期待した。

 ただ、今から連絡ができたところで狢の流出には間に合わないかもしれない。


 

 わたしは生涯において最悪の汚点を残したまま最後を迎えることになりそうだ。

 凶事が封印されし結界に穴を開け、封じていた者を外に出したあげく死んでしまうのだから。

 

 なんとも笑えない失敗譚。


 

 「さぁ!いってください!」

 

 

 白粉婆が走り出すと同時に、わたしは手に持つ錫杖を地に打ち付けた。

 闇と影が1つになっている今だから繰り出せる広範囲術。


 

 「影留めの術!」


 

 ここいら一帯の影を伝い、狢全体の動きを封じた。

 あとは持久戦だ。

 どれだけわたしがこの群れの足止めができるか。


 

 もう一度影送りの術でも使えれば一気に切り抜けられるのだけど、今の妖力量では無理だ。

 わたしに牛丸や火鳥君くらいの妖力量が無いことを悔やんでしまう。


 40匹ほどの狢の群れに大狢が4匹。

 動きを止められる時間は1分もない……。

 それでも1秒でも長い時間拘束してみせる。


 

 「!」


 

 大狢4匹が少しずつ動き出している。

 影留めの術の効果が弱まっている、わたしの妖力量の限界か。


 彼らは気色の悪い笑い声を上げながら、じわじわとわたしに近づいて来た。

 

 

 「お前、あの有名な影使いの座敷童だってか。そんな奴を腹ませたら強い同族が生まれるだろうなぁ。楽しみだ」


 

 大狢1匹がゆっくりとわたしの目の前に立ち、拳を振り上げた。

 影留めの術の効果……。

 

 切れたようだ。

 

 

 「死ねや」


 

 振り下ろされた拳はわたしの右頬を打ち、身体が宙に舞った。

 そのまま地面に叩き付けられ転がり倒れた。


 

 「くっ!」


 

 今の攻撃を受けて、影留めの術が完全に解除された。

 40匹の狢の群れがわたしを取り囲み笑いだした。

 

 もう術は使えない。

 態勢の立て直しも不可能。

 どうやらここまでか。

 

 

 眼を閉じ覚悟したその時。


 

 「座敷の!」

 


 逃げたはずの白粉婆がわたしの前に立ちはだかった。


 

 「白粉の……どうして!」

 

 「あんたを放っとけない!」


 

 今さら白粉で目くらましをしても逃げ切ることは無理だ。

 わたしが白粉婆の立場でも放って逃げられなかったかもしれない……。

 

 何としてでも逃げて欲しかった。

 わたしのミスが招いたことだ……彼女を責めることなどできない。

 

 わたしは力を使い切って立ち上がることすらできない。

 なんとか錫杖を杖にして、跪きながら上体を起こすのが精一杯だ。

 なんとか頭をおこし、彼女の方を向いた。


 

 「白粉の……本当にすみませんでした。ここまでです。せめてこの身体を奴らの思い通りにさせないためにも、自決します……」


 「あきらめるな!あんただけでも助かるんだ」


 

 白粉婆は命懸けでわたしを助けようとしている。

 握りしめた白粉を投げつけ視界を遮ろうとしたが、2匹の狢が持つ竹槍により白粉婆の両手は地面に打ち付けられた。


 

 「ぎゃぁ!」

 

 「そいつはいらん。殺せ」


 

 別の3匹の狢が竹槍の切っ先を白粉婆に向けた。

 わたしは情けなく悔しく、怒りのまま見苦しく怒鳴った。


 

 「畜生!お前たちは絶対にわたしが殺してやる!1匹残らず絶対に殺してやる!」


 

 狢の群れはわたしの様子をみてケタケタと嘲笑った。


 

 「許さない!なにがなんでも必ず殺してやる!」

 

 

 その声空しく、狢の向けた竹槍が彼女の身体に刺さろうとした。

 

 その時――。



 赤い炎と蒼い炎が辺りに渦巻き、狢の群れを焼き包んだ。

 40匹の狢の群れは声も上げることができないまま、炎の海に呑まれて消えていった。

 

 

 頭上から覚えのある気配が舞い降りて来る。

 


 「氷花さん!これって間に合ってますよね!?」


 「咲が生きているんだ、間に合ったさ」


 

 これは幻だろうか?

 氷花と火鳥くんが宙に浮いている朧車から飛び降りて、わたし達を守るように立ちはだかった。


 火の中から仕留めきれなかった大狢4匹が氷花と火鳥くんに飛びかかってきた。

 しかし、さらに朧車から飛び降りて来た2人がその狢4匹を瞬殺してみせた。


 

 「氷花よ。油断しすぎだ」

 

 「ゆっ、油断なんかしてないよ……爺様」


 

 氷花に説教しながら地に降り立ったのは天狗の牛丸。

 そしてもう1人……。

 

 

 「口だけは達者な奴でな。お主の前で恥ずかしい限りだ」


 

 牛丸に小言を言われて少しふくれている氷花の横に立つ者がいる。

 

 牛丸が話しかけたその般若の様相をした二刀流の鎧武者は、静かに白粉婆に目をやった。

 彼女もその鎧武者に目をやり、動揺を抑えきれない様子で声を掛けた。


 

 「まさか秋田の主が現れるなんてね……夢じゃないだろうか」

 

 「息災であったか? 白粉の……」

 


 氷花と火鳥君と牛丸、そしてわたしの知らないもう1体の化け物。

 その化け物の正体は、白粉婆の次の言葉で明らかになる。


 


 「あぁ、お陰様でなんとか……なまはげ殿」


 


 

 

 

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