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彼は宇宙病患者  作者: ののの
兇状流れ、力と咎 1
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5 ジャーグ・ドゥー

 暗い宇宙空間に赤い大地を持つ火星がある。上空からでも銀河超獣の蹂躙は雲がかかってもなお見えている。この視点で見ているのは4機の白色の巨大人型機動兵器だ。


「初の任務が銀河超獣の迎撃だと誰が想像しただろうか」


 金髪金眼の美青年、メリンが眼下に見える巨大生物をモニター越しに見てつぶやいた。

 エトワルという火星周回軌道の補給基地を拠点に機動兵器(ジャーグ・ドゥー)アリヴァナの訓練をしていた彼らに実戦任務が与えられた。それはそれは正式な命令でとても冗談とは思えないのも彼らにプレッシャーを与えている。


「そだな。今一番ペーペーな俺らにこんな命令が来るなんて疑いもするよな。なあルキ」

「うむ、俺達のジャーグ・ドゥー、アリヴァナなら一刀のもとに斬り伏せてみせよとの事だろうな」


 軽く冗談混じりでメリンに返すのはエルネストとルキだ。唐突な大仕事に対しての緊張を和らげようとしているのだ。


「……火星は綺麗だから好きなの、あんな怪物に良いようにされるのは嫌だな」

 

 銀河超獣に対して明確な嫌悪感を示したのはこの4機のパイロットの中で唯一の女性、トーワだ。肩ほどまである髪を後ろで束ねている眼鏡が似合う理知的な女性だ。

 

「本部からは関節を狙え、との指示だ。当該銀河超獣には六肢全てに5つの関節があるみたいだがどれからやるんだ?」


 作戦概要の更に深いところを理解しようと質問するのはエルネスト。意外と真面目なところもある青年のようだ。


「脚一本を無力化したところで気を立たせるだけだろう。二方向からの攻撃で2本の脚を切り落とす。まず突入形態のまま当該銀河超獣に攻撃、それをエルネストとルキに頼む。そしてヤツの正面へ周り陽動、トーワと俺が追撃する。それで行こう」

「了解した」

「うむ、行こうか!」

「…行きましょ」


 こうして弱冠19歳の彼らにコーララの命運は託された。月白(つきしろ)とコードネームが付けられた部隊、その初任務が始まった。


◆◆◆


 地球と比べると重力は3分の1ほどの火星、地表まで到達にかかる時間も3倍ということだ。さらに今のマニファクチュアが発展したここは既に濃い大気が存在していて大気圏外から侵入する時は減速してしまう。更に更に火星など重力が弱い天体の大気圏は層が厚くなることもあり、緊急時などはむしろ加速しながら突入する。

 大気圏に突入する時の熱上昇も計り知れないので、アリヴァナは機体に先が尖った円錐のような箒型のアクセルアーマーという物を装着して突入する。先端加熱と加速から温度は数千℃にはなるがマルシウム超鋼で出来たジャーグ・ドゥーはその程度で焦げすら付かない。


 これによって大幅に時間短縮され、かつ加速した大質量の一撃が生まれるので先制攻撃に適しているのだ。さながら天から降る流星のように。


「目標を視認」


 エトワルから出撃し、ここまで1分もかからず銀河超獣に接近した4機。うち2機はエアブレーキを使って減速し別動隊となる。もう一方の加速を続ける2機は銀河超獣を目掛けて突き進んでゆく。

 上空からアリヴァナが接近しているなど何も知らずに、今も銀河超獣は侵攻を止める事なく街を悠々に破壊している。


「エル!このままヤツに体当たりする!」

「分かった!」


 ルキとエルネストが目指しているのは銀河超獣の胴体部だ。命中させにくい細い足より確実だというのだ。ちょうどアクセルアーマーの先端が尖っているので刺突するのに最適だった。

