6 月白色の英雄
コアを摘出したあと動かない銀河超獣から離脱してエトワルから来た迎えの救助船に乗って一旦帰ってきていた。しかし道中で不思議な光景を4人の英雄達は目撃することとなった。
銀河超獣の亡骸はコアを取ると自壊しくというものだ。砂やあるいは塵となって火星の風に消えていく。
「教本で学んではいたが、本当に跡を残さないのか」
銀河超獣の戦いの後始末は実のところこうだ。自壊して粒子となっていく光景を目の当たりにすると、対峙したのが普通の生物ではないなにか超次元生命体だと思わせる。初めて見るメリンをはじめ、ルキ、エルネスト、トーワにはやはり異様だと感じるのだろう。
帰ってきたあと、ジャーグ・ドゥーの格納庫と繋がっているラウンジで休憩しながら話をするくらいには疑問を持っていた。
「たしかにこれは実際に見てみないと信じがたすぎるよな。教官も教本も戦い方のことばかりで、どうしてもこの事実が受け入れられなくていつもミスってたよ」
エトワルに帰投した後、自分達のアリヴァナの戦闘記録を確認していた月白部隊。実際の映像と自分の経験を照らし合わしているのはエルネストだ。エルネストの言葉には周りの3人も同意なのか頷いている。
「たしか大気圏突入の時も変なのがあったよな。加熱されて青色に光って、それが…」
「青方燐光。銀河超獣の大気圏再突入で高エネルギーの気体プラズマにより空気中の窒素が青く光る現象よ。最初は赤いけど段々と青くなるから昔は目視でも銀河超獣を観測してたっぽいわね」
エルネストにそう指摘したのはトーワ。トーワの座学は上の中、指摘されたエルネストは感心したのか口を開けて何回か頷いている。
「やっぱ座学出来るやつは違うな!」
「あなたが出来なさ過ぎなのよ」
「確かにそうだけどよー。…たすけてルキ〜」
エルネストは隣にいた同じく映像を見ているルキにもたれかかる。ルキはそれをどうにかしようとしないようだ。
「まあトーワ。エルはどっちかっていうと実技の方が良いんだから」
「コイツに甘すぎよ。幼馴染だからって擁護的になりすぎるのもエルネストのためにならないと思うわ」
「……ふぇ〜ん、ルキ〜」
メリンは3人がお互いをからかいあっているのを少し考えごとをしながら見ていた。
(後始末に時間を取られないのは良いことなんだろうが、そもそも生物としてありえるのだろうか)
彼の胸中ではそんな疑問が渦巻いていた。そんなメリンのスマートウォッチに着信が入ったようだ。送信主はこのエトワルの通信士。常駐する上級士官、主に訓練生の教育を統括する教官長の部屋への呼び出し命令だ。
「ん?…すまん、教官長から呼び出しだ」
「教官長!?…随分とお偉いさんから。まさかお褒めのお言葉をたまわるんじゃねーかぁ?」
「はは、まあそうかも知れんな。じゃあ行くぞみんな」
メリンの呼び掛けに他の3人も頷いて、今回の反省をほどほどにラウンジをあとにした。
◆◆◆
エトワルは遠心力で擬似重力を生み出している基地だ。大体、直下の火星と同じくらいの重力を作り出しているので、床を蹴ったりすることで推進力が生まれ1歩で数メートル先まで進める。これを繰り返すのは物理的にかなり速度を得る反面、減速できないので非常に危険でもある。そういう事もあって壁面にレールをつけたリニアグリップと呼ばれるものを持ち移動する。
今から600年ほども前のこと、第2族アルカリ土類金属元素の170番、オルビタリウムの発見により常温常圧でのマイスナー効果が再現可能となった。元々は高圧下での発見だったが、長年の研究開発の末、超重元素の非安定性は解消され今では軍事部門を中心に実用化がされている。
リニアグリップは微弱に帯電していて、握ると静電気を感知して壁内の電磁石が起動しグリップが時速10km/hで発射されるのだ。訓練された人間なら腕を痛める事もないだろうが、一般に使われるのはまだ先の事なのかもしれない。
メリン達はリニアグリップを操作して教官長から呼び出された部屋の角まで来ると、グリップを離して廊下に降りた。
「みんな、襟を正せよ。粗相のないように」
メリンは後ろから続いてきている他の3人へ声を掛けた。エルネストは裾とボタンを直し少し慌てている。背後に回ったルキがエルネストの制服の肩をつまんでピンと張ったのを見て、メリンは安心したのか頷いた。
一行が角を曲がると目的の部屋の前にある人物が立っているのを見た。
「きょ、教官長!」
「うむ。月白の者達だな」
メリン達が動揺したのは無理もない。教官長直々の出迎えだったからだ。まだ若い彼らにも分かる。普通このような上級士官がただの訓練生あがりの新人を待つはずがないと。
「中で大佐殿がお待ちだ」
教官長がさらりと言ったことはメリン達に更なる衝撃を与えた。訓練校を卒業した軍人は少尉を得る。その先が2種の尉官、そしてさらに上に3種の佐官がある。ひとつの階級を上がるのに選考試験と勤務実績が必要で、さらに佐官の頂点の大佐ともなると特に優秀で、それこそ彼らがいるエトワルという基地の最高責任者とも言える存在だ。
「まあそう緊張するな。おそらくお褒めの言葉を頂けるのだろう。初陣を勝利で飾った有望な新人だからな」
そう言うと、教官長はメリンの背中をポンと叩いて緊張感を和らげようとするものの、残念ながらそれも意味を成し得なかっただろう。またその緊張を隠そうとしない若者達にむしろ微笑ましさを感じながら教官長は部屋の扉を開けた。
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