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彼は宇宙病患者  作者: ののの
兇状流れ、力と咎 1
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4 敵性存在『銀河超獣』

視点が変わります。

 赤い空、赤い大地。太陽系第四惑星の火星は、今では有数の観光地として人気を博している。主な都市は温暖化され10℃から20℃くらいを推移し大気は人工的に作られて、人間が行き交う領域は非常に暮らしやすくなった。星全体を温めている訳ではないので温暖化コストは極めて現実的で、多種多様な職業が参入して活気づいている。


 ここ、火星第二の都市であるコーララ市も初期の開発から観光都市として成功していた。しかし今日はいつもと雰囲気が違っている。道路を走る車両もなければ景色を散策する観光客も見当たらない。砂風巻(すなしまき)が起こる前のように、商店は防風シャッターを閉めているし電子標識は『DANGER』の文字を映していて、いかにもナニカあって避難した様相だと見て取れた。


 この有り様を作り出した原因は敵性存在『銀河超獣』の侵入の警報があったからだ。避難訓練でも経験し得ない馬鹿に鳴り響く警報音を聞いた観光客と住人は一目散に防爆シェルターへと避難したので、今や人っこ一人いないのだ。

 くだんの銀河超獣はと言うと、先の警報で無人になった街々を破壊し回っている。ひと足動かすと十の家屋がひしゃげ風圧で地面がめくりあげられる。

 この銀河超獣はザトウムシのような胴体部から六本の脚が体を支えている。胴体部の高さが地上から50メートルほどにあるのでひとつの脚の長さは1キロメートルほどあるだろうか。大木のようなひと足が容赦なく振り下ろされて瞬間で建物が木っ端微塵に吹き飛ぶ。この巨大生物に残念ながら人類は太刀打ちできない。大人しくシェルターの中から脅威を過ぎ去るのを待つしかない。


 ただ人類に対抗手段がない訳でもない。かつて銀河超獣との大戦争を乗り越えた人類にはまだジャーグ・ドゥーと呼ばれる機動兵器があった。

 現在の太陽系は統一されて地球を中心とする単一国家になっている。今では系外惑星にまで手を出そうとしているこの国家は地球圏平和維持機構──通称WAM、ワム──に管理される形で平和に暮らしている。

 しかしそれも順風満帆だったわけでなく、いつの時代からか銀河超獣という敵性存在に目をつけられた。これは宇宙開発に躍起になった地球人類がどこぞ蜂の巣をつついて、その時の皺寄せが今でも続いているという事なのかも知れない。

 不運にもコーララはその標的にされてしまったのだ。


◆◆◆


「どこから来たんだ!」


 ここは太陽統一軍火星方面基地コーララ駐屯地の軍務室。ある程度プライベート利用できる応接室に改造した部屋で壮年の男が報告者に向かって怒りを露わにした。怒号を発した男の名は、コーディエ・サクラウェル。33歳で少佐になるのは中々のエリートだが当初の期待より下振れたことで辺境に飛ばされてしまった男だ。自身に対する扱いにプライドを刺激され、部下に当たりが強いので人望すら下振れている。

 不機嫌を隠そうとしない上官に報告者は少し怯えを見せつつも現状を話す。


「現在コーララに銀河超獣が襲来し市街を蹂躙しております。市民は避難を開始しておりますが…」

「ならさっさと迎撃しろ!」

「指示が無かったもので」

「いつまで無能でいるつもりだ!…第一種戦闘配備だ!迎撃などといわず撃滅せよ!」


 檄を飛ばすとコーディエは報告者とともに司令室へと向かう。挨拶も早々に戦闘配備の旨が伝えられコーララにいる銀河超獣を捕捉した。


「衛生カメラ出せます」


 通信士の言葉にコーディエが頷くと正面のモニターに上空からの映像が映し出される。


「…デカいな」

「はい。周囲の市街から概算しますと、おそらく体高50メートル、1本の脚の長さは950メートルほどかと」


 当該銀河超獣は細長い脚を六肢持つザトウムシのような形だ。脚は中央の胴体部から延びているので不用意に近づいてしまうと軽く振り払われてしまうだろう。大きいだけでも驚異なのだ。


「まず市民の避難を最優先し、避難が完了し次第攻撃に移る」

「ハッ」


 コーディエの指示で司令室に緊張が走る。通信士は現場とのやり取りを密にし、観測官は歩容や図体から体の構造を探っていくというのだ。そのため分析のため、管制機が随時発進してゆく。

 またその発進を見送った先ほどの報告者はこの指令室を預かる作戦参謀で、腹心としてある事をコーディエに耳打ちをした。


「コーララ市長からご連絡が入っておりますが」


 その言にコーディエが訝しみつつ確認すると、通信端末に幾度もの着信がきていた。実はコーディエは防衛費などと建前で裏で親交を深め癒着をしていたのだ。こういう時にプライベート回線で抗議されてしまう情けなさが滲み出ているので部下からも信頼が薄いのかもしれない。


「仕事に戻れ、今はそんなことにかまけている場合か」

 

 しかしコーディエはそれを無かったことにした。小さい男だ。とはいえ今は銀河超獣の対応が今は急務。むしろその苛立ちを侵略者に向けている方が健全だろう。

 コーディエは不満を隠そうとしない顔で作戦参謀に話を振った。

 

「今動けるのは?」

「月白と、整備中ですが鶏冠石と群青も行けそうです」

「分からないか!緊急だ。月白に対応させろ」

「しかし、彼らはこの前卒業したばかりの…」

「構わないと言っている。卒業したのだろ、なら覚悟しているはずだ」

「…ハッ」


 作戦参謀は静かに肯定の意を示して、それを通信士に指示を出す。今の技術では銀河超獣に対抗し得る手段を戦闘機は有していない。巨大兵器ジャーグ・ドゥーこそがこの地球圏の守護者なのだ。


「やってもらわねばならん。こういう時の為のジャーグ・ドゥーなのだから」


 コーディエの呟きは司令室の誰かにかは聞こえていただろうが誰も反応した者はいなかった。コーララの危機は、弱冠19歳の若者達に任されたのだ。

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