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不死鳥の力と、さとりの眼を持つことになった僕が百鬼夜行に巻き込まれていく・・・と、いう話さ  作者: ブラック企業幹部ちゃん
4章 約束の海

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51話 海の上のふたり


 水虎を飲み込んだ火柱は、爆音とともに夜空に消えた。


 

 わたしには今まで感じていた水虎の圧迫感が完全に消滅したことがわかった。


 タラちゃんの術により弾かれていた海水が徐々に元の場所に戻りつつある。

 宙に浮いた状態だったタラちゃんはゆっくりと着水した。

 

 

 「一件落着や」


 「店長……本当にありがとうございました」


 

 糸傀儡で操られていた輪入道、片車輪、日照り神、火縁魔は糸に引かれるように天へと戻っていく。

 どのように現れて、そしてどこに戻っていくのかわたしにはわからない。

 

 店長は元の姿にもどる海を眺めながら話し始めた。


 

 「なんで人間は神に祈ると思う?」


 「え?」


 

 わたしは予期せぬ質問に驚いた。

 しかし質問の答えは簡単だ。

 叶えたい願い事があるから人は神に祈る。

 そう決まっている。

 

 でも店長の答えは違った。

 

 

 「祈っても何にも起こらへんから祈るんや」


 「……どういことですか?」


 「祈ったところで良いこと悪いこと、なんにも起きひんから簡単に神や仏に祈るねん人間は」


 

 日本中にある神社仏閣へ店長は喧嘩を売り始めた。

 やっぱり神様と化け物って仲が悪いのかな?

 

 

 「願い事叶えるのにそれ相応の代償があるなら誰も願わんやろう。欲しがるくせに無くすことを人間は嫌がるからな」


 「?」


 「願い事を叶えてくれる奴らは確かにいるで、でもそんな奴らは大体が願い事以上の代償を求めてきよる。人間からしても割の合わん話になるんや。ときどき自分の命と引き換えにしてでも願い事を叶えたいと言う人間もおるようやけど、そんな覚悟がある人間なんて一握りや」


 「でも……願い事が叶う時もありますよ」


 「所詮はそいつの運と実力や」


 

 店長だからだろうか、化け物だからだろうか、とても割り切った考え方だと思った。

 確かに多少のお賽銭で願い事を求めるだなんて、勝手な話だと思う。

 


 「叶えたいことがあるなら己で動いて掴む!これしかないんや」


 

 海が少しずつ落ち着き始める中、単純思考なわたしはその通りだと納得した。

 そして大きな傷を受けながらも、復活してこの大海を操作していたタラちゃんを見つめた。


 

 「この子の傷、店長が治してくださったんですか?」

 

 「そうや、俺の妖力喰らって生きとるからな、俺の妖力与えたら秒で回復や」


 「良かったね。タラちゃん」


 「それはそうと、お前らえらい仲良さそうやったな。最近コイツから妖力の催促が無いとは思っていたけど、リーダーの妖力を摘まみ食いしとったんか」

 

 

 そういえば店長は言っていた。

 鬼蜘蛛は妖力でも与えない限り言うことを聞かないと。

 

 わたしはてっきりおやつをあげているから仲良くなれたと思っていたけど違ったようだ。

 わたしの体内にある、白山坊によって蓄えられていた膨大な妖気をすすっていたから言うことを聞いてくれていただけだった。

 

 

 少し残念に思った。


 

 「しかしなんで己の傷を治すのにリーダーからもろてる妖力を吸わんかったんや?もしかして水虎と戦った時もリーダーの妖力吸わんと空腹のまま戦っとたんか?」


 「ギィー」


 「タラちゃん?」


 「なんやこいつ、リーダーから妖力吸ったことないやて?そらお前、妖力不足で水虎にやられる訳やで!」


 

 なんと、タラちゃんは今までわたしから妖力を吸ったことがなかったらしい。

 

 それならどうしてタラちゃんはわたしの言うことを聞いているのか店長は不思議がった。

 わたしからおやつを貰っているから……なんて流石に正直には伝えていないみたいだ。

 


