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不死鳥の力と、さとりの眼を持つことになった僕が百鬼夜行に巻き込まれていく・・・と、いう話さ  作者: ブラック企業幹部ちゃん
5章 あなたの心が芽吹き輝く方へ

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54話 雪降る山へ



 翌朝。

 

 積りはしなかったけれども、前夜の雪の影響もあってケンちゃんのフライドチキンの客足は悪かった。

 

 いつもの土曜日と比べて格段に周辺の人通りが少ない。

 アルバイト仲間の寒さに苦しんでいる姿をみると、平気に過ごせているわたしや土蜘蛛はつくづく化け物なのだなと実感する。


 

 「店長、来週の土日はOFFをいただきますのでお忘れなきよう」


 「あぁ、白粉ばあさんの故郷へ一緒にいくんやったか?旅費貯まったんかいな?」


 「はい。彼女はなぜか嫌がっていましたが、普段の感謝の気持ちを込めてわたしが旅行に連れて行きます」


 

 白粉婆と過ごして2年以上が経つ。

 たまに彼女から故郷の話を聞かせてもらうことがあるのだけれど、楽しい話は極めて少なく苦労話が多かった。

 故郷話の中で、住んでいた村の景色が何よりも美しかった。と、しきりに話す彼女の姿が印象的だった。


 わたしは何百年と生きているのに、座敷童という特性のためあまり外へ出たことが無い。

 ましてや他所の地域に出たことが無いわたしは、彼女の話をいつも興味津々に聞いてしまうのだ。


 

 旅行準備は5か月前からしていた。

 なぜか彼女は拒んでいたけれども、本心は故郷に帰るのが嫌な訳ではないと自信があった。

 故郷の話をする時の彼女は、いつもすごく楽しそうに話をしてくれるからだ。

 

 わたしは話に良く出て来る村の景色を見てみたくなり、道案内をして欲しいと執拗にお願いをした。

 普段お世話になっている感謝の気持ちも、この旅行で返せることができたならと考えていた。


 

 「礼などせんでいいのに……」


 

 彼女はぽつりとそう呟いた。

 それでもわたしは食い下がった。


 

 「わたしはあなたと一度お出かけがしてみたいのです。お付き合いください」


 

 半ば強引ではあったけれども、彼女が折れてくれた。

 その日からわたしはこの旅行のためにアルバイトを頑張ってきた。


 朧車を借りて、秋田に住んでいる化け物の妖気を辿って走ってもらえば数分で到着する。

 でもそれでは旅行にはならない。

 この5か月間、わたしは新幹線のチケットの購入方法や乗り方など、スマホや雑誌で勉強をし続けた。

 火鳥くんや学校の友人にも相談して旅行の楽しみ方を勉強した。


 宿に関しては人間の旅行会社で働いている化け物の紹介で、良い宿を予約してもらっている。

 これはサプライズなので、旅館に関しては白粉婆に何も伝えていない。

 

 その化け物仲間に旅行の段取りを依頼すれば良かったのだろうけど、今回は旅館の手配だけ依頼した。

 他の予定はわたし1人で考えた、おもてなし旅行にしたかったからだ。


 

 ――――――



 あれほど遠くに感じていた旅行日を迎えた。



 朝早くの新幹線に乗って秋田に向かう。

 新幹線は普通の電車と違って、乗る前も乗ってからも緊張が続く乗り物だった。

 トイレがあったり、席には個々にテーブルが付いていたりと特別感を備えているからだ。

 しかも席はリクライニングができてしまう。

 興奮を押し殺しているわたしとは裏腹に、白粉婆は落ち着いて車窓から景色を眺めていた。


 お昼は新幹線の中で駅弁を食べると決めていた。

 これも新幹線旅行の醍醐味の1つだ。


 

 わたし達は昼を過ぎた辺りに秋田へ到着した。

 秋田は想像より寒かった。

 都会では見ないサイズの雪が降り始めている。


 彼女は表情すら変えなかったが、駅から出ると大きく息を吸った。

 懐かしい故郷の香りを感じているのだろう。


 数百年前に閉村したらしい故郷。

 彼女はその村に関して聞いても詳しい話をしてくれなかった。

 なぜか悲しい顔つきになるので、わたしもそれ以上の質問ができないでいた。


 スマホの地図アプリを見て、ある程度の場所は教えてもらっていたので駅に降りてからはバスで移動した。

 随分とバスに揺られた気がする。


 本当に何もない山道をバスで走る。

 

 山の中は雪がすでに積もっている。

 こんな量の雪を見た記憶はとんとなかった。

 

 森は息を潜め、今年の冬を耐えるために冬眠の準備をしているように思えた。

 バスにしばらく揺られていると、古ぼけた寺が見えた。

 

 その寺の前にあるバス停で白粉婆が突然降りるように伝えてきた。

 このバス停は当初の目的地ではなかったけれど、何かを思い出したようだった。

 

 鬱蒼と雪化粧した木々に囲まれた境内の奥に、手入れをされた記憶すら無いような小さな本堂が見える。

 

 

 「あんたらこんなとこ降りてもなにもねえよ。ほんとに降りるのかい?」


 「はい。どうやら目的地がここから近いようなのです」


 「この辺りではこのバスが往復しているだけだ、次戻ってくるのも1時間半はかかるぞ。それに雪も降ってる、あんたら薄着だし寒さに耐えられんぞ」


 「お気遣いありがとうございます。わたし達は大丈夫なんで」


 

 運転手さんの心配を振り切り、わたし達は下車した。

 運転手さんはバスの時間表を渡してくれて、次のバスの到着時間を何度も確認してからバスを発進させた。

 流れる景色として見ていた雪化粧をした山は、降り立って見るとすべてを覆い尽くす巨大で冷酷なものに感じた。


 先ほどから寺を眺めていた白粉婆が声をあげた。

 

 

 「この寺……やっぱりそうだ……」


 「なにか思い出しましたか?」


 

 彼女の表情が一変した。

 すべてにおいて興味のない仕草をみせる彼女が、自ら先頭を切って歩き出した。


 

 「周辺に村が3つあってね。年に数回、正月や祭の時期に村人が全員集まってこの寺ではしゃいだもんだ」


 「故郷へ帰って来られたのですか!」

 

 「こっちだ」


 

 白粉婆は境内のはずれまで急いで歩いていった。

 わたし達は風雪が逆巻く中、枯れ木を掻き分けて道なき山を登り始めた。

 


 


 


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