43話 鬼蜘蛛のタラちゃん
店長から渡されたお守りの正体。
その正体は店長が使役する化け物である大妖虫 鬼蜘蛛だった。
鬼蜘蛛との出会いは、白山坊から身を守ってくれた後のことだ。
しばらくは鬼蜘蛛の存在を知らず、糸を出すキーホルダーという認識だった。
店長からいただいた物ということで、大事にいつも身に着けていた。
家に居るときは部屋にカバンごと置いていたのだけれど、だんだんと不思議なことが起こるようになった。
わたしの食べているおやつが、目を離すと減っているのだ。
スナック菓子が、こんなに食べたっけ?と思うくらい減っていることが多かった。
さらに、口を付けていないケーキをデスクに置いてコーヒーを淹れて戻ってきた時の事だ。
虫食いにあった葉っぱのようにケーキが穴だらけになっていた。
わたしは化け物がこの部屋にいるのだと気が動転し、店長に連絡をしようとした。
その時、キーホルダーから小さな蜘蛛が一匹姿を見せて、必死に謝罪をしているような仕草を見せた。
わたしは少し驚きながらも、その蜘蛛に話しかけてみた。
「あなたは悪いことする蜘蛛?」
するとその蜘蛛は、違う!
と必死に訴えてきた。
「店長のお友達?」
そう聞くと、そうだと言っている気がした。
「お腹が空いているならこのケーキ食べていいよ」
と声を掛けたら、驚くような速さでケーキを食べ始めた。
言葉は通じていないのに意思疎通が図れているようだった。
その日から普段はキーホルダーに徹してもらうけれども、部屋の中では姿を見せてもいいことにした。
わたしに正体を見せたことと、目を盗んでお菓子を食べたことを店長には内緒にすると約束した。
店長もわたしにキーホルダーの正体を伝えていないところを見ると、わたしを怖がらせないように気を使っていたのだと思う。
それがお菓子の盗み食いでバレたなんてしれたら、この蜘蛛は大目玉を喰らうかもしれない。
蜘蛛などの虫は大の苦手だけれども彼はわたしを守ってくれたこともあるため、まったく恐怖感や嫌悪感を抱くことはなかった。
接していく内にペットのような感覚になり、名前を付けようと考えた。
ベタだけれど、タランチュラっぽいからタラちゃんと命名した。
彼はその名前をすごく喜んでいるように見えた。
何日か過ごしていると、タラちゃんは蜘蛛の糸を武器や盾として扱い、身体のサイズを自由に変えたりできることを教えてくれた。
先日、わたしは部屋に現れたゴキブリを見て絶叫したことがあった。
その時にタラちゃんは身体を少し拡張させて糸を放ち、ゴキブリを捕獲してくれた。
わたしはゴキブリを駆除してくれたことに感謝を伝えて身体をさすると、喜びのあまりに部屋いっぱいの大きさまで身体を拡張させていた。
限界はわからないけど、1㎝以下から6畳の部屋を埋め尽くすくらいまでは調整できるようだ。
この前、突然店長がキーホルダーの話をしてきた。
「キーホルダーやけど、あれから糸出したりしてへんか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「白山坊の一件依頼、変な動き見せてないか?あのキーホルダーは邪気や妖気に反応しよるから、糸出した時は危険の合図や。まぁ、そん時は俺まで伝わるようになっとるけどな」
話の内容から察するに、タラちゃんは近況を何も店長に伝えていないようだった。
わたしは虫系が全くダメだけど、タラちゃんは違う。
ほんとうに人懐っこくて可愛い最高の相棒。
いつもそばにいてくれて、わたしを守ってくれている大切な家族。
それがタラちゃんだ。
――――――
「タラちゃん、わたしの友達が大変なの!血が止まらない」
タラちゃんが口から粘液質な物出して、小西君の背中に吹き付けた。
きっとこれは出血を抑えてくれるものなのだろう。
タラちゃんはさらに糸を吹き出し、わたしと小西君をタラちゃんの身体に巻き付けた。
まだ祠に警戒を続けているようだ。
「タラちゃん、アイツなんだったの?まだ生きているの?」
タラちゃんは祠に向けて網状に編んだ蜘蛛の糸を何度も吹き付けて、祠を繭のように包み込んだ。
そしてすぐに海上へ飛び乗り、海の上をアメンボのように波紋をたてながら滑るように祠から距離をとった。
ーバチッ!ー。
祠に巻き付けた糸を引きちぎった音が海に響いた。
そこから黒い霧が大量に噴き出て、わたし達を凄まじいスピードで追いかけてきた。
逃げるわたし達を囲むように四方から波が逆巻き出す。
これは結界という物で、相手をその場から逃がさないための術らしい。
これで逃げ切ることが難しくなり、外部からも遮断されたことになった。
わたしとタラちゃんでこの黒い霧を何とかしなくてはならない。
いや……正確にはタラちゃんが何とかしてくれないとどうにもならない。
先ほどまでは虎の顔のみだった黒い霧は虎の全身を形成して、わたし達を一飲みできるくらいの巨大な姿を見せた。
テレビの動物特集などでたまに見る、どう猛な虎の動きで襲ってくる。
タラちゃんも俊敏な動きで連続攻撃を躱し続けてくれている。
結界の中に自らの糸を張り巡らせ足場を固めて戦闘態勢を作っているが、タラちゃんにはわたし達2人という足手まといがいる。
きっと本気を出せずに戦っている。
「タラちゃん、ごめん!こんなことに巻き込んで!」
「ギギィ!」
気にするなと言っているように聞こえた。
彼は何とかわたし達を守ろうと動いてくれている。
黒い霧の虎は、張り巡らせた糸を片っ端から喰い千切っている。
タラちゃんは虎の全身を覆うような大きな蜘蛛の巣を吐き出し、霧を拘束しようとした。
拘束しても暴れ回る虎との力勝負となったため、タラちゃんは身体を巨大化させた。
その際、わたし達を身体に縛り付けている糸に力が入ってしまった。
「かはっ!……タラちゃん……くっ苦しい……」
「……!」
わたしの一言がきっかけでタラちゃんの力が抜けてしまった。
霧はその瞬間を見逃すわけもなく、一瞬にしてチャンスに変えた。
捕獲糸を食い破り、タラちゃんと繋がる糸を噛みながら大きく首を振って巨大化したタラちゃんの身体ごと海水に叩きつけた。
その衝撃でわたしと小西君の身体はタラちゃんから離れ、宙に舞い上がった。
そして黒い霧の虎は、タラちゃんの腹に嚙みつく。
「ギイ!」
タラちゃんは大きな鳴き声を上げた、今まで聞いたことのない悲痛な声。
「タラちゃん!」
タラちゃんが藻掻きながら黒い霧とともに海水に沈んで行く。
沈みながらもタラちゃんは、宙からもうすぐ海面へ叩きつけられるわたし達に向けて、網状の糸を吐き出して包んでくれた。
糸結界というものだ。
タラちゃんは沈みゆく中でも、わたし達を助けようとしてくれた。
「タラちゃん!」
わたしの声に反応し、虎が睨んだ。
「なんなのよ!絶対にわたしはあんたを許さないから!馬鹿ぁー」
霧がまたあの嫌な笑顔をわたしに見せた気がした。
大きな口を開けて、糸に包まれたわたし達へ向かってくる。
「あんたなんて、店長にやられてしまえ!」
わたしは負け惜しみのように叫び、糸結界ごと霧に食べられてしまった。
不死鳥の力と、さとりの眼を持つことになった僕が百鬼夜行に巻き込まれていく・・・と、いう話さ
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