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不死鳥の力と、さとりの眼を持つことになった僕が百鬼夜行に巻き込まれていく・・・と、いう話さ  作者: ブラック企業幹部ちゃん
2章 夢を見ましょうか

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34話 本物の化け物はどっち


 

 殺した後に人肉を食べる。

 その人肉の味を覚えたことが、坂口くんの狩りのペースを上げた原因になった。


 人間と化け物の違い。

 人間には知恵と言う武器があり、化け物には力と言う武器がある。

 人間は同族を殺さず喰わない、化け物は同族を殺して喰う。

 

 山姥はそれが人間と化け物の大きな違いだと思っていた。

 しかし、その考えを根底から変えたのが坂口くんだった。


 彼は例には漏れず、力はないけれど人間の武器である知恵を持っていた。

 しかし彼の人間らしい部分はそこだけだった。


 人間を殺し、喰うに関しては山姥より嬉々として実行していた。

 楽しそうに悦に浸り、大人子供問わず女性が殺される直前に見せる恐怖や絶望の顔に性的興奮が頂点に達するようだった。


 

 「正直、おらと宏樹を見比べた時、どっちが本当の化け物かわからねぇくらいだった」

 

 「だからしゃべるな」


 「お前、その目はさとりの眼か?珍しいものを持っておるな。殺しておらの目ん玉にしようかなぁ」


 

 そこに妖狐が割って入る。

 

 

 「1度わたしに簡単に殺された奴が、この状況をみて勝てるつもりでいるのかい?4対1だよ」


 「けっ!多少だが腹は満たされた。さっきまでのおらとは違うでよ!」


 

 狭い室内を凄まじい速さで飛び回り始めた。

 力いっぱい投げたスーパーボールが箱の中ではじかれ続ける感じだ。


 

 「この速さは見えんだろう?さとりの眼で心を読んでも動きが見えんのなら対応のしようがないわ!」


 「そうでもない」


 

 飛び回る山姥に目と目を合わせた。


 

 「お前!おらの動きが見えているのか?」


 

 開眼したさとりの眼の力、先読みの術。

 ほんの少しだけど、眼に入ったものの未来の動きが見える力。

 これくらいの早さなら事前にわかれば対応ができる。


 山姥の突撃を躱す。

 何度も躱す。

 何度も躱し続ける。


 

 「なんだおめぇよぉー!むかつくわぁー!」


 

 山姥の動きに衰えが見えた。

 その瞬間、全身を炎で包み鳳凰最大の火力を詰めた突きで山姥の腹を射抜いた。

 

 

 「がはっ!いってぇー!」


 

 山姥は藻掻きながらも、さとりの眼を奪おうと僕の顔に両手を向けた。

 

 

 「じゃあな……化け物」


 

 そのまま手から発する業火で山姥の全身を燃焼させた。

 叫び声が聞こえないほどの爆炎が飲み込んだ。


 化け物の炭に変わった塊が、僕の足元に転がった。

 

 誰も声を発さないけれども決着がついた。


 

 「発情鬼……」


 「……はい」


 「前にも言ったけど、化け物のなかには人間を恐れてる連中は大勢いるんだ。化け物から見たら人間の方が化け物に見える時だってあるのさ」


 

 確かにさっきまで化け物より化け物な人間が目の前にいた。

 疑う余地などありはしない。


 

 「長いこと生きていますけど、過去に坂口のような人間はいました。化け物の存在を傘にして、犯罪を繰り返し行うクズのような人間です。そんな人間がいつの世も存在するのですよ」


 「月並みな言い方になるけど、やはり一番怖いのは人間様なんだと思うよ」


 

 山姥と坂口くんの頭部が燃え尽き掛けている。

 僕たちはそれを黙って眺めていた。

 

 

 「あとで爺様に来てもらおうかね。あまりに成仏できていない子供が多すぎる」


 「ここは警察にでも任せてこの家から出ましょう。結界が張ってある以上、我々のことは誰にも見えていません」


 「おうおう、ちょい待ち!」


 

 枕返しが僕たちを引き留めた。

 

 すると黒い渦巻が目の前に現れ、そこから夢の番人が姿を見せた。

 夢の番人は無言でその場に降りたち、燃え尽きようとしている2つの塊に目をやった。

 

 そして少し間を空けてから呟いた。

 

 

 「この者たちに相応しい最後だ」


 

 僕達にはまだ謎が残っていた。

 この夢の番人の存在だ。

 彼からは真実を何も聞かされていない。

 

 

 「この坂口って人間に、正夢の術を使わせたんだろ?夢の……」


 「枕の……この度はすまなかった」


 

 夢の番人は深く頭を下げた。

 

 枕返しには聞きたいことがあった。

 山姥の復活が坂口くんによる正夢の術と見抜きはしたが、ここに至るまでのプロセスが解らないままだったのだ。


 枕返しにとっては山姥と人間の共同生活よりも、夢の番人に取り憑かれた人間と正夢の術の発動がどうしても気になっていた。

 正夢の術は枕返しも使用が可能な術のようだ。

 だからこそ知識がある分不思議に思うことが多くあった。


 まず正夢の術は使用するにあたり、術者が死ぬため誰にもメリットがない。

 そして命を対価にするこの術は、術者からすれば発動したか確認のできない信用が置けない術になる。

 だから、過去に使用された記憶はほとんどない。

 

 この術を人間に使用させること自体が思いつかず、今回夢の番人のとったプロセスに理解できずいるのだ。


 

 「夢の、一連の流れを教えろや」

 

 「枕の……我々の存在が何かと考えたことはあるか?」


 「はぁ?なんだそりゃ?」

 

 「我々はなぜ生き物の夢の中を自由に行き来できる?なぜ夢遊空間で生きている?そんなことを考えたことはないか?」


 

 夢遊空間を出た今、夢の番人の心がさとりの眼で読み取れる。

 夢の番人は真面目な性格で、自らの存在に対して意味を深く考える繊細な化け物のようだ。

 


 「夢世界で生きる化け物は多くない、私やお前、バクにサキュバスやインキュバスなど、外の国を見ても少ないものだ。そもそもなぜ我々のようなモノが存在するのか?」


 「知らねえぜ、そんなの」


 「そうだ知らないのだ。だから私は存在の意味を作ろうとした。人間や化け物、動物など関係なく良い夢を見せて幸せな気分にさせることを自分の存在理由とした」


 

 ある時から夢の番人は、自らの力を周りの生き物のために使っていくと決めた。

 ただ、そのことから様々な生き物と接点ができ、人間の中にいる化け物よりも恐ろしい思考を持つ者の存在を知ることになった。

 

 

 今回の発端は、夢の番人が知里ちゃんと出会ってしまったことから始まったようだ。


 

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