23話 クラスメイト
夢を見ましょうか。
どんな夢がお望みでしょうか?
ご希望がございましたら何なりとお申し付けください。
ここは夢の中。
どんな事だって思いのままです。
好きな人とのデート。
テーマパークで1日中友達と遊ぶ。
スーパーヒーローになって悪人を倒す……等々お好きな内容で夢が見られます。
方法は簡単です。
この私からチケットを一枚受け取り、そのチケットを握りしめながら夢で見たい内容を思い描いてください。
そしてこの先にある改札口を潜ればいいだけ。
それだけで、貴方はみたい夢を見ることができる。
ただ報酬というわけではありませんが、チケットを受け取る際に貴方の元気と言いますか、生気と言いますか、それを少しですね……本当にほんの少しいただくことになります。
そのため朝起きた時に気怠さが残ります、しかしそんなに気にするものでもありません。
1日2日ゆっくりすれば回復します。
さぁ、それでは夢を見ましょう。
現実世界は辛いことばかりです。
せめて夢だけは、夢の中だけは幸せな自分であろうではありませんか!
お客様!今宵はどのような夢を見ましょうか?
――――――
始業のベルがなる。
僕は坂口くんの席を見た。
今日も欠席だろうか、坂口くんは学校に来ていない。
坂口くんは施設から通う子だ。
それほど親しいわけではないが、連絡先も知っているし顔を合わせば雑談するくらいの仲だ。
坂口くんは幼い頃から両親がおらず、そんな子供たちが共同生活をしている施設育ちの男の子だ。
今までいろいろと大変なこともあっただろう。
彼と同じで僕も両親を亡くして1人になったけど、僕には叔父さんと叔母さんがいてくれる。
支えてくれる人がそばにいるということは幸せなことだ。
そんな彼には血は繋がっていないけど、施設に知里ちゃんという妹のように可愛がっている子がいると言っていた。
その子が精神的な支えのようだ。
高校を卒業と同時に施設を出なくては行けない彼は、すでにその後の知里ちゃんのことを心配しているくらいだった。
そんな坂口くんが最近学校に来なくなった。
「先生、坂口くん今日も欠席ですか?」
「そうね。少し体調が悪いみたい、今日も休むって連絡があったわ」
クラスメイトの質問に、担任の渡辺先生が答えた。
施設から連絡が入っているらしいので、本当に体調不良なのだろう。
今日で9日連続の欠席となる。
スマホに連絡をしても既読にすらならない。
施設では就寝時間とか決まりはあっても、結構な自由時間があると言っていた。
だからいつもレスポンスは早かった。
それが既読にすらならないから心配だ。
担任は何か別の事情を聴いているのかもしれない。
それはみんなに伝えられないことなのだろうか?
あとで先輩に相談してみようと思う。
――――――
百目との戦いから2か月は経っただろうか。
少しずつ新しい世界……いや新しい生活に慣れてきている。
毎日学校に通いながら、氷花さんと家入先輩とも顔を合わせてコミュニケーションをとっている。
特に家入先輩の姿勢は、今後の僕の礎になるものだ。
その先輩は昼休みになると図書室にいる。
僕は図書室へ向かって、いつもの場所でいつものように本を読んでいる先輩を見つけた。
恐ろしいほど集中して本を読んでいるので声が掛け辛い。
「先輩」
「……」
「あの、先輩!」
「……なんでしょう」
眼も合わせずの相槌が返ってきた。
これだから見た目は幼いのに、怖がってみんなが声を掛けないんだ。
「すみません、バイトの時でいいので話を聞いてもらえませんか」
「今で構いませんよ。本を読みながらでも話くらい聞けます。それにバイト中の私語は土蜘蛛が許さないでしょう」
「そうですか、ありがとうございます」
僕は坂口くんのことを先輩に話した。
9日間の欠席、連絡も全く取れない、担任からは体調不良としか説明がないこと……知っている情報をすべて伝えた。
先輩は黙って僕の話を聞いてくれていた。
「あまりお勧めはできませんが、そんなに気になるのなら視覚共有を持っている土蜘蛛に頼んで坂口くんの様子を確認してもらってはいかがですか?」
と、アドバイスをくれた。
確かに良い案だと思うが、そこまでするべきなのか悩む。
さとりの眼を持つ僕が言うのもなんだけど、人のプライバシーを簡単に見ていいわけがない。
僕は先輩にお礼を言って、図書室を出た。
――――――
放課後、正門には氷花さんが待っていた。
すでに護衛は解かれているようだけど、いつも待ってくれている。
氷花さんにも坂口くんの話を聞いてもらった。
「放っておきゃいいんだよ、そんなの」
一言で片付けられた。
そもそも化け物は、仲間以外の者を心配するって感情が薄いのかもしれない。
知らない者への同情や、寄付をする等の行為は人間特有のものなのだろう。
「そんなことよりさ、君今からバイトだろう?フライドチキン買って帰ってきておくれよぉ」
何なんだ、この狐は……。
今日は17時からケンちゃんのフライドチキンでバイトだ。
残念ながら先輩はOFFだった。
そして店長も店長会議で本社に出向いているため店舗にいない。
今日はアルバイトだけで営業する日のようだ。
この店はアルバイトだけで営業ができる優秀な店舗といえる。
大学生のアルバイトリーダーを中心に、完璧なフォーメーションで店舗が動いている。
今日の僕のポジションは商品を準備してお客様に提供するカウンターだ。
このポジションではスピードと正確さが重要視される。
またお客様へ元気いっぱいの挨拶が必要となる、ボイスリーダーの役もこなさなければならない。
店舗前は、まばらな人通りだった。
平日夕方のピークタイムということで多少は忙しいが、問題なくお店は動いている。
これくらいのピークならアルバイトだけで問題なく乗り切れそうだ。
その時。
「……あれ、坂口くん?」
店舗の前を歩く坂口くんが見えた。
いや坂口くんに似た人?
ずいぶん痩せ細っているように見えた。
僕はアルバイトリーダーに持ち場を離れることを告げて、坂口くんを追いかけた。
「坂口君!」
「……やぁ」
生気の無い顔色の坂口君が、笑顔を向けた。
9日間欠席するだけで、これほどやせ細るものなのか?
彼は骨格が見えるくらい短期間で痩せていた。




