32話 妖狐 対 山姥
氷花さんは狐火を爆ぜさせて山姥を包み込もうとした。
しかし容姿に似つかわしくない動きを見せて、空中で軌道を変えて狐火を避けた。
「狐のお家芸はみんな知っとるで、怖くもなんともないわ!」
山姥は着地した瞬間に再度氷花さんへ飛び掛かる。
氷花さんは床下から大きな氷を飛び出させて山姥の腹を射抜いた。
「ぎゃぁ!」
「勝負あったね」
氷が突き刺さって身動きが取れない山姥へ、氷花さんは大玉の狐火を溜め始めた。
これは炎の狐火。
「氷花さん、待って!」
「!」
聞きたいことがまだあった。
どうしてこの化け物が坂口くんと共同生活できていたのか?
生き物を殺したいという価値感や目的が同じだっただけで、一緒に生活ができるものなのだろうか?
山姥が坂口くんを殺さずに我慢できたのはなぜなのか知りたかった。
「山姥、お前に質問がいくつかある。答えなくてもいい、心で思うだけでいい」
「いっ痛えぇ!くそがぁ!」
「どうして、彼とともに生活ができた?どうして彼を殺さず育てることができた?」
「けっ、下らねえ質問だなぁ。……そんなの決まってんだろうがぁ」
山姥が質問に答えようとした時、大きなノコギリを手にしながら坂口くんが襲いかかって来た。
「お母さんから離れろぉぉー!」
「坂口くん!」
坂口くんは叫びながら、ノコギリを振り回した。
その顔は、大事な家族を守るために戦うの男の顔をしていた。
「お母さん、大丈夫?」
「あぁ、お前は本当にいい子だ宏樹……こ奴ら殺したら旨いもん作ってやろうなぁ」
「うん」
彼が笑顔でその返事をした瞬間。
氷花さんの手から放たれた大玉の狐火が、山姥を包んで燃え始めた。
「ぎゃあぁぁぁぁー!」
氷の岩に刺さった状態の山姥は、青い炎に焼かれ断末魔の叫びをあげた。
「お母さん!お母さん!」
「ひっ……宏……きー」
山姥は彼の名前をつぶやいた。
青い狐火は激しく盛り、確実に山姥を焼殺させた。
「お、お母さん。嘘だ!なんで!」
坂口くんは、山姥が焼け死ぬ姿を目にして錯乱状態に陥った。
そしてノコギリを手にして僕たちを睨みつけた。
「よくもお前らお母さんを!殺してやる、全員俺が殺してやる!」
僕たちの本来するべきことは彼を警察に連れていくことだ。
彼の行いを自白させて、すべてを明るみにさせることなのだ。
僕は僕自身に何度もそう言い聞かせた。
そうでもしないと、僕がこの場で彼を殺してしまいそうだから。
このような感情を持ってしまう僕は、いよいよ本当に人ではなくなったのだとつくづく思う。
「坂口くん、警察にいこう」
「黙れ!殺してやる!」
「僕の言うことを聞いてくれ、でないと僕が君を……」
「火鳥くん!いけませんよ!」
その時、僕たちの目の前に黒い渦巻のようなものが現れた。
その渦巻から突如現れたのは夢の番人だ。
夢の番人は坂口くんの横に立ち、僕たちに向かって言った。
「山姥を殺ってくれたか。礼を言う」
「夢の!なんでお前がここにいる?」
「この人間の意識をもらい受ける」
夢の番人はそう言うと、坂口くんの額に指をあて気を失わさせた。
そしてすぐに黒い渦巻に飲まれて消えて行った。
枕返しが大きな声をあげる。
「おい、元人間!追うぜ捕まれ!」
「氷花さん、先輩!僕の身体をお願いします!」
僕は枕返しの肩に触れ、坂口くんを追うため再び夢遊空間へと向かった。
――――――
朝にも来たばかりの真っ暗な夢遊空間にたどり着いた。
先と同様、夢遊空間には夢の番人が立って待っている。
「夢のよ、もういいだろう。いい加減説明せい」
「坂口くんをどこへやった?」
夢の番人は一言も話さないが、マントから右手を出してある方向を指し示した。
その先には改札のようなものがあり、その奥にはいくつもの扉が見えた。
「すでに夢送りにしたのかよ?」
「お前達は現実世界に戻った方が良い」
「どういうことだ?」
「あの男は息絶え山姥が生き返る。山姥をもう一度討たねばならぬ。だから現実世界へ戻れ」
「夢の……お前なに言ってんだ」
あの男が息絶える?
坂口くんのことか?
そして山姥が生き返る?
どういうことなんだ。
「本当によくわからんぜ!とにかくすぐ戻った方が良さそうだ元人間!」
僕の意識は光が見える方に引っ張っれて、再び現実世界へ戻ってきた。
夢遊空間の滞在時間が短かったこともあり、気力の消耗もないのが救いだ。
僕は飛び起きて周りを見渡す。
「火鳥くん、戻りましたか!」
「これは一体どうなってんだい、発情鬼?」
戻った現実世界で目にしたもの。
それは焼死した山姥が生き返り、息絶えた坂口くんを抱きかかえている姿だった。




