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15話 不死鳥 対  羅刹鳥


 「!」

 

 

 

 気が付けば廃屋の天井が見えた。

 僕は羅刹鳥にやられて意識を失っていた。

 その間にさとりが僕に語り掛けてきていたようだ。

 

 どうして今だったのかわからないが、生死を彷徨っている時にあの世へ逝っている者と会話を持ちやすいと聞いたことがある。

 死にかけているけど僕が死ぬことのない者だと知っているから、ここぞとばかりにさとりは願いを伝えに来たのだろうか。

 その願いを叶えるためにも早く終わらして帰らないといけないな。

 

 僕は起きあがった。

 

 

 「!?」

 

 

 驚いた。

 傷が完全に塞がっている。

 

 確かにかなり深いところまで切り込まれた感覚があった。

 服は切り裂かれ激しい出血のあとも見られるが傷跡が無い。


 これこそ不死鳥の回復能力によるものなのか?

 


 

 ――ドン ドーン!――。


 

 

 屋上から何かを叩き付けるような激しい音が聞こえてくる。

 僕が倒れたせいで先輩がひとりで応戦中なんだ。


 

 僕も急がなければ。


 

 ――――――


 

 屋上では羅刹鳥と先輩の激しい戦闘が繰り広げられていた。


 

 「先輩!」

 

 「火鳥くん!よかった、回復したのですね」

 

 「代わります。僕に戦わせてください」

 

 「……しかし」

 

 「次は失敗しませんから」


 

 もう無様な戦い方はしない。

 気を失っていた時、さとりが教えてくれたことを思い出すんだ。


 

 「火鳥くん、ずいぶんと雰囲気が変わりましたね」

 

 「そうですか」

 

 「何か、あったのですか?」

 

 「……相棒が戦い方を教えてくれたからでしょうか」

 

 「相棒?」

 

 

 さとりから教わったことは3つ。

 

 1つめは、100%の瞳力を発揮させたいのであれば、右目を閉じてさとりの眼である左目だけで相手を見ろとのことだ。

 さとりの眼ではない右眼でも相手を見ると、さとりの能力を存分に発揮し切れないらしい。

 

 2つめは全妖力を左目に集中させて、さとりの眼を開眼させることだ。

 さとりの眼に妖力を流すことで、本来の能力が発動できる。

 通常の読心の術に先読みの術が加わり、幻術などへの耐性力も付与されるといっていた。

 

 羅刹鳥が翼を広げて、無数の羽を弾丸のように僕に向けて発射してきた。


 さとりの眼を開眼して先読みの術を発動させる。

 すると向かってくる羽の軌道が、事前に映像として見えてくる。

 眼に写るすべてのものの動きがスローモーションになった。

 その力ですべての羽を躱して、いくつかは鳳凰の手で焼滅させることができた。


 

 「火鳥くん!」


 

 先輩が驚いている。

 でも一番驚いているのは僕だったりする。

 さとりの眼を開眼させるとこんなことになるのか。

 

 すごい。


 そして最後の3つめ。

 戦闘中は読心の術と先読みの術を状況により使い分けること。

 瞬きの間に変化する状況下では使い分けが必須になる。


 これができれば相手の攻撃からの対応が早く、未然に対策がとれるわけだ。

 両眼がさとりの眼なら同時に発動できたらしい。

 さとりは3つ目の使い分けが一番重要になると言っていた。

 

 今の僕は、何秒か先の羅刹鳥の動きを見ている。

 

 先読みの術。

 これは便利だ!


 

 「何があったかわかりませんが覚醒ってやつでしょうか?好都合です。少し作戦を立てましょう」

 

 「先輩、アイツは僕1人で」

 

 「火鳥くん、この屋上という条件は確実に相手に有利です。この状況を打破できる手段をあなたはまだ持っていません」

 

 「火の玉をぶつけてやります……」

 

 「簡単に当たってくれるとは思いません。トドメは火鳥くんにお任せしますが、そこまでは共同作戦をとるべきです」


 

 先輩は僕に小声で作戦を伝えてきた。

 羅刹鳥の動きを封じることを最優先とするとのことだ。

 そのために今から僕1人で羅刹鳥と応戦し、できるだけ先輩から気を逸らして欲しいと言われた。


 問題ない。

 

 作戦は無視して今のうちに僕が1人で倒してみせる!



