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31話 本性


 夕日が落ちるころ。



 僕たちは血の香る家の前に到着していた。

 先輩が僕達の行動を確認し始める。

 僕たち4名が家の敷地に入る直前、山姥が逃げられないように先輩が結界を張ることになっている。

 そのまま家に入り、坂口くんを見つけて僕が彼と話し合う流れだ。

 

 もちろんさとりの眼を使い、会話をしながら彼の本心を読む。

 

 邪魔に入ろうとする山姥に対しては氷花さんが相手をしてくれる。

 夢の番人やサキュバスが関わる動きを見られた場合は、枕返しが対応するという段取りになっている。


 

 「なにか問題はありませんか?」

 

 「ないねぇ、とっとと入ろうじゃないか」

 

 「では行きましょう」


 

 僕は眼鏡を外して、敷地内に入り込んだ。

 先輩は速やかに結界を張り、山姥の出入りを封じた。

 

 玄関へ入る。

 物音ひとつ聞こえない。

 奥にリビングがあるらしいので、そちらに向かっていく。


 リビングにはテレビやキッチンがあり、キッチンの前には4人掛けの大きなテーブルがある。 

 そのテーブルの椅子に座り、坂口くんはこちらへ笑顔を向けていた。


 

 「お母さんのいったとおりだ。せっかく出られたのにまた戻って来たんだね」

 

 「坂口くん……」

 

 「やぁ、火鳥くん」


 

 聞きたいことがたくさんある。

 でも、真実を知ることへの恐怖心もある。

 そこに先輩が口火を切った。

 


 「ここに何人か子供たちが暮らしていたと思うのですが、今はひとりもいませんよね?」

 

 「みんな巣立っていきましたから」

 

 「山姥とあなたで殺しましたよね?」

 

 「……」

 

 「!」


 なんてことだ。

 先輩の言っていた通りだ。

 彼は心の中で、先輩の質問にたいして動揺することもなく頷いている。

 


 「あなたと山姥の関係も知りたいですね。どこで出会ったのでしょう?そしてなぜ一緒に暮らしているのか?」

 

 「…………」

 

 「そして、殺された子供たちはどうしてこの家へ来ることになったのでしょう?」

 

 「……」


 

 彼の心の声は、僕の想像だにしない事実を語っている。

 聞くに堪えない答え。

 その中で僕はどうしても気になっていることを質問せずにいられなかった。


 

 「知里ちゃんは……どこにいるの?」

 

 「……知里は」


 

 坂口くんは少し困った顔をした。


 

 「冷蔵庫にあった頭部……あれが知里ちゃんですね?」

 

 「……」


 

 最悪の気分だ。

 会話に良く出ていた妹のような存在。

 その子もすでに殺していたようだ。

 

 彼の意思による行為なのだろうか?

 山姥という化け物に操られているだけではないのか?

 もし本当に彼の意思で子供を殺していたのなら……。


 本当の化け物は坂口くんじゃないのか。


 

 「ほほう、思うたより早くに来たな童や。今度はちゃんと殺してやろうな」


 

 山姥のお出ましだ。


 

 「人数が増えとるな、化け狐に枕返しか?なんちゅう面子かの。がはは!」


 

 坂口くんは落ち着いた口調で山姥に話しかけた。


 

 「母さん。もういろいろとバレてるみたい。困ったなぁ、もう学校にいけないよ。施設からも新しい子供を預かることができなくなっちゃうね」

 


 先ほど先輩からの質問にあった、殺された子供たちはどうしてこの家へ来ることになったのか?

 それは彼らがボランティアとして施設から子供達を定期的に預かっていたようだ。

 先輩の質問に対して、坂口くんの心は真実を語り始めている。

 

 僕は僕の知らない彼の本性を知っていくことになる。



 ――――――


 

 山姥はその時々に場所を変え、顔を変え、名前を変え、里親登録を行い里子を迎え入れる準備をしていた。

 里子を迎え入れては頃合いを見て、殺し解体し食す。を繰り返し行っていた。

 

 定期的に実施される市の職員の家庭訪問時には、妖術で幻覚を見せて問題なくやり過ごしてきた。

 この方法で迎え入れられるだけ子供を迎え入れては残虐非道を繰り返していたのだ。

 そしてその地域で活動の限界を感じれば、地域を変えて犯行を繰り返しす。

 

 あるとき里子として向かい入れられたのが、この坂口宏樹だった。

 山姥は数日一緒に過ごす中、坂口くんが化け物と近い思想を持っていることに気が付いた。

 坂口くんは逆に自分と同じ考えを持つ山姥との出会いに、運命の出会いを感じたようだ。

 

 

 誰にも言えなかった感性と思想。

 虫や動物以外の殺傷欲望。

 興味のあった人体の解体。


 

 彼はある日を境に、山姥から殺人方法や解体方法に関して教わることになる。

 山姥は物覚えの良い坂口くんを常に褒めた。

 人間にもお前みたいな者がいたのかと喜んでいた。

 次第に山姥の笑顔が彼の生きる糧となっていった。


 里子を引き取れば、山姥と共に犯行を繰り返す。

 それをこの家の地下室で行っていた。

 幼少期から両親がいない彼は、山姥から得たものをすべて愛情だと思いそれに応えて来たようだ。


 残虐行為を受けて殺された子供たちの残留思念がさとりの眼に写る。

 

 今、僕の目の前にいる男は人ではないと思った。

 生かしていてはいけないのモノなのだと思った。

 

 右手に炎が灯る。

 

 知里ちゃんをどうして殺したのか。

 冷蔵庫に頭部を残すなんてまっとうな人がする行為ではない。


 

 「知里ちゃんを可愛がっているって言ってたよね?」

 

 「……」

 

 「どうして殺して頭だけ残したの?」

 

 「……」


 

 いや、もう何も聞くまい。

 聞いたことを後悔した。

 

 ――食べたくなったから殺した……殺してからも可愛いから毎日顔が見たかった――。

 

 彼はもう立派な化け物だ。

 愛した者を殺して食べるなど、すでに人の愛し方ではないのだ。

 


 「火鳥くん!いけませんよ。彼は人間です。もしも殺してしまえば、あなたは人殺しになります」

 

 「彼は人ではありません」

 

 「いいえ、人です。冷静になってください」


 

 坂口くんは驚いた顔でこちらを見ている。

 心を読んでいる僕に、右手に炎を纏い始めた僕に理解が追い付いていないのだ。

 


 「宏樹はさがっとれ、こ奴らはほんまもんの化け物よ。お前などすぐ殺されるわ」

 

 「うん……」


 

 坂口くんがリビングから出ていくのを確認すると、山姥は両手に大きな包丁を持って構えた。

 そこに氷花さんが身体に狐火を身体に巻き付かせて一歩前に出た。


 

 「こいつはわたしが貰うって話だったよね」

 

 「年端もいかぬ化け狐がおらに勝てるかい!」


 

 そう言うと山姥は氷花さんに向かって飛び掛かった。

 

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