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第18.5話 閑話 秘密の女子会~おっさん攻略は難攻不落~

 その日の夕暮れ時、サルーテ村のとある一室……リリアの家の居間には、珍しい顔ぶれが集まっていた。

 村娘のリリア、行商人のセーラ、そして、森から来たエルフのシルフィ。

 三人の目的はただ一つ。

 最近、この村で(いろんな意味で)話題の中心となっている男、コースケについての情報交換と、今後の対策(?)会議である。

 テーブルの上には、リリアが淹れたハーブティーと、セーラが持ってきた町のお菓子が並べられている。


「はぁ……それでね、この前もコースケさん、私が差し入れを持って行ったら、『そんなに気を遣わないでください』って、すごく申し訳なさそうな顔をするのよ……」


 最初に口火を切ったのはリリアだった。

 彼女は、頬を赤らめながらも、どこか困ったようにため息をつく。


「私の気持ち、全然気づいてくれてないみたいで……。どうしたら、コースケさんは分かってくれるのかなぁ……」

「あらあら、リリアちゃんも大変ねぇ」


 セーラが、面白そうに相槌を打つ。


「ま、あの朴念仁には、普通のやり方じゃ通じないわよ? あれだけ毎日甲斐甲斐しく世話を焼いてるのに、ただの親切な村娘としか思ってないんだから」

「うぅ……やっぱり、そう思いますか?」

「間違いないわね。あの人、自分のことになると驚くほど鈍感なんだもの。……かと思えば、商売の話になると妙に鋭かったりするんだけど」


 セーラは、以前コースケが元営業マンのような的確なアドバイスをしてきたことを思い出し、小さく笑う。


「でも、セーラさんだって、コースケさんのこと、からかってばっかりじゃないですか!」


 リリアが少しむくれたように言う。


「あら、あれは愛情表現よ、愛情表現。……まあ、本人は冗談としか受け取ってないみたいだけど」


 セーラはやれやれと肩をすくめる。


 二人の会話を、シルフィは黙って聞いていた。

 彼女はテーブルの上のハーブティーを静かに飲んでいるだけだったが、リリアが尋ねる。


「シルフィさんは……どう思いますか? コースケさんのこと」


 シルフィはゆっくりと顔を上げ、翡翠のような瞳で二人を見た。


「……あの人の畑は、心地よい」


 ぽつりと、いつものように短い言葉で答える。


「畑が?」

「……空気が、綺麗。……力が、満ちている。……あの人は、大地と話せるのかもしれない」

「大地と話せる……?」


 リリアとセーラは顔を見合わせる。

 シルフィの言葉は、いつも詩的で、真意を掴みかねることが多い。


「まあ、確かに、あの人の作る野菜は普通じゃないし、畑には不思議な力があるのかもねぇ」


 セーラが腕を組む。


「でも、問題はそこじゃないのよ。問題は、コースケさん本人の自己評価の低さ! あれが全ての原因だわ!」

「自己評価……」


「そう!『自分なんてただのおっさんだ』『人に迷惑ばかりかけてる』って、本気で思い込んでるんだから。そんな状態で、私たちがいくら好意を向けても、『自分なんかに好意を持つはずがない』って、勝手にフィルターかけちゃうのよ」


 セーラの指摘に、リリアもシルフィも(無言だが)頷いているように見えた。

 まさにその通りなのだ。


「じゃあ、どうすれば……」


 リリアが不安そうに尋ねる。


「だから言ったでしょ? もっと大胆にいかないと! 例えば、いきなり抱きついちゃうとか!」

「だ、抱きつく!?」


 リリアが顔を真っ赤にする。


「ふふ、冗談よ。まあ、まずは、彼にもっと自信を持ってもらうことからかしらねぇ……」

「自信、ですか……」

「でも、どうやって?」


 三人はうーんと唸り込む。

 あの自己肯定感の低いおっさんに、自信を持たせる方法。

 それは、とてつもなく難易度の高いミッションのように思えた。


 結局、その日の女子会(?)では、具体的な「コースケ攻略法」は見つからなかった。


「はぁ……やっぱり、コースケさん(あの朴念仁)は難攻不落ね……」


 セーラがため息をつき、リリアも力なく頷く。

 シルフィは、黙って窓の外、コースケの畑があるであろう方向を見つめていた。


 彼女たちの奮闘(?)は、まだまだ始まったばかり。

 鈍感おっさん農夫を巡る、三者三様の想いは、秋の夜空の下で静かに交錯していた。

 本人は、そんなことが話し合われているとは夢にも知らずに……。


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