3 タイムトラベルツアー
搬入と休憩が終わった正午過ぎ、子供達の一団がやってきた。近くの小学校の課外授業としてこの資料館が選ばれてもう何十年となる。それだけ現存する歴史資料というのは、未来から過去へのアプローチとして有用な教材なのだ。
「今日は今から2千年前の宇宙戦争を学んでいきますよ〜!」
50余名の小学生の集団に呼びかけているのはマニカで、ひとりひとりにゴーグルを手渡している。それはヘッドマウントディスプレイが小型化したもので、着けるだけで拡張現実が体験出来る。
「うわー!すごい!」
子供達がにわかに沸き立つ。どんなに時代が進んでも子供は戦いや兵器などに興味があるのだろう。それにゴーグル使用時には展示物が動いたり説明が浮き出たりして宇宙戦争をタイムトラベルしていくという、これまでの人生でとても体験し得ない衝撃が子供達を魅了する。
まずマニカが先導し子供達が続いていく。後続に教師陣、その後ろにジェイクとアミが最後尾をつとめる。始めは勃発の原因となった宇宙探査の展示があるエリアだ。当時の探査船や宇宙飛行士の展示物があり子供達に挨拶している。難しいことは理解できないので視覚的な情報で歓声があがる。
「みんな〜!これが昔の宇宙船です。昔はこれで月や火星や水星なんかの星に行ってたんです。乗組員は3人か4人で…ああちが…10人くらいで行ってたらしいです」
マニカの説明はどこかたどたどしい。案内は初めてではないし、どちらかといえばこういった事が好きなマニカだがどうにも知識不足だった。左耳につけているインカムから彼の訂正が入るので事なきを得ているのだ。
別の場所から指示を出している彼としても適材適所という意識は持っているので、社交性という点に置いてはマニカを評価していたりする。
ツアーの一行は、宇宙戦争真っ只中の地球を背景に両軍入り乱れる戦闘風景を体験していく。人類が獣や虫のような侵略生物と戦うシーンでは、小さく悲鳴を上げる子や人類を応援したりする子もいる。
「うおー!やっつけろー!」
「わたし蜘蛛苦手!」
実際に使われた兵器や戦闘のホログラムを間近で鑑賞するのは意外と勉強になる。子供達の中には、細部までじっくり見たり雰囲気を楽しんだりと様々だが、座学でするより情報量が多いし単純に記憶に残りやすい。
集団の後ろの方で、引率の教師がまだ少し緊張が抜けない顔で生徒達を見ている。彼らの思いとしては、楽しいを通じて学びを得て欲しいという感情と何事もなく無事に終えて欲しいという感情が混ざっているのだろうか。
「大丈夫ですよ。先生方。うちの職員は慣れてますから」
それを見かねたジェイクが声をかける。職員の中でも特に良い心遣いができる青年なのだった。
一行はさらに展示を進んで次なる部屋に入る。このエリアは、戦争の終結。勃発から終結までおおよそ30年の月日を要した有史以来初の宇宙戦争は地球側の勝利で終結した。多大な被害が出てしまったこの宇宙戦争は、後に夜明けや日の出を司る神から名をとって、エーオース会戦と呼ばれることとなった。
「うちにもアンドロイドいるけど、戦うかな?」
1人の子がそう呟いた。ぽつりと出た言葉だったが、この言葉に周りの子供達も反応する。
「学校にもいるけど、そんなふうにはみえないよね」
アンドロイドの登場から地球が優勢になるのがホログラムに映し出されている中、子供達は自分の経験から疑問を持ったり推測したりしている。
実際、エーオース会戦の終盤に台頭した戦闘アンドロイドがこの戦争の趨勢を決定づけたとされている。多くの人種が協力し地球が一丸となって侵略生物に対抗したエーオース会戦は、人類が生み出した新人類によって淘汰されたのだ。現在は平和なこともあってそういった機能はないのだが。
そんな子供達の反応を見てマニカが声をかける。
「実はそうなんです。今はもうこういう戦争をする人達もいないからアンドロイドも戦わなくなっちゃったの。でもみんながわるぅ〜いことしたら…どうなっちゃうかな〜」
マニカの気の利いたアドリブにインカムの向こうの彼も感嘆しながらタイムトラベルツアーは幕を閉じた。
◆◆◆
およそ2時間ほどのタイムトラベルツアーを終えて子供達は引率の大人達に連れられてロビーに集められた。子供達は思い思いに感想を言い合ったりしたりして感動を共有していた。
「みんな〜!また来てね!」
ツアーガイドだったマニカが子供達にそう言うと、子供達の顔がまた明るくなる。
「またきていいの!?」
「やったー!あのバトルのとこもっかい見たい!」
「僕もあのタンサ船ってやつ、もっと知りたいんだよー」
子供達が口々にそう反応するのを見て、ついに引率の教師が胸を撫で下ろす。エーオース会戦の最中に使われた小惑星型隕石爆弾の2つが、地球の衛生軌道に残ったという。今やそれこそが勝利の象徴だとして、新たにエーオースとアストライアと名付けられ、今日の地球を見守っている。まるで子供を見守る大人のように。
「また来年もよろしくです」
はしゃぐ子供達を尻目に教師陣が今回のツアー責任者の彼に別れの挨拶をしていた。実はこの復興資料館は課外演習によく使われるのだ。
教育者からしてみても、複数回見に来てもらって記憶の定着を狙っているのかも知れない。高学年になっていくにつれて、自らの知識のすり合わせが出来るのが意外と気持ちいい。
近くの小学校なんかは六年連続で来館するカリキュラムが組まれて、遠足の一大イベントと化している。復興資料館もその分ツアーの種類を考えなくてはならないが、これも楽しみのひとつにしている職員もいるのかもしれない。