 ――――――



 2階では氷花さんと馬頭の氷結術がぶつかり合っていた。


 術同士のぶつかり合いで起きる衝撃が両者にダメージを与えている。

 

 

 「互いにお家芸同士では拉致があかんよな、衝撃波によるダメージでは耐性に勝る我の方に分があるようだ」

 

 「へぇ、そうかい」

 

 「ふん。妖狐とは元々火属性の化け物、異端のお前は氷の術が使えるようだが完全な氷属性では無いようだ。勝負あったな」

 

 「雑魚はよく話すものさ」

 


 馬頭は大口を開けて、凍てつく息吹を吐き出した。

 氷花さんは蒼い狐火を傘状に広げそれを防ぐ。

 防ぎ切った狐火は傘を裏返しにした様な形状へ変り、馬頭を包み込むように襲いかかる。

 

 しかし氷属性の馬頭に対して氷の術の攻撃ではダメージを与えきれない。

 

 

 「ふふふっ、やはり勝負がつかんな、狐よ」

 

 「そうね」

 

 「我はこの槍にてお前を撃つことにする、お前と違い我には体術と槍術がある」

 

 「わたしが完全に不利ってことかい」

 

 「哀れよな」

 

 「それでも、わたしにはこれしか無いから」


 

 氷花さんは狐火を両手に灯した。先ほどのものより猛々しい狐火だ。


 

 「これで最後になるだろうから最大妖力の術を見せてあげる」

 

 「愚かだな。何をしようが無駄なことよ。せめてもの情けとして命をかけたその一撃、正面から受けて進ぜよう」

 

 「君、優しいんだね」

 

 「受け切った後は、我が槍でお前の首を刎ねさせてもらう」


 

 氷花さんは両手に大きな蒼い狐火を握りしめ、サッカーのスローインを投げる様なポーズをとった。

 

 

 「わたしの最後の一撃、受けてくれてありがとう」

 

 

 氷花さんは特大の狐火を馬頭に向かって投げつけた。


 

 「敵ながら勇敢であった。せめて苦しまず一振りで首を切り落としてやるぞ」


 

 氷花さんが放った渾身の狐火は馬頭に直撃した。

 


 「ギィヤヤヤヤヤァァァァ!イヤヤヤヤァァァァー!」


 

 馬頭は悲鳴をあげた。

 床に倒れ込み、蒼い炎に包まれてノタウチ回っている。

 

 

 「アアア、アツイィィィー!」


 

 氷花は馬頭の握りしめていた槍を拾い上げて近づいていく。


 

 「氷結術しか使えないって思ってたんでしょ?バカじゃない。今のが火炎術って気付きもしないでまともに喰らってさ」

 

 

 馬頭は断末魔の叫びをあげている、もはや氷花さんの声など聞こえてはいない。

 

 

 「苦しそうだから介錯してやるよ」


 

 氷花さんは手にした槍で、馬頭の首をひと突きした。

 

 

 「着物最後、傑作だったよ」

 

 

 そう言うと氷花さんは意地の悪い笑みを浮かべた。

 

 

 「さて、みんな屋上に移動しているようだね……わたしも向かうとするか」



 ――――――


 

 羅刹鳥が苦悶の表情を見せながら夜空を羽ばたく。

 

 先読みの能力を使い、炎を羅刹鳥に投げつけているため面白いくらいに当たっている。

 このまま勝負を決められるのではないだろうか?


 

 「痛えな!クソボケが!」

 

 

 羅刹鳥は翼を倍ほどの大きさに広げ力強く羽ばたく。

 飛びかう炎を掻き消そうと必死だ。

 もっと集中して強力な炎を作らねばならない。

 

 羅刹鳥はナイフのように鋭い羽を無数に飛ばしてきた。


 力を溜める時間を与えないつもりだ。

 

 四方八方に素早く飛び回り遠距離攻撃を仕掛けてくる羅刹鳥は。僕には相性が悪いようだ。

 それと戦闘経験の差がある……。


 先読みの術を使い、相手の攻撃を躱しながら攻撃に転じる戦い方は妖力と体力の消耗が激しい。

 僕にとって妖力量の問題はまったく無いが、スタミナが続かない。

 息も吐かせぬ連続攻撃に膝が笑い始める。


 

 「しまった!」

 

 

 足を取られ跪いてしまった。

 

 

 「調子に乗り過ぎだ!カスが!」

 

 

 放たれた無数の羽が僕の全身に刺さった。


 

 「くっ……くそ」


 「勝負あったなぁ」


 

 羅刹鳥は僕のそばに着地するとあざ笑いながら近づいて来た。

 身体を起こさないとまずい。

 とにかく立ち上がらないと……。

 

 

 「さとりの眼をいただくとする。もう一個の目玉は俺が喰ってやるからよ」

 

 

 羅刹鳥は嘴を僕の左眼に近づけた。

 その時だ。

 

 

 「あ、あれっ、う……動けねぇ?」

 

 「影留めの術」

 

 「はぁ?」

 

 「火鳥くん、よく頑張りましたね」


 

 羅刹鳥の影に、錫杖が刺さっている。

 影留めの術で羅刹鳥の動きを封じることに成功したようだ。

 

 影留めの術。

 術者の身体や道具を相手の影に触れさせることで、相手の動きをその場所に止めることができる術だ。

 

