44話 土蜘蛛からの依頼
時刻は20時を向かえる頃。
今晩は伯父さんと伯母さんが仕事の関係で外泊していることもあり、僕は外食をすることになった。
ひとりで行動するつもりが、鼻の利く氷花さんは外食する僕に気付いて跡を追ってきた。
氷花さんはフライドチキンが良いと言ってきたが、たまには違うものが食べたい僕はそれを拒む。
話し合った結果、マンション近くのバーガーショップで手打ちとなった。
「結局はファーストフードって……牛丼が良かったな」
「それをいうならフライドチキンで良かったのさ、バーガーは如何せんパンのパサパサ感が好めないからねぇ……」
文句あるなら迷い家で天狗とご飯食べてればいいのに。
と思ったけど、言わないでいる。
なぜなら僕は大人だからだ。
文句を言いながらでも、氷花さんはしっかりバーガーのセットを平らげた。
残さず食べているクセに、いつも最後に氷花さんは余計な一言を発する癖がある。
「これなら迷い家でろくろっ首の手料理の食べた方が良かったよ」
この野郎!
と思ったけど言わない。
なぜなら僕は大人だからだ……。
イライラしているその時、僕のスマホが揺れた。
店長からの着信だ。
電話って珍しいな。
と思いながら電話に出た。
「もしもし」
すると挨拶もままならない勢いで、店長は早口で捲し立てるように話してきた。
「すまんのやけど、今すぐに天狗に会わせてくれ!」
「えっ?」
「リーダーに付けてる鬼蜘蛛から通信が切れた。なんかあったはずや、急がんとまずい!」
この時、どうして店長が門馬先輩のことを心配しているのかわからない上に、鬼蜘蛛という聞きなれない名前まででてきたことで謎に拍車がかかった。
しかし空気を読んだ氷花さんが、急いでマンションに戻るように僕にジェスチャーで伝えてきた。
僕たちは慌ててマンションに戻る。
氷花さんは何か楽しそうだ。
「土蜘蛛が慌てるって何かあったね。どこぞの化け物と喧嘩の予感さ」
「バイト先の先輩に付けている鬼蜘蛛から通信が切れた。とか言ってましたけど」
「鬼蜘蛛を付けてるってなんだいそりゃ?あの大妖虫を人間に付けるって?訳がわからないね」
マンションに着くと店長はすでにエントランスに待っていた。
「急いでくれ!」
僕達は急いで部屋に入り、迷い家と僕の部屋をコネクトし迷い家の門を潜った。
店長は慌てた様子で天狗を呼んだ。
「天狗!天狗よ、頼みがある!」
店舗でも見たことがない慌てている店長の大きな声に、僕はいささか緊張感を覚えた。
「ここにおるぞ。土蜘蛛よ」
玄関には天狗がすでに立っており、僕たちが訪ねてくることを知っているようだった。
「あの日の礼を少しでも返せればよいのだが……必要なものは朧車よな?」
「話が早くて助かるで」
天狗は何かを察しているようだった。
庭には朧車がすでにスタンバイされており、目的地は三柱浜だといった。
「先日、三柱浜の人魚より主が息を引き取ったと連絡があった。1000年以上もあの海を守ってきた御方だ、亡くなったことで何かひずみが発生するのではないかと千里眼で監視をしていた。しかしこんなにも早く海で動きがあるとは思いもしなかった。そしてまさかお前たちの知り合いが関わっておるとは……なんたる縁よ」
「急いでるんで行くわ」
「土蜘蛛よ、この2人も連れていけ。役に立とう」
「どっちでもええわい」
「浜に着けば人魚が案内してくれるよう手筈をとっている。急ぐがいい」
朧車の時空間移動は経験済みだ、目的地から発せられる妖気を感じとることができれば、どんな距離も一瞬で渡ることができる。
牛丸さんの指示で僕と氷花さんも同席することになった。
なにやら大変なことが起こりそうだ。
「頼むで!朧車!」
店長がそう叫ぶと、朧車の身体が霧の中に溶け込むように消えていく。
目指すは三柱浜という海だ。