 「なにしたか知らんけど、ずいぶん懐かれたな。リーダー」


 「はい……」


 「まぁ、とにかくこれに懲りて、今後は変なもんに祈ったり願ったりせんようにな」


 「はい」


 「ほな帰るか」


 

 タラちゃんはいるけれど、誰もいない海の上での2人きりの時間がもう終わる。

 そんなわたしにさっきの店長言葉が頭の中をよぎった。

 

 

 ――叶えたいことがあるなら己で動いて掴む!これしかないんや――。


 

 自分自身で動いて掴まないと何も得ることはできない。

 まさにその通りだと思う。


 待っていても何も始まらない。

 いつまでもこのままではダメなんだ。


 

 「店長……」


 「おう!」


 「わたし、すごく長生きするんですよね?」


 「あぁ、少なくともその姿で800年は生きられるで」


 「ならその800年、ずっと一緒にいてもらえませんか?」


 「……」


 

 波は落ち着き、風も止んだ。

 海の上のわたし達に静寂が訪れた。

 今なら不思議と何でも店長に言える気がした。


 

 「店長……」


 「あん?」


 「ずっと好きでした」


 「……」


 

 店長は黙った。

 感情が読み取れない。

 困っているのか、相手にしていないのかもわからない。

 

 

 「俺は化け物や」


 「わたしもです」


 「俺は土蜘蛛やで」


 「わたしは八尾比丘尼らしいです」


 

 少し気まずい雰囲気が流れた。

 店長にこれだけの意見を返したことがないから。

 今はどちらかというと店長の方が困惑しているように見える。


 

 「あのな、リーダー!」


 「わたしを呼び戻す時、名前で呼んでくれてましたよ」


 「お前!あれはやなぁ!」


 「今、リーダーは嫌です」


 

 店長は頭を掻きむしった。

 そして困った表情でわたしを見つめる。

 一度死んだからだろうか、それとも人ではなくなったからだろうか、今までのわたしではない気分だ。

 

 こんなにも自分の気持ちをストレートに言えていることが不思議だ。

 それにどんな答えが返ってきても平気な気分だ。


 

 「俺なんかとおったら大変や」


 「800年間1人でいるのはもっとつらいと思います……」


 

 八尾比丘尼は、人魚の血肉を食べたことにより不老不死を得た女性のこと。

 一切の歳を取らず、800歳までは生存確認がされていたらしいが、その後は詳細不明となっている。


 

 見渡す限りの大海原に立つふたり。

 空は澄み渡り、夜空の月が綺麗に見える。


 

 「そんな強引な性格やったか?」


 「叶えたいことがあるなら己で動いて掴む!これしかないんですよね」


 「お前っ……ほんまになぁ」


 

 このひとはいつも何を考えているんだろうか?

 わたしは知っているようで、このひとの事を何も知らないのだろう。

 

 16歳の時に出会ってから、いつも彼を見つめ続けていた。

 化け物だけど、自分の部下や仲間は絶対に見捨てない優しいひと。

 

 このひとはずっとこのスタイルのまま突き進んでいくのだろう。

 だからこそ、わたしもこの気持ちを変えることなくいることができる。


 

 「リーダー」


 「いま、リーダーは嫌です」


 「ほな七海よ……」


 「はい」


 

 わたしは今日のこの時間を生涯忘れることはないだろう。

 誰もいない真夜中の海の上で、店長がわたしに言った言葉。

 月の下の約束。

 

 

 「お前が俺を必要ないと思う日まで護ってやる……。これで満足か?」


 

 月明りに照らされたわたしはどんな顔を見せたのだろう?

 化粧なんて絶対剥げているだろうな。

 

 でも今はそんなことどうでもいいや。


 

 「なんちゅう顔してんねん、お前……」


 「えへへっ、言いましたからね。約束ですよ」


 「ふん!」


 

 店長はわたしを赤子を抱くように持ち上げた。

 告白に対しての返事がなかったけど、今日はこれで充分だ。


 

 「ほな、あいつらのところ戻るで」


 「はい」


 

 

 わたしは夢心地のまま、わたし達を待つ人の元へと戻った。


 

 

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