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彼は宇宙病患者  作者: ののの
アーサー伝説 2
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8 打ち上げと歩み寄り


 繁華街の一角。8階建のビルの1階にある『すつぐり』という飲食店にウユカヤ復興資料館の11人の姿があった。以前、各地の小学校が来館したタイムトラベルツアーの打ち上げが開催されているようだ。


「乾杯!」

「かんぱ〜い!」

「お疲れ様でしたー!!」


 実は1校だけでなく、あの後4校と各々6年分が立て続けにツアーに来たとあって意外とバタバタしていたのだ。エーオース会戦だけでなく、地球圏惑星旅行、外宇宙探査、などと趣向を変えてVRツアーを企画した。


「今回はアテルイくんとヘスポロスくん、少しだけどマニカちゃんもだね。新しい企画も全部上手くいって良かったね」

「えへへ〜、ありがとうございます」


 彼が今回の立役者、企画を務めあげた3人をたたえた。

 やりすぎると次年度が大変なのだが、企画担当者が楽しんでやっていることに注意するほど彼も野暮な上司ではなかった。

 

「来年はマニカも一線に張ってもらえるんじゃない?」


 そう言ったのはアテルイだ。マニカとアテルイは今年に就職したルーキーで、慣れないながらもこの繁忙期を支えていた。

 マニカはともかくアテルイは力自慢と言うこともあって若さに任せて随分走り回っていた。


 そんな打ち上げも1時間を過ぎてくると、お開きの雰囲気が出てくる。明日から3日間の連休を与えられ疲れた体を休めさせるために早めに終わらせようと彼が中締めをする。

 そんな頃だ、彼が自分のスマートデバイスを操作しているときに速報ニュースが入ってきた。『19番道路に正体不明生物の死骸発見』と、そのような内容だった。


「皆さん、帰り道が19番方面って誰かいた?」

「僕は違います」

「私も〜。あ、でもマニカがそうですよ?」


 会計を終わらせに立ち上がった彼が、ついでに帰り道を確認した。職員の皆の反応から「そういえば」なんて彼が呟く。その彼の声を聞いたマニカが自身の帰り道を思考しながら彼に返答する。


「19番ってけっこう辺鄙(へんぴ)な所じゃないですっけ?たまに通りますよね」


 マニカがアルコールで少し上気した頬を右手で覆って、そんなことを言う。


「確かに気をつけるには越したことはないか…」


 マニカの様子を見て逡巡する彼。


「あ、そうだ。次長、すんませんけど送ってやってもらえませんか?」


 もう1人、マニカの様子を見て、得意げにしているのはこの提案をしたアテルイ。実は以前、同期のよしみでマニカが彼に片想いしているのを相談されていた事もあるので、その恋を応援しているのだ。


「ああ、そのつもりだ。君達も気をつけて。ほらマニカちゃん行くよ」

「ええ!いいんですか?…やったやった」


 彼としてもそんなアテルイの心情やマニカの恋慕など知らずとも共に帰るくらいの正義感はあった。即答した彼を見て、少し期待するくらいにはマニカも女の子だった。


「お疲れ様でした、また〜」

「うん。ゆっくり休んでね」


 ニュースの事もありさっさと会計を済ませてから、帰り支度をして店前で別れる11人。そしてその集団から少し離れた場所で顔を寄せて何かを話しているアテルイとマニカがいた。


「マニカ!しっかりな!」

「ありがと!」


 そんな2人を見て他の何人かは微笑ましくわけ知り顔をしていたのは何故だろうか。


◆◆◆


 いつも勤務先から帰る時とは違い、少しインフォーマルな雰囲気のエッセンスを感じる帰り道。ニュースの詳細を調べる彼の画面をタップする指先から情報を精査する鋭い瞳は、まるで人を怪しく惹きつけようというような引力を感じさせる。

 そんな彼を横目に見ながら、マニカはここぞとばかりに話を切り出す。


「まさか先輩から誘ってもらえるなんて、どうしちゃったんでしょう…」

「…仕方ないだろ。何か不穏な感じがするからさ」


 彼の言葉に嘘はない。実際そういうことが報道されているし、女性1人だと危険と判断したからだ。それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 マニカはアテルイに背中を押されてきたのも拍車がかかって、今日は少し前のめりになっている。


「ふぅ〜ん。てっきり…、いえなんでもないですケド〜」

「マニカちゃん、けっこう物好きだよね」


 そう言う彼は諦めたかのような呆れたような笑みをマニカに向けている。片想いされているであろう事は知っているのだがそれに応えてきた事はない。こんな馬耳東風な態度を取っていてもなお喰らい付いてくるマニカに意外と感心しているのかもしれない。


「先輩、私のことどれくらい知ってますか?」

「君のことは、実はあんまり分からないな。住んでる家と働いてる場所くらいなものだ」


 マニカはまず現状を確認する。いつも自分が話しているから彼の返答は想定内だったが少し悲しみも感じ少ししょげてしまう。だがそんなことでへこたれる女ではないのだ。以前からずっと考えている彼に対する想いを言葉にしながら伝えていく。


「でも私は先輩のこととーっても知ってますよ!好きなモノとか、クセとか、仕草とか」

「僕の好きなモノ…?」


 彼の考えごとをしている姿を見て、ぽぅっとした顔で見惚れているマニカ。仕草ひとつでも人の目を寄せ付ける魅力は彼にあるのは確かだ。そんなことを思いながら、今まで目を背けていた自分の考えをついに彼にぶつける。


「お姉さんが大好きだってこと!」


 マニカは彼にそう伝えた。マニカとしてもあまり整理のついていない事だったが、彼を理解する上ではこの事実は避けて通れない。


「ああ、それは確かにそうだね」


 実際に彼もお姉様が一番大切だと感じている。大好きとか愛しているとかそういう物を超えた気持ちを彼は自分の姉に持っている。常に彼の頭にはお姉様がいる、この事実はいつまでも変わらない。


「私、ちょっと嫉妬してるんです。先輩の頭の中はいっつもお姉さんで埋め尽くされて。…逆に踏み込んでやれってそう思ってるんです。……だから、教えてください、お姉さんのこと!」


 やはりそんな彼を理解するにはお姉様こそが取っ掛かりと、言葉にしながら考えたマニカは彼に一歩踏み込む。実は避けてきたこの事実こそが彼を彼たらしめる根本なのだった。


「…やっぱり君は物好きだ。まあいいよ、教えてあげても」


 マニカが彼の一言に喜んだのは言うまでもない。結局、彼らはニュースの影響でいつも帰るルートを遠回りして、いつも以上に会話を重ねて、多分少し仲良くなったのだった。

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