 2人が合図を交わした次の瞬間には銀河超獣に激突した。


 通常の火器では大した損傷も与えられないのにマルシウム超鋼は有効打撃を与えられるのだ。

 胴体に直撃したところから発光する青色の鮮血があがった。赤熱し超高速で激突した2機はまさに流星のようで、銀河超獣の体液と混ざってここが戦闘区域でなければ美しい光景だったかも知れない。

 結果としては、一つは胴体に突き刺さって、しかしもう一つは弾きかえされている。


「エル!」


 突き刺さった方はルキだ。相当な衝撃だったはずなのだが相棒が弾かれたのを視認したのにすぐ反応する。アクセルアーマーは衝撃と同時に分離しているのでルキはエルネストのアリヴァナを心配して動き出そうとする。

 そんな一瞬の悶着もあったが突然攻撃された銀河超獣も身を捩って自身が攻撃されたと理解したようだ。青色のどろりとした体液がどくどくと流れ出ているのが痛々しくもある。


「大丈夫!一旦分離してコイツにとりつく!俺のアリーヴァなら、それに…」


 攻撃された銀河超獣は当然、ルキとエルネストの両者にしか注意を向けなかった。自身を支える六本の足のうちの2本を振り回して、胴体に攻撃してきた者達を払いのけようとしてきていた。


 彼が搭乗するアリヴァナは12メートルほどの体躯を持った機動兵器で、この銀河超獣全長2キロメートルもなる巨大生物。エルネストは体格差を活かしてなんとか潜り込んでいた。

 ザトウムシ型というだけで眼球はついている。10はあろうかという眼がギョロリと胴体部にいる彼らを視認して、脚を使って2機に攻撃を仕掛けてきた。


 銀河超獣からの攻撃をなんとか潜り抜けたエルネストは、帯剣していた実体剣ダンビラを銀河超獣に突き立てて機体を支える。このダンビラもマルシウム超鋼製なので銀河超獣の体表など問題なく切り裂いた。

 銀河超獣が一瞬攻撃の止めるような素振りをする。アクセルアーマーとダンビラによるダメージが堪えているのだ。


「メリン!」

「トーワ!」


 エルネストとルキが銀河超獣の様子を見て、別動隊になっていた2人の名前を叫ぶ。それと同時に銀河超獣の後ろ側の2本の足が斬り飛ばされた。周辺に着地したメリンとトーワが、意識の外から近づいて有効打を与えたのだ。


「よくやった!ルキ!エルネスト!」


 エルネストとルキの位置からは青色の鮮血に塗れた巨人を見た。それはまさに救世主の姿だ。

 ただ彼らは共通して同じ思いを抱いていただろう。


「意外と攻撃通るのか…?」

「かも知れん!」


 月白(つきしろ)の部隊は異例の初任務ということもあって、必要以上に緊張して必要以上に銀河超獣を買い被っていた。実のところ、対銀河超獣に特化したジャーグ・ドゥーという兵器は銀河超獣の天敵となる。


「関節がどうとか関係ないかも…」


 メリンと共に銀河超獣の胴体に着地したトーワがダンビラを横薙ぎに振るう。するとどうだろう、胴体の体表が裂け、足との接続部ごと切り飛ばした。

 それを間近で見た他の3人は早かった。まず足の接続を全て断ちだるま(・・・)にしたのだ。銀河超獣は足を全て切られ地面でビクビクと脈動しながら無惨に横たわっている。


「確かコアが体内にあるのだったな」


 メリンはついこの前まで訓練校で学んでいた講義内容を思い出しながら、銀河超獣の胴体の中心部にダンビラを刺す。やはり特に抵抗もなく掘削出来て、しばらくして硬い何かに到達した。それは鈍く発光している青い宝石のようだった。

 アリーヴァの手ずから切除した直径5メートルほどの球体、それをメリンが取り出した。


「綺麗ね」


 ぽつりとトーワがつぶやいた。ルキとエルネストもそれに同意し、またそれを聞いたメリンはまるでトロフィーのように掲げ、彼らは初任務を完遂を祝ったのだ。

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