37話 誰も信じない私の物語
私達家族の悩み事なんて誰も信じない。
違う。
信じられる訳がないのだ。
きっと私が20歳を迎える日に,、行方不明か死ぬことによって私達家族の悩み続けてきた事が真実だったと気付くのだろう。
産まれつき病弱で、産まれてすぐに死ぬはずだった私を生かせるために両親はあるモノにすがった。
すがった先、それが白蔵主という悪しき狐の化け物だった。
私が産まれて間もない頃、その化け物は僧侶の格好をして私の両親に近づいてきた。
「なんと不憫な赤子だ、ワシの力を持ってすればこの子の病を完治することができる。その代わり20歳を迎える時、この子をワシの嫁としていただきたい。約束を守れるならこの子の病を治し、普通の人間と同じように生かせてやろうではないか」
私の両親は藁をも掴む思いで、その条件を呑んだ。
私が生きてくれるならと、先のことを考えずに契約を結んでしまったのだ。
信じられないことに、それから幼かった私の病状はみるみる回復に向かった。
両親は普通の子供と同じ生活を送れることに心から喜んだと思う。
しかし、すがって契約を結んだ者は人ならざるモノ。
その僧侶は自らを白蔵主と名乗った。
毎年誕生日には家まで訪れて、20歳までのカウントダウンを確認して帰る。
去年の誕生日にも現れて、私達に向かってこう言った。
「残り1年だ」
両親は頼った僧侶が人間ではないと気付いたとき、霊媒師や祈祷師などにお祓いを依頼したようだけど、まるで効果はなかった。
退治を試みた者たちはみな殺され帰らぬ人となった。
両親は策を練るも誰に相談したところで相手にされず手詰まりになった。
4年前、私が15歳になった日。
「残り5年だ」
なぜか、その年の白蔵主から言われた一言が鮮明に記憶に残っている。
5年後、20歳を迎える日にこの生活が失われるのだと確信した。
両親にとっては私がすべてだ。
また私にとっても両親がすべてなのだ。
いつもパパとママは私に言ってくれる。
「なんとしても七海を守る、絶対に守る」
私が高校生になった16歳の誕生日に、両親は自分たちで白蔵主を殺害する計画を立てる。
出した飲み物に毒を入れ、苦しんだところを撲殺するという古典的な方法だ。
いかにもって感じの計画だけど、そんな案しか思い浮かばないほど私たちは疲弊し思考能力が低下していた。
しかし洩った毒も効かずあっさりと返り討ちに会う。
「本来なら殺してやってもいいところだが、20歳までこの子を育ててもらわねば困るんだよ。いいか、逃げようなど考えても無駄だぞ、お前たちの行動は手に取るようわかるのだ。今回だけは許してやる、その代わりに20歳まで見事この子を育てろあげろ、わかったな!」
白蔵主はその時、私のおでこに指を当てた。
身体に何かが入り込んだ気がした、きっと良くないものだとわかった。
「いまこの子に呪印を付けた。今後お前たちが血迷ったことをした途端、この子の身体は風船のように膨れて割れる。我が子を死なせたくなければ覚えておくのだ」
その際のやり取りで両親は絶望に陥ってしまう。
なんという恐ろしいモノにすがってしまったのだと、自らを責め続けた。
絶望の残り4年間。
20歳を迎えるまで私は塞ぎこまず、普通の女の子として最後まで生きていこうと決心した。
学校もしっかり通って、歌手を目指してボイストレーニングのレッスンにも通う、アルバイトを探して働いてみる。
そして、好きな人をつくって、その人と同じ時間を過ごす。
そんな目標を掲げた。
絶対に20歳で人生を終わりになんかさせない。
私はパパとママにお願いして歌手になるためのレッスンに習わせてもらった。
そして高校生になったらやりたかったことの1つであるアルバイト探した。
偶然アルバイト募集のバナーが目に入り面接を受けに行ったのが、あの全国で有名なケンちゃんのフライドチキンだった。
――――――
「門馬 七海です。よろしくお願いいたします」
「はいはい、この店の店長です。よろしく」
人生初面接で緊張感が普通ではなかった。
どこか頼りない雰囲気の店長が現れて面接をしてくれた。
面接ではいろいろ形式的な質問をされた。
週何回入れる?
土日も入れる?
クリスマスは入れる?
年末年始は入れる?
それに対してわたしはすべてシフトに入れると返事をした。
そして、最後に私にとって辛い質問が飛んできた。
もし進学するなら大学生になっても続けられる?
酷な質問に思えた。
私だって、できればずっとアルバイトは続けたい。
でも20歳になったら私は……。
20歳になっても生きていて、ここに居ることができたならずっと続けたい。
そんな未来を期待していいのなら、もちろん続けたい。
と思った。
だから私は答えた。
「はい!続けさせていただきたいと思います」
生き続けてアルバイトも続けたい。
それが私の本心、実現させて見せる未来だ。
その時、さっきまで気怠そうに面接していた店長が私の目を見て真剣な顔をして言った。
「よし、ほな採用!」
「えっ?」
「今日からこの店の店員さんや。つまりは俺の部下ゆうことやな」
あっけに取られた、というのはこのようなをこと言うのだろうか。
人生初めての面接に来て、その日に採用してもらえた。
面接中はずっと緊張していたけど、採用という一言で力が向けた気分になった。
私は誰かに必要だと思われたことが嬉しかったのだ。
これから一生懸命この店のために働こうと誓ったのを憶えている。
しかし、このあとの店長の言動が私の人生を大きく変えることになる。
「今のままなら普通の生活ムズイやろ?ちょっとおでこ見せてみ」
私は変なことを言う店長だなと思いながら、言われるがままに両手で前髪を分けておでこを店長に見せた。
「痛いけど我慢してや」
店長は断りを入れてから、私にでこぴんをしてきた。
その瞬間、全身から何か嫌なものが弾け飛ぶ感じを覚えた。
「!」
「どや?身体だいぶ軽くなったやろ?」
「はっ、はい」
「しょうもない奴に、しょうもない呪いをかけられとったもんな。低級の狐狸に知り合いでもおるんか?願いを叶えてやるから何歳かになったらお前を食わせろ!とか言われとったんやろ?今その呪いは消したったし安心しいな」
私はなにが起こっているのかわからなかった。
でもこの店長はなにかすべてを知っている人のように思えたのだ。
私はこの不思議な店長に、今日初めて会ったこの人に、今までのことをすべて話すことにした。




