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不死鳥の力と、さとりの眼を持つことになった僕が百鬼夜行に巻き込まれていく・・・と、いう話さ  作者: ブラック企業幹部ちゃん
1章 悪しき化け物は花火と化して咲いて散れ

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22話 新しい世界で


 その山に僕達は電車とバスを乗り継いでようやく到着した。

 

 マンションから2時間もかかるような山奥だ。

 自動車が運転できればスムーズに来ることができたけど、途中からは徒歩でしか進むことのできないような場所だ。

 

 目的地はおそらくこの辺り、ということだけを牛丸さんから聞いてやって来た。

 正式な場所がわからないけど、ここまで来たら何とかなるかなって思っていた。

 16時現在、僕たちは鞍馬山と同じくらい自然に満ち溢れた山の中を彷徨っている。


 考えが甘かった。

 

 この夏の暑さの中、目的地のはっきりしない山の中になど来るものではない。

 氷花さんと先輩は暑さを感じないのか、ピクニック気分で楽しそうにしている。


 

 「すみません。もう少し探して見つからなければ今日は帰ります」

 「もう少し目印的なものが欲しいもんだねぇ」

 


 何百年も前のことだ、本当にこの場所かどうかもわからない。

 牛丸さんの記憶もあやふやだった。

 


 「あれっ。いま誰か通りませんでした?」

 

 「えっ?」

 

 「確かに通ったね。こんな場所にわたし達以外の者がいるなんてねぇ」

 

 「どこにいました?」


 

 氷花さんと先輩は、人影を追うように歩き始めた。

 人影が進んでいった方に急いで向かったのだけど、まったく追いつけない。

 僕達の追跡を撒くなんて普通の人間にはなかなかできないはずだ。

 奇妙な思いをしたまま、草木を掻き分けて周辺を探し続けた。

 

 しばらくすると、氷花さんが夏草の茂る中に苔だらけの岩を見つけた。


 

 「なんだいこれは?」

 

 「苔を落とさないとわかりませんが……これはお墓ではないですか?」


 

 それを聞いて僕は慌ててふたりの前に立った。

 僕には一目でわかる。

 苔に包まれているものがお墓なのだと。


 僕達は急いで苔を落とした。

 こんなことになるなら掃除道具くらい持ってくるべきだった。

 

 苔を綺麗に落とすと、母さんの墓と同じような作りの岩だとわかった。

 綺麗に磨かれており、作り手の愛が伝わるお墓だ。


 その墓は夕日に照らされ、街並みが一望できる良い場所に建てられていた。


 

 戦いの最中に現れたさとりとの約束。

 さとりの眼の使い方を教える代わりに、さとりの頼み事を聞くことになっていた。

 

 その頼み事とは、この墓を探すことだったのだ。


 さとりから墓の場所は牛丸さんに聞けばわかると言われていた。

 さとりにとってこの墓がどういったものなのかは、牛丸さんから教えてもらった。

 

 ここは人がなかなか立ち寄りそうにない寂しい場所だ。

 ひとりで来るつもりだったけれども、今はふたりに付いてきてもらって良かったと思う。

 

 

 「あの人影、この場所を知らせるためにきっと墓から出てきたね」

 

 「えぇ、小さな女の子のように見えました。ずっと一人で寂しかったのでしょう」


 

 僕は眼鏡を外して墓を眺めた。

 この墓は僕達を……いや、さとりをずっと待っていたんだ。

 

 墓の前に立っていると、なぜだか左目から涙が溢れ出した。


 

 「火鳥くん?」

 

 「どうした。何か感知したのかい?」


 

 お菊と過ごしたあの日の景色を、さとりの眼が通り過ぎた風のように見せてくれる。


 

 「さとりが……」

 

 「さとりがどうしたの?」

 

 

 「ありがとうって」

 


 

 ――――――

 


 

 山を下りるころには、日は完全に落ちていた。

 

 

 「日曜日にわたしと火鳥くんが居ないのでお店は大変でしょうね」

 

 「店は俺が何とかするから心配するなって言ってくれてましたけど」

 

 「まぁ夏休みに入ればわたし達が頑張って土蜘蛛にOFFをあげようではありませんか!」

 

 「そうですね」


 

 来た時と同様にバスと電車を乗り継いで帰った。

 先輩は何かお土産を買っていた。

 住み着いている家のおばあさんへのお土産らしい。


 人間と化け物が仲良くできるケースもしっかりとあると思う。 

 みんなもこうであればいいのにと心から願ってしまう。

 


 「ねぇ、この先においしそうな物を売っている店を見つけたんだ。今日の晩御飯にいいんじゃないか?」

 

 「たぶん、伯母さんがご飯を用意してくれてますよ」

 

 「そうかぁ残念だねぇ。それなら土産に持ち帰るっていうのはどうだい?」


 「……」

 

 

 押しに負けて買いに行ってしまった。

 何が晩御飯にいいだよ。

 これドーナツだし。

 ジャンクフード好きの狐なんて聞いたことが無いよ。

 

 駅からの帰り道、氷花さんに聞かれた。


 

 「発情鬼はこれからどうしていこうって考えているんだい?」

 

 「これから?」

 

 「あぁ、これから人間として生活を送るのか、化け物側に完全に身を寄せて生活していくのかってことさ」


 

 最近はそのことを真剣に考えていた。

 正直答えはでていないけれど、先輩や店長が僕の中では座標になってくれていると思う。

 上手に生きて行けば、今のまま人として人生を送れるのではないかと考えている。

 


 「当分は、人間として生きていければなぁ、なんて思います」

 

 「そうかい、それならそれでいいんだよ」

 

 「はい」

 

 「でも、いつかその生き方が辛くなって来るかもしれないね」


 

 生き方が辛くなるというのは長く生きていくことの辛さを言っているだろうか?

 それとも出会いや別れの辛さのこと言っているのだろうか?

 短期間で多くの物を失った僕は、これから何も失いたくはない。


 

 「辛くなった時には氷花さんがいてくれるんですよね?」

 

 「はぁ?」

 

 「いてくれるんでしょ?」

 

 「やれやれ……人間の16歳なんて本当に赤子だねぇ」


 

 氷花さんは少し呆れた顔を見せた。

 

 

 「わたしが目を離しても大丈夫だって思える男に早くなりな」

 

 「せめて発情鬼って呼び名からは成長したいと思っています」

 

 「ふん、何年先になるやらだ」


 

 氷花さんからすれば僕はまだまだひよっこだ。

 守られる奴ではなく、守る奴になろうと思う。

 

 

 そんな話をしながら僕達は家路に着いた。




 ――――――



 これから僕はどうなるのだろう。

 

 おそらく想像もしていなかった人生を歩むことになる。

 父さんや母さんが望んでいた人生とはまったく違う人生を歩むのだと思う。

 

 人間ではなくなったこの新しい世界に不安しかない……。

 だけどこの世界を受け入れて生きていかなきゃならない。

 

 良い仲間たちと出会えたことが不幸中の幸いかもしれない。

 

 夢の中でのヒーローは、いつも目が覚めた時に夢だと気付いて落胆する結末だった。

 今はなんど目が覚めても新しい世界のまま話が続いている。

 

 不思議なことに、そんな日常を僕は受け入れ始めることができているんだ。

 

 

 明日も朝が来て目が覚めれば、この新しい世界でいつものおはようなんだ。

 


ここまでご覧いただき誠にありがとうございます。


修正前は、20話 と、言う話さ で完結予定の話でした。

読み返して修正していくうちに色々と話ができてしまい、22話 新しい世界で に変更して、引き続きの話を執筆しております。


明日からの更新ペースは1日1話更新の予定です。


煉と氷花、家入先輩の活躍に興味を持って読んでいただけるように頑張りますので、引き続きよろしくお願いいたします。


もしよろしければ、一言でもありがたいので感想などいただければ幸いでございます。



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