16 銀河の調停者
博物館から捜査局までの道のりはタープという交通機関を使ってアクセスした。短距離高速交通機関であるタープは、タキオン粒子をセカンドエレメラルエンジン──SeEエンジン──に通して超高速走行を可能にした少人数用移動手段である。人用に調整されたタープは、最高時速千km/hにまで達しさらに完全自動運転であるため人間達の移動に欠かせない存在になっている。
セイルは空路、タープは陸路と区別されていて一般に使われるのはタープであることが多い。
「悪いことにならないといいのですけど」
「ま、着いてから聞くから」
一応、警察官らしい2人組なので敬語を使って会話を仕掛ける彼。彼としてもどういう状況なのか探りたいようだ。ただその思いも虚しく、男には素っ気ない対応で少女は無言で見つめるばかりでとてもマトモに交流出来そうにないようだ。
「…」
高速移動する車内は、ただ気まずい沈黙が流れるばかりであった。
今、彼らが向かっている場所は、湖の上に建っている。一本の橋で繋がれたそこは絶海の孤島のような出立ちである。橋の入り口には検問もあり、そもそも一般人が近づくことさえ出来ないだろう。
タープを降りて彼が来たのは、地球圏平和維持機構地域監察庁アジア地域極東支部刑事捜査二課。そこに彼は中年男性に先行されながら受付を通って建物内部に連れて行かれていった。
前を行く男は全くの無言で、会釈のみでその場をかいくぐっていく。少女は彼の後方につけてまるで挟み撃ちの陣形だ。必然的に、部外者の彼に職員たちから視線が集まるのはご愛嬌といったもの。無愛想を地で行く彼であってもむず痒さを感じていた。
彼はその後もしばらく歩いて、人が多い空間から気配がまるでない奥の奥まで連れて、ついに突き当たりのエレベーターまで到達した。ここで彼が辛抱たまらず、前を行く男に質問を投げる。
「失礼。あまり経験がないのですけど、事情聴取ってこんな場所でやるのでしょうか?」
「…さてね、普通はこういう場所じゃ無いと思うけどね。さぁ入って」
無機質なエレベーターは彼を迎え入れる。まるで未知の怪物の胃袋に誘われているかのようだ。
先に入っていた男は不気味に微笑みを浮かべていて、さらに背後を見れば無表情の少女がいる。彼にとってみれば安心できるには程遠い。
多少の浮遊感をもって、エレベーターは下へと行く。受付から入ってきて階段を使っていないことから、行く先は地下であるようなのが彼にも考えがつく。
しばらくして目的地に到着し、「開きますよ」と男の声を聞いた彼は喉を鳴らした。
彼にとってみれば、ただのお話しだったはずなのに得体の知れない場所に連れてこられたのだ。彼は緊張と不安をもって、開かれる扉の先を注視した。
◆◆◆
地下は暗がりが広がっていくだけであった。唯一、床に赤い光が道標のように二本の直線を奥まで伸ばしている。
ひとつの躊躇もなく傍らの男が動くのを見て彼もそれに続いていく。彼は疑問を多く持っているが、それを質問しないようだ。少なくとも自分ならば、最悪があっても切り抜けられるという余裕があるからだ。
先日の銀河超獣を消し去ったあの力があれば、どのような障壁であっても彼の行く先を遮ることはできない。
しばらくしてとある部屋へと案内された。その部屋は部屋の中心に机と椅子がある。椅子は机を挟んで2脚あって、机には手のひらサイズのインターフェースがひとつ鎮座している。
あまり広くなく、圧迫感すらある無機質な部屋だ。
「申し遅れたね。私の名前はヴィルだ。一応公安ってやつで政府の公安調査庁に所属している者だ。この上の施設は部署が違うけど、守る対象が違う程度なんだよね」
「はぁ…」
彼とヴィルは向かい合わせに座った。いつの間にか少女はいなくなっている。
椅子に腰掛けたヴィルは机の上のインターフェースを触って、一つの動画を彼に見せる。
「今日、君を連れて来た件はこれだ」
◆◆◆
6839-11-17-23-34。夜、道路に1人の男が歩いている。どこか軽やかさを感じさせる足取りで、口は何かに話しかけているような動きが見える。
どうやらこれは記録映像で音は聞こえないようだ。
6839-11-17-23-37。別の角度からの男の様子だ。すぐ角を曲がって見えなくなる。
6839-11-17-23-38。さらに別のカメラ映像。男が建物の陰で立ち止まっている。地面に落ちた物体を拾ってなにやら観察しているような雰囲気だ。
その瞬間、男が消えてその場所に何か大きなモノが映り込む。
6839-11-17-23-40。先ほどのカメラより遠い映像だ。かなり遠い場所に先ほどの男がいるのが分かる。男が相対している大きな黒い影のようなモノが飛び上がった瞬間、光が明滅した。刹那、画面が白く塗りつぶされ、そこで映像が終わった。
◆◆◆
一連の映像を見終わった彼は少しばかり苦い顔をしていた。まさか見られていたとは、と油断と慢心を恥じたのだ。
その彼の表情は予想通りだったかのようなヴィルは、さっきまでの声のトーンを変えずに話し出した。
「事件は君が犯人だ。…君に質問したい、この力はなんだ?」
「答えたくありません」
彼の苦い顔はヴィルに話しかけられて無表情に戻った。彼の腹は探られると痛い、特に能力の話は彼にとって知られるのは都合が悪い。
彼の言ったERSAarというのは最上級の機密事項である。
「答えられないと言われてもね、小さいとは言え銀河超獣を一撃で消し去る力は余りにも危険だよ」
「…」
「なに、君を逮捕しようって話じゃないんだよ。こんな所に連れてきたのは別の話だ」
彼は聞きながら疑問に思う。ヴィルの表情は不穏にも少しにやついている。
「君を勧誘したいと思っている」
「勧誘……とは?」
「ぜひ我々に協力してほしい。銀河超獣から我々を、人類を救ってくれ」
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