 先輩からほんの数秒でいいので羅刹鳥を1箇所に止まらせるように言われていた。

 それができれば、影留の術を使い完全に敵の行動を封じることができるからだ。


 たしかに夜空を自由に飛び回る敵に対し、影留めの術を成功させることは難しかった。

 

 共同作戦か。

 悔しいが僕1人では羅刹鳥に勝てなかっただろう。

 

 やはり先輩は強い。

 

 僕は身体に刺さっている羽を焼失させて起き上がった。

 傷口は鳳凰の回復力でみるみる塞がっていく。


 先輩は羅刹鳥の影を踏み、錫杖を抜いて翼部分の影を錫杖の先端で切り裂いた。


 

 「グワアァァァー!痛てぇぇぇー!」


 

 羅刹鳥の翼部分から血が吹きあがった。

 

 

 「影写しの術です」

 

 

 影写しの術。

 相手の影を攻撃することで、相手の本体にダメージを写すことができる術。


 

 「火鳥くん。本意では無いでしょうが彼の動きを完全に封じました」

 

 

 翼に大きな切口ができて激しい出血がみえる。

 羅刹鳥はもう空を飛び回ることはできそうにない。

 

 

 「仇をどうぞ」


 

 僕は右手に渾身の炎を宿した。

 イメージは全てを焼き尽くす炎だ。

 逆巻く炎を手にして僕は羅刹鳥にゆっくり近づいた。

 

 

 「まっ待てい、俺を殺せば百目様が動くぞ。我々との大戦争が始まるぞ。いいのか?」

 

 「……」

 

 「お前せいで大量の人間や仲間の化け物が死ぬことになるのだぞ!」

 

 「…………」

 

 「百目が動くぞ!百目が動けばお前らなんぞ……」


 

 僕は羅刹鳥がしゃべれないように嘴を炎の手で握りしめた。


 

 「人殺しといて助かりたいって……人間を舐めすぎだ」

 

 「待て!落ち着け!そうだ、百目と戦うなら手を貸そう!」

 

 「もういい……お前はここで燃えて逝け……」

 

 

 そう言い終わると瞬間発火を起したように羅刹鳥は爆炎に包まれた。

 嘴を掴まれ叫ぶことも許されず、羅刹鳥は炭クズに変わった。



 僕はようやく母さんの仇を果たせたのだ。



 ――――――


 

 先輩は僕の横に並ぶように立ち、焼け焦げた灰の山を眺めた。

 

 

 「目的は達成といったところでしょうか」

 

 「はい。先輩、本当にありがとうございました」

 

 「いえ、お手伝いができて良かったです」


 

 しばらくすると灰の山は風に吹き上げられるように消えて行く。

 


 「さぁ、氷花のもとへ向かいましょうか。彼女もこちらへ向かっています」

 

 「はい」


 

 僕たちは氷花さんのもとへ行こうと踵を返した。

 その時、消え行く灰の中から羅刹鳥の額にあった大きな丸い目が、焦げながらも鈍く光っていることに気付いた。


 

 「不愉快千万だ……」


 

 その言葉が聞こえると同時に、焼け朽ちかけた大きな目から百目が飛び出し現れた。

 

 

 「百目!?」

 

 「奴が百目!」


 

 百目は床に膝を着きながら僕達を睨みつけた。

 

 

 「牛頭馬頭もやられた?どうなっているのです、彼らは地獄の門番ですよ……」

 

 「喧嘩を売った相手が悪かったのですよ。あなた、土蜘蛛と接触してきましたね?」

 

 「!」

 

 「なんとか逃げ切ってきたという感じですね」

 

 「黙れ!とんだ誤算だ。お前らごときに私がぁあ!」

 

 

 百目は殺意を全開に見せつけた。

 憤怒、憎悪を僕たちに向けて放っている。

 わかる、こいつは強い。

 羅刹鳥とはレベルが違う強さを持っている。

 

 危険な強さだ。


 全身の目から噴き出している威圧感。

 傷を負っている状態でもこの圧力。


 

 「火鳥くん避けて!」


 

 気を抜いていた。

 妖力を抑え、さとりの眼を閉眼していたから反応に遅れがあった。

 百目の手から発せられた稲妻が僕を襲った。


 

 「火鳥くん!」

 

 

 先輩が叫んだと同時に、稲妻が直撃した。

 

 

 「!」

 

 「やれやれ、油断大敵だよ。バックには百目がいるって知ってたんだからさ」


 

 狐火が壁のように広がり僕を守ってくれている。

 

 

 「女狐か!」


 

 ゆっくりと歩きながら氷花さんが僕たちの元へやってきた。

 

 

 「氷花さん」

 

 「鳥の方は片付いたんだろう?」

 

 「はい」

 

 「それじゃ、こいつも片付けて早く帰ろうじゃないか」


 

 氷花さんは僕の横へ立ち、そっと背中に手を置いてくれた。


 

 「さぁ、行くよ」

 

 「はい」


 

 3人が揃い、今から最後の戦いが始まる。


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