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彼は宇宙病患者  作者: ののの
アーサー伝説 2
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9 ERSAar『アーサー』


 異変が起こったのはマニカを送ったあと、彼が1人でいる時だった。1人の時はいつも虚空に話しかけているので彼は周囲から遠巻きにされている。彼としてもお姉様との会話を邪魔されたくも無い様子で、その状況を好ましく思ってすらいて。

 マニカとのお姉様の話題はそれなり建設的だった。お姉様が最上位の彼にとって、お姉様のことを気兼ねなく話せる同志ができたと喜んでいるのだ。マニカにとってみれば終着点はお姉様の話ではないのだが、彼にとってみればそんな存在ができたことが嬉しかった。


 そんなことを中空と会話しているとき何かぶつかってきた。彼はよろけながらも体勢を整えて振り返ると、そこには水に濡れた小動物のようなものが転がっていた。

 瞬間、彼の頭に先ほどのニュースがよみがえる。


「そういえばここは19番と近かったな」


 彼の頭に響くのは何かあったのかと尋ねる姉の声。


「いやこっちの話」

  

 そっけなく姉に対して返答した彼はその小動物のようなものに近づいて掴み上げる。毛むくじゃらの蜘蛛のような生物の死体だった。

 適当に調べたあと、彼は蜘蛛を掴む手の平から薄青い燐光がほとばしる。夜の暗闇にぽうっと小さな光が生まれ出て、それはまるで手品師の扱う火術のような光景だった。


 次の瞬間には塵となった蜘蛛が彼の手から風で舞い上がっていく。そして彼はそんな蜘蛛の最期に見向きもせずに手を振って汚れを払ってしまう。


 何かあったでしょ?と彼の頭に訝しむ声が響く。


「羽虫を潰しただけだよ、お姉様との会話を邪魔されたくないからさ」


 ただ道端の小石につまずいただけのような、特に何も無かったといった雰囲気で、彼は平然と帰路と戻る。やはりそこにはいつもと変わらぬ静粛な道があるだけだった。


◆◆◆


 翌朝、彼が出勤してくると事務所に入ったすぐマニカに呼び止められた。いつも話しかけてくるものの今日は様子が違って、何故だか心配しているような表情であった。


「先輩!あのあと大丈夫でしたか!?」

「……ええと、何かあったのかな」

「警報が出ていたんですって!先輩の帰り道の方に未知の生物が逃亡しているって!」


 マニカの言うような警報を彼は気が付かなかった。何故ならそれ以上に大切なお姉様がいたからだが、そういう心情も他人に伝えない個人主義者が彼なのだ。当然、昨夜の事をマニカと話し、会話を広げようともしないのも彼の性格だ。


「ああ、そんなやつには出会わなかったよ」


 そう軽く言う彼の表情を見てマニカはほっと胸を撫で下ろし、自分のデスクへと向かった。マニカを見送る彼の頭によぎる昨日の蜘蛛の死体は、確かに奇妙なものだった。

 しばらく彼は考えこんでいるとひとつの仮説にたどり着いた。


「なるほど、あれは餌だったか」


 彼はそう納得すると自らも席について、思いついた仮説の整合性を測るため昨日のニュースの情報を集めだした。近くに座るマニカは、彼がインターフェースをいじり始めたのを見て自分も仕事の準備に取り掛かるのだった。


◆◆◆


 彼はルーチンワークのようにマニカを送り届けたあと、昨日の蜘蛛を見つけた小道にやってきていた。眩しくないように調整された、青白いライトで照らされている昨日と全く変わらない道路だ。

 彼は姉との会話を一旦やめて、昨日、蜘蛛を掴み上げたその地点にやってきた。そしてその時、右方向から何かが射出される音がした。その数瞬あとべちゃりと濡れた音がして、彼は得心がいった顔をする。


「懐かしいなこの感覚。腹の底が毛羽立つような感覚」


 そう言って彼はすぐ後方に飛ぶ。その瞬間、先ほどまで彼がいた場所に、照明に晒されながらも暗く黒ずんだ巨体が飛びかかる。高さ3メートルほどの丸みを帯びた巨大な生物で、その体は水で濡れている。


「ギシィィイイイッ!」


 その生物が金切り声を上げながら巨体を揺らして地響きを鳴らす。大きな体躯が手伝って道路が割れて周囲まで地割れを起こすほどだった。


「銀河超獣…。前大戦の時に地球侵略してきたエーオース人特製の人工生物」


 そう彼が分析している間に、目の前の銀河超獣と呼ばれた生物が彼を捕捉する。ほのかに赤く光る目を彼に向け、狼のような口からは呼吸を荒くして彼を標的と見ているのは間違いないようだ。

 しかしながら彼は気怠げに直立したまま動かない。凶悪を具現化したような怪物に相対しているにも関わらず、まるで意に介さない雰囲気である。


「グギギィ……。ギグァアア!!」


 先に動いたのは銀河超獣であった。相変わらずの正面からまっすぐ彼に飛びかかる。丸く身体を包んで隠蔽していた4本の腕を解放し、彼の四肢を封じようと腕を伸ばす。獣の貌をそのままに目は鋭く、口は雄叫びをあげて彼に殺到していく。

 あわや掴み取られようとした瞬間、彼の全身から燐光が輝いた。その光に触れた銀河超獣の腕は焼け、またたく間に灰になった。


「一応、僕もアーサーだ。それにこの19番道路はまたの名をラー・ルフ、僕の弟の名を冠する場所を傷つけた事は万死に値する。これから僕に消し去られることを大いに感謝しろ」


 そう言い捨てた彼は右手を銀河超獣に向ける。先ほど全身から爆ぜた燐光が彼を取り巻き、彼の右腕へと吸収されていく。光が溜まっていくほどに、プラズマによって強熱になり周辺の景色がねじれ歪んでいく。薄青の光るエネルギーは彼の手のひらへと集約した。


「アルカービーム」


 事務的に呟かれた言葉を皮切りに極大の指向性ビームが目の前の銀河超獣に丸ごと押し寄せる。薄青い光の塊に銀河超獣の全身は包まれ、触れた部分からはらはらと崩れ去っていった。彼はその現象に何も感情はないようだ。崩れ去る様をただただ観察している。

 彼が照射を止めて手を下ろすと、目の前の生物は完全に消し去られていた。空間ごと蒸発した銀河超獣の代わりに、そこに流れ込む空気が風となって彼の髪を撫でただけだった。


◆◆◆


「お姉様、銀河超獣が来たよ」

「うん、でも大丈夫。僕ならすぐさ」

「あはは!…それは心強いね。役目は果たす、それが僕の生まれた意味だから」


 夜空を見上げて彼は独り言を呟く。普通なら返ってくるはずのない返事に彼は一喜一憂できる。


「お姉様が愛した地球を守る。それが僕、それが地球を救ったアンドロイド、ERSAar(アーサー)なのだから」